トレンド
Dell Technologies World 2026 参加レポート ~データと運用を最適化するAI基盤のあり方~
2026.07.08

GPUエンジニア
山崎 秀徳

【目次】
1. Dell Technologies World 2026に参加して
2026年5月、米国ラスベガスで開催された Dell Technologies World 2026 に参加しました。
Dell Technologies Worldは、Dell Technologiesが年に一度開催するグローバルイベントです。
Keynote、個別セッション、製品展示を通じて、同社の最新技術や今後の方向性を体感できる貴重なイベントとなっています。
今年もラスベガスのThe Venetian Expoを会場に、Keynoteや多数の個別セッション、製品展示が開催されました。
会場には、Asia Pacific Japan & China、North America、Europe, Middle East & Africa など、地域別のブースも設けられていました。
各地域の参加者が情報交換を行える構成になっており、グローバルイベントでありながら、地域ごとの関心や課題にも触れられる場になっていた点が印象的でした。
今回のDell Technologies World 2026を通じて強く印象に残ったのは、
AIがもはや「試すもの」ではなく、企業の業務やインフラを支える前提へと移行しつつある点です。
単なるツールとしてではなく、「AIを前提に業務やIT基盤を再設計する」フェーズに入っていることが、Keynoteや各セッションから明確に示されていました。

会場内に設けられた地域別Hub(Asia Pacific Japan & China/North America)の様子(NTTPC社員撮影)
2. Keynoteが示した、AIが企業を動かす未来
Day 1 Keynoteでは、Michael Dell氏から、AIがもはや単なるアプリケーションや機能ではなく、企業活動そのものを支えるインフラになりつつあることが語られました。
医療、製造、半導体、産業オートメーションなどの事例を通じて、AIが実験段階を超え、実際の業務成果に結び付き始めていることが示され、Eli Lilly、Samsung、Honeywell、Ascensionといった企業の取り組みは、AIが業界ごとの課題解決に入り込んでいることを象徴しています。
特に重要なのは、AIが「相談相手」から、実際に業務を運用する「デジタルワーカー」へと位置付けられている点です。
これは単なる効率化ではありません。業務の主体が人からAIへ一部シフトしていくことを意味しており、企業の設計思想そのものに影響する変化です。
これまでの生成AIは、文章作成や要約、調査支援など、人間の作業を補助する存在として見られることが多かったと思います。
しかし、今回のKeynoteでは、AIエージェントが計画し、実行し、結果を確認し、改善するという、業務フロー全体を担う方向へ進化していることが示されました。
これにより、企業に求められることも変わります。
既存業務にAIを後付けするのではなく、最初からAIエージェントが自律的に動くことを前提に、業務プロセス、権限管理、ガバナンス、セキュリティを再設計する必要があります。
AIは「便利なツール」ではなく、企業の働き方やシステム設計を変える前提条件になりつつあると感じました。

Day1基調講演の会場の様子(NTTPC社員撮影)
3. AIはデータのある場所で動く
今回のKeynoteで印象に残った考え方の一つが、「AIにデータを移動させるのではなく、データが存在する場所でAIを動かす」という方向性です。
AI活用というと、データをクラウドへ集約し、そこで処理するイメージを持ちやすいかもしれません。
しかし、企業データには、機密情報、個人情報、知的財産、業務ノウハウなどが含まれるため、すべてを外部環境に移動できるわけではありません。
また、製造、医療、産業オートメーションなどの事例を通じて、AIをデータや業務の現場に近い場所で活用する考え方も示されていました。
Day 1 Keynoteでは、Dell TechnologiesのAI導入調査として、AIワークロードの67%がクラウド外、すなわちオンプレミス、デバイス上、エッジ、コロケーションなどで稼働していることが紹介されました。
Dell公式ブログでも、Dell Technologies World 2026では、分散型・ハイブリッド・オンプレミスAIが、企業のAI活用を支える重要なテーマとして取り上げられています。
これは単純にオンプレミスへ回帰するという話ではなく、データの性質や利用目的に応じて、AIをどこで動かすかを前提に設計する必要が出てきていることを示しています。
機密性、セキュリティ、ガバナンス、コストなどの観点を踏まえると、クラウドかオンプレミスかの二択ではなく、データの所在や用途に応じて最適な実行場所を選ぶ考え方が、今後より重要になっていくと考えられます。
4. トークンエコノミクスが変えるAI基盤の考え方
もう一つの大きなテーマが、AI利用の拡大に伴って増大する推論コスト、特にトークンコストです。
AIの利用が広がるほど、推論処理の回数は増えます。
特にAgentic AIでは、AIが単発で回答するだけでなく、考え、計画し、ツールを使い、結果を確認し、再度考えるという処理を繰り返します。
つまりAIの価値は、「どのモデルを使うか」だけでなく、「どこで推論するか」と「どれだけコストを制御できるか」によって決まる時代になってきています。
そのため、従来のチャット型AIと比べて、推論回数やトークン消費が増えやすく、コスト管理の重要性も高まります。
こうした背景もあり、Dell Technologies World 2026では、Agentic AIの普及に伴う計算需要の増加や、それを支えるAI基盤の重要性が繰り返し示されていました。
今後、AI活用が広がるにつれて、「どのモデルを使うか」だけでなく、
「どこで推論するか」
「どの程度のトークンを生成するか」
「そのコストをどう最適化するか」
といった観点も、より重要になると考えられます。
こうしたテーマは、AI導入部門だけでなく、情報システム、経営企画、事業部門など、さまざまな部門が関わりながら検討していくものになると思います。
AIを一時的に試すだけでなく、継続的に活用していくためには、技術面だけでなく、コストや運用面も含めた設計が大切です。

Jensen氏の象徴的なサインシーン(NTTPC社員撮影)
5. Expoで見えた、AI基盤の現実感
Keynoteやセッションだけでなく、Expoの展示も非常に印象的でした。
入口やDellブースでは、二足歩行ロボットのデモンストレーションも行われていました。
通常歩行やハイキックのような動作が披露され、以前に見た二足歩行ロボットと比べても、動きの安定性や関節まわりの自然さが印象に残りました。
Physical AIやロボティクスへの関心の高まりを示す展示でした。
一方で、展示全体を通じて主役となっていたのは、ロボティクスそのものではなく、それを支えるAI基盤やデータ基盤でした。
ロボティクスは将来性の高いテーマである一方、短期的にはAIを動かすための基盤整備が先に進むという印象を持ちました。

二足歩行ロボット(NTTPC社員撮影)
さらに、液冷関連の展示では、単に冷却性能を高めるだけでなく、運用・保守を意識した仕組みも紹介されていました。
その一つが、液漏れを検知しバルブを自動で閉めるデモンストレーションです。
次世代GPUではラック単位の電力密度が高まり、液冷を前提とした設計がより重要になります。
そのため、今後はサーバーの性能だけでなく、CDU、配管、漏水検知、電源、ラック設計などを含めて、インフラ全体をどう安定的に運用するかが重要になります。
今回のデモは、その中でも「異常が発生した際に、影響範囲をどこまで小さく抑えられるか」という観点で興味深いものでした。
現在はラック単位で止める必要があるケースもありますが、将来的にサーバー単位でバルブを制御できるようになれば、障害時の影響範囲を限定しながら保守対応できる可能性があります。
液冷設備の導入が進むほど、こうしたサーバー単位での保護・制御の仕組みは、運用・保守の面で大きな効果を持つと感じました。

液漏れ検知のデモンストレーション(NTTPC社員撮影)
このほか、会場では量子コンピューター関連の実機展示も行われていました。
今回の記事の主題であるAI基盤とは少し異なる領域ですが、装置の規模や構成から、将来のコンピューティング技術の一端に触れられる展示だったと感じます。

量子コンピューターの実機展示(NTTPC社員撮影)
6. GPUだけではない、AIを支えるデータ基盤
AI基盤というとGPUサーバーに目が向きがちですが、今回のDell Technologies World 2026では、データ基盤やストレージの重要性も印象に残りました。
AIを活用するうえでは、モデルそのものだけでなく、必要なデータをどのように準備し、どのようにAI処理へ渡すのかも大切な要素になります。
GPUの性能を活かすためには、データの置き場所、加工方法、アクセス性能を含めた設計も欠かせません。
Dell AI Data Platformに関するセッションでは、AIのデータパイプラインにおいて、データ準備、データレイク、高性能フラッシュ層、並列ファイルシステムがそれぞれ異なる役割を持つことが説明されました。
PowerScaleはファイル、ObjectScaleは大規模オブジェクト、Lightning File Systemは高性能な並列ファイルシステムとして紹介されており、用途に応じて使い分ける考え方が示されていました。
特にRAG、マルチモーダルAI、画像・動画データ、創薬・製造・医療画像のような大規模データを扱う場合、ストレージやデータパイプラインの設計は、AI活用のしやすさに大きく関わる領域です。
AI基盤を検討する際には、GPUサーバーの性能だけでなく、
「データがどこにあり、どのように加工され、どの速度でAIに渡されるのか」
という観点もあわせて見ることが重要だと感じました。

Dell AI Data Platformの効果を示した基調講演スライド(NTTPC社員撮影)
7. AI活用を成果につなげる人材と業務設計
印象に残ったのは、AI活用の成果が組織全体に一律に広がるというより、使いこなしている一部のユーザーが大きな成果につなげているという考え方です。
AIによる利益の大部分は、組織内の上位わずか数%のスーパーユーザーによって生み出されているというメッセージも紹介されていました。
これはAI導入の現実を示しています。
ツールを導入するだけでは成果は出ず、業務に組み込む人材とユースケースの設計が不可欠であることを示しています。
全社員に向けた教育や利用促進も大切ですが、まずはAIを活用して実際の業務成果につなげている人やユースケースを見つけ、それを組織内に展開していく考え方も重要になりそうです。
また、AI投資と人材戦略の関係についても考えさせられました。
一例として、米Forbesは2026年4月、MetaのAI基盤投資拡大と人員削減の関係について報じています。こうした動きからも、AI投資が企業のコスト構造や人材戦略に影響を与え始めていることがうかがえます。
これは、単に「AIが人を置き換える」という話だけではなく、AIを使いこなす力が、今後の働き方や成果の出し方に影響していく可能性を示しているように思います。
だからこそ、日常業務の中でAIエージェントをどう活用し、自分の業務をどう見直していくかを考える視点が、今後ますます大切になるのではないかと感じました。
8. 最後に
Dell Technologies World 2026を通じて印象に残ったのは、AIが前提となる時代へ移行しつつある中で、AI基盤を見る視点そのものも変わり始めていることです。
これまでは、より大きなGPUクラスタを構築することや、より高性能なモデルを使うことに注目が集まりがちでした。一方で今後は、「AIをどこで動かすか」「どのデータに接続するか」「どのように運用するか」「トークンコストをどう最適化するか」といった観点も、より重要になっていくと考えられます。
AIはすでに実験段階を超え、企業の業務プロセス、データ基盤、インフラ設計、コスト構造に少しずつ入り込み始めています。今後は、AIを「導入するかどうか」だけでなく、AIを前提に業務やインフラをどのように見直していくかが、重要なテーマになっていくと考えられます。
NTTPCとしても、AI基盤を単なるGPUサーバーや個別製品の提供として捉えるのではなく、ストレージ、ネットワーク、冷却設備、電源、保守運用、将来的な拡張性まで含めて考えることが大切だと考えています。
特に、オンプレミス、クラウド、エッジを組み合わせたハイブリッドなAI基盤や、段階的に拡張できる構成、液冷を含む設備面の対応は、今後お客さまのAI活用を支えるうえで重要なテーマの一つになると考えています。
今回の参加を通じて、AIを活用する企業にとっても、AI基盤を提供する企業にとっても、製品単体ではなく、データ、AI、インフラ、運用をどのように組み合わせて設計していくかが、今後ますます重要になると改めて認識しました。
最後になりますが、今回このような貴重な機会をいただいたDell Technologiesの皆さま、そして現地で情報交換させていただいた皆さまに感謝申し上げます。
本イベントで得た学びを、今後のお客さまへの提案やAI基盤の検討に活かしていきたいと思います。
※Dell Technologies、DellおよびDell Technologiesの製品名・サービス名は、Dell Inc.またはその関連会社の商標または登録商標です。
※SamsungおよびSamsungの製品名・サービス名は、Samsung Electronics Co., Ltd.の商標または登録商標です。
※Metaは、Meta Platforms, Inc.の商標または登録商標です。
※Forbesは、Forbes Media LLCの商標または登録商標です。
※その他、本文中に記載されている会社名、製品名、サービス名は、各社の商標または登録商標です。




