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ネットワークの祭典「JANOG55 Meeting」をGPUエンジニア目線で歩いてみた
2025.02.28

GPUエンジニア
石渡 巧

みなさん、こんにちは。NTTPCでGPUエンジニアを担当しております石渡です。
私はGPUサーバーのエンジニアとして、普段は生成AIなどの基盤構築を行っています。ネットワークの知識はサーバー業務に付随する範囲にとどまるものの、ハードウェアインフラには精通しています。そんな自分がJANOG55に参加し、GPUエンジニア目線でこのイベントをどう感じたのかをレポートしたいと思います!
JANOGとは?
JANOG(Japan Network Operators' Group)は、日本のネットワーク運用者コミュニティであり、年に数回のミーティングを通じて、インターネット技術や運用の最新トレンドについて情報を共有しています。ISP、クラウドプロバイダー、データセンター事業者、企業ネットワーク担当者など、さまざまな分野のエンジニアが集い、リアルな課題やノウハウを議論します。
JANOGミーティングの特徴として、商業的なイベントと異なり、実際に運用に携わるエンジニアたちが中心となって企画・運営を行うことが挙げられます。そのため、技術トレンドの紹介にとどまらず、現場での具体的な運用経験や失敗事例が共有されるのが大きな魅力です。JANOG55では、当社社員の岩片も企画編成委員として参加しています!
企画編成委員(Org) – JANOG55 Meeting @Kyoto
また、JANOGの運営には学生団体も積極的に参加しており、次世代のネットワークエンジニアを育成する場としても機能しています。学生がNOC(Network Operations Center)の構築や運営に関わる機会が提供され、実践的な経験を積める貴重な場となっています。
JANOGミーティングには毎年当社社員が参加しています。過去の参加レポートについては下記もご参照ください。
新入社員が行く!JANOG54ミーティングレポート|【技業LOG】技術者が紹介するNTTPCのテクノロジー|【公式】NTTPC
入社1年目社員の「JANOG53ミーティング」レポート|【技業LOG】技術者が紹介するNTTPCのテクノロジー|【公式】NTTPC
JANOG53 Meeting参加レポート ~400Gbpsネットワークの現在地は?~|【技業LOG】技術者が紹介するNTTPCのテクノロジー|【公式】NTTPC
JANOG55の来場者数
今回私が参加したJANOG55は、2025年1月22日(水)~1月24日(金)の3日間、京都市で開催されました。私はこのうち1日目に参加しました。
3日間全体では過去最大規模となる 4,096人 が登録し、 現地参加者は3,867人、オンライン参加者は229人 という驚異的な盛り上がりを見せました。特に、AIやクラウド技術の進化に伴い、ネットワークとシステムの境界が曖昧になりつつある中で、GPUエンジニアとしても興味深い議題が多く見受けられました。
イベントでは、技術セッションだけでなく、企業ブース、NOC(Network Operations Center)の運営体験、交流イベントなど、エンジニア同士がリアルに知識を交換する機会も充実していました。

<<今回の会場である、みやこめっせ京都(筆者撮影)>>
名札の受け取り

会場に入って最初に行ったのが 名札の受け取り です。他のカンファレンスと違い、自分の名札を あいうえお順のテーブル から探し出すスタイルになっており、参加者は自分の名札を見つけるところからJANOGの世界に足を踏み入れることになります。
JANOGはこのあたりをオープンにしているので、よく見ると知った名前の方が見つかったり、意外な企業の方が参加されていたりとユニークな文化だな~と思いました。
QRコードを使ってチェックインした後、自分の名札をピックアップし、ストラップをつけることで受付完了。
また、受付ではネットワークや技術にちなんだステッカーも配布されています。私は「I LOVE 💓AI」と「I LOVE JANOG」のステッカーをもらいました笑
名札を受け取った後、セッションプログラムが始まるまでの時間を利用し企業ブースを見学しました。
ちなみに当社もブース出展しています。AIで運用を自動化する企業向けの統合ネットワークサービス「Prime ConnectONE🄬」を紹介していました。
サービスサイト:https://www.nttpc.co.jp/service/product/prime-connectone/

NTTPC Prime ConnectONE🄬ブース

展示会場案内図(筆者撮影)
企業展示ブースでは、光通信事業者が最新の光ファイバーインフラを紹介していたほか、セキュリティ分野ではゼロトラストのソリューションが多数展示されていました。
機器の展示も多く、高帯域のネットワーク技術として400G/800G対応のAOCケーブルやトランシーバが展示されていたのは興味深かったです。AIモデルの分散学習を行うときは、GPU間の通信速度がボトルネックになりがちなので、高バンド幅のネットワーク技術が欠かせません。
また、Wi-Fiの新技術「Wi-Fi HaLow」も面白かったです。900MHzの周波数を使い、他の周波数と干渉せず、低消費電力かつ長距離通信が可能なWi-Fi規格ということでアピールされていました。最近はエッジAIが流行っていて、推論処理をエンドデバイスでやるケースも増えてきています。Wi-Fiが進化すると、エッジデバイスとクラウドのデータのやり取りがスムーズになり、リアルタイム推論の可能性が広がるなと感じました。(個人的にはオンプレミス派なんですけどね)
データセンター向けのネットワーク機器の展示では、省スペース化・省電力化を意識したソリューションが多かったのも印象的でした。
AIモデルを回すGPUクラスタは電力消費がものすごいので、こういうネットワークインフラの進化は本当にありがたいです。GPUの消費電力は性能比で上がっていく一方、今の日本は電気設備インフラが追い付いていないという背景もあります。
当社では電力インフラの問題もクリアした提案ができるよう、日々メーカーとの連携を強めています。
これらの展示を見て改めて思ったのは、AI基盤とネットワーク技術は切っても切れない関係にあるということ。ネットワークが速くなれば、AIのパフォーマンスも向上し、より高度なモデルを短時間で回せるようになります。今後の技術進化がますます楽しみになりました。

企業ブース会場は大盛況!(筆者撮影)
【セッション】トヨタ自動車様の分散計算基盤と長距離RDMA
初日のセッションの中でも特に興味を引かれたのが、トヨタ自動車株式会社様の「AI/ML基盤におけるGPU間ネットワークの負荷と性能影響を探る」というテーマです。分散計算基盤に関する発表で、AI/MLの大規模学習に必要なGPU間通信の最適化や、北海道の再生可能エネルギーを活用した計算基盤の構想について詳しく説明がありました。
発表資料やアーカイブ配信は下記URLで公開されています。ぜひご覧ください。
https://www.janog.gr.jp/meeting/janog55/gpupfm/
※アーカイブ公開期間は2025年7月下旬までを予定しています。
AIの分散学習では、GPU間の通信が重要な要素となります。データ並列やテンソル並列といった手法により計算リソースを最大限活用できますが、その際にネットワーク帯域がボトルネックとなる課題が指摘されていました。特に400Gb/sや800Gb/sといった高速通信環境の必要性が議論され、これがAIの学習速度に与える影響について詳しく解説されました。
また、セッションの第2部では、トヨタグループとユーラスエナジー(再エネ事業者)が検討している、北海道の風力発電を活用した分散型データセンター構想についての紹介もありました。この計画では、データセンターの電力消費という課題に対し、余剰電力を計算資源として活用することで、より持続可能なAI基盤の構築を目指しています。
特に、風力発電の電力を最大限に活用するために遠距離RDMA技術の導入が検討されており、札幌〜稚内間(約300km)での高速データ転送を想定した実験計画が紹介されました。現時点ではまだ企画段階ですが、これが実現すれば、地理的に分散したGPUクラスタを統合し、効率的な計算資源の運用が可能になると期待されています。
遠距離RDMAでは通信遅延が大きな課題となりますが、トヨタ自動車様の構想ではRDMAアクセラレータを活用し、擬似ACKを送ることで遅延の影響を抑えるアプローチが検討されています。これにより、地理的に離れたGPUクラスタ間で低遅延・高スループットなAI学習環境を構築できる可能性が示唆されました。
このセッションを通して、改めてAIの計算基盤とネットワークは密接に関係していることを実感しました。計算リソースがいくら強力でも、通信がボトルネックになれば、その性能を十分に引き出すことはできません。特に分散学習においては、ネットワークの設計や最適化がAIの効率を左右する重要な要素であると感じました。
トヨタ自動車様の取り組みから、AI基盤の持続可能性やネットワーク技術との融合が今後ますます重要になっていくことが伺えました。AI技術を支えるインフラとして、ネットワークの進化がどのようにAIの可能性を広げていくのか、今後も注目していきたいと思います。
最後に
この日だけでも、多くの技術セッションが開催されていましたが、すべてを書ききることは難しいほど内容が充実していました。どのセッションも非常に興味深く、特にAIとネットワークの融合についての学びが多かったと感じます。
私は初日のみの参加でしたが、それでも得るものは非常に多く、有意義な時間を過ごすことができました。ネットワーク技術がAIの発展にどのように貢献しているのかを深く理解できたことで、今後の業務にも活かせる知見が増えたと感じています。
今回のJANOG55を通じて技術の最前線に触れることの重要性を再認識しました。今後もJANOGや他の技術カンファレンスに関心を持ち、積極的に参加しながら新しい技術を吸収していきたいと思います。