トレンド
【Part2 セッション編】NVIDIA GTC2025 現地参加レポート
2025.04.14

GPUセールス&マーケティング担当
亀谷 淑恵

みなさんこんにちは。NTTPCの亀谷です。
Part1 基調講演編に続き、GTC2025の現地レポートをお届けします。Part1では基調講演の内容を紹介しましたが、今回は基調講演以外で特に印象に残った3つのセッションの内容をレポートします。
【目次】
1. セッション会場
GTC2025では、1,100以上のトークセッションやパネルディスカッション、ワークショップ等が開催されました。メイン会場であるMcEnery Convention Centerだけではすべてのセッションを収容しきれないため、周辺のホテルなどサブ会場でも分散して実施されました。同一時間帯に複数のセッションが開催されるため、タイムスケジュールを案内する掲示板の前では、どの会場に行くべきか悩む参加者の姿も見られました。
しかし悩んでばかりもいられません。セッション会場への入場は先着順のため、収容人数を超えた時点で入場が締め切られることもありました。もし会場に入れない場合でも、ライブストリーミングで閲覧することが可能です。私たちは事前に参加したいセッションをリストアップし、分担して聴講することにしました。

スマホアプリでセッションのスケジュール・開催場所が確認できます
2. セッション内容
基調講演で発表されたNVIDIAの最新プラットフォーム情報や、「フィジカルAI」に関連するロボティクス・自動運転の先進技術を紹介するセッションに特に人気が集まっていました。
本記事では、私が特に印象に残った3つのセッションについて詳しくお伝えします。なお、一部セッションはGTC公式サイトからアーカイブ動画・資料を閲覧できますので、ぜひご覧ください。
GTC公式サイト:https://www.nvidia.com/ja-jp/gtc/
2.1 Quantum Computing: Where We Are and Where We’re Headed
現在普及しているノイマン型コンピューターとは異なるアルゴリズムで動作する量子コンピューター。近年、世界中で研究開発が進み、実用化に向けた確かな手ごたえが出はじめています。従来のコンピューターでは難しかった複雑な問題を解決し、AIや暗号分野でブレイクスルーをもたらすことが期待されています。
本セッションでは、量子コンピューティング業界のリーダー14名が3つのパートに分かれ、NVIDIA CEO Jensen Huang氏とのパネルディスカッションに参加しました。基調講演に次ぐ目玉のセッションとあって、開始2時間前から長い待機列ができていました。私たちは早い時間から並んだおかげで良い席を確保することができました!

パネルディスカッションの様子(NTTPC社員撮影)
パネルディスカッションでは「量子コンピューターの有用性とは何か?」「実用化はいつになるのか?」「量子コンピューターはAGI(汎用人工知能)を実現するか?」といった近未来的なテーマについて、活発に議論が交わされました。
実は量子コンピューターは万能ではなく、現在のコンピューターが行うすべての作業を置き換えられるわけではありません。例えば、超高速でExcelを実行するのは従来型コンピューターの得意分野です。しかし量子コンピューターは、巡回セールスマン問題や化学シミュレーションなど、古典的なアプローチでは計算に数百万年もかかるような課題に対して強みを発揮します。また、現状のスーパーコンピューターよりも省スペース・省電力な実装が可能と言われています。すでに「QPU」と呼ばれる量子プロセッシングユニットが実用化されています。
さらに、GPUを使用することで、量子コンピューターの動作や性能を詳細にシミュレートでき、量子コンピューターの限界を超える計算も可能になると言われています。
IonQ社の Executive ChairであるPeter Chapman氏は、「将来的には、与えられた問題に応じて量子コンピューター、CPU、GPUのどれを使うかを選択する時代が来るだろう」と語ります。今後は、学習は量子コンピューター、推論は従来型コンピューターと役割によって使い分けたり、量子コンピューターが作ったモデルをコンパイルして従来型コンピューターでデコードしたりするなど、CPUやGPUとシームレスにつながるQPU・量子コンピューターを活用することで、より広く複雑なワークフローを実行することができるでしょう。

IonQ 会長Peter Chapman氏
NVIDIA自身が量子コンピューターの開発を行うことはないとのことでしたが、量子コンピューティング市場の拡大を支援する方向性を示しました。2025年中にNVIDIAはボストンに量子コンピューティングに関する研究所を設立し、スタートアップや大学など多くのパートナーと共同研究を行うということです。
「1年後には、量子コンピューターと連携して働くAIエージェントの具体的なユースケースを目にすることになるだろう」という予測も飛び出し、満席の会場は大いに盛り上がりました。
2.2 The Promise of Humanoid Robots: Research vs. the Real World(Presented by Boston Dynamics)
基調講演でも「フィジカルAI」実現のためのロボティクス技術が大きく取り上げられていた通り、今回のGTCでは自律的に動作するヒューマノイドロボットに関するセッションや展示が注目を集めていました。
中でも、Boston Dynamics社のCTOが登壇したセッションに人気が集まっていました。
同社が開発した、不安定な足場でも安定して動く四足歩行ロボット「Spot」を見たことがある方も多いのではないでしょうか。2024年4月には、二足歩行ロボット「Atlas」の電動式新モデルを発表しました。本セッションでも、最新ロボットのデモンストレーションが数多く紹介され、来場者を驚かせました。
ある動画では、二足歩行ロボットが強化学習を活用して、ダイナミックかつ精密な全身制御を行う様子が映し出されました。ロボットは狭い部屋の中でダッシュや側転といったアクロバティックな動きを披露します。
私が驚いたのは、このデモは狭めの工作室のような場所で行われており、ロボットのすぐそばには人間が立っている点です。ロボットが周囲の環境を正しく把握し、決して隣の人や付近の棚にぶつからないよう危機回避できていることがわかりました。
ロボットを制御するための技術要素である知覚、知能、操作スキル、全身制御は革新的な変化を遂げており、これまでのモデルベースの制御から、エンドツーエンドの行動モデルへと進展しています。ロボットの学習データを収集するために、デジタルツインシミュレーションやインターネット上の膨大なデータが活用されています。これにより、ロボットは細いケーブルや雨水、窓ガラスなど、肉眼でも見えづらいような障害物も正確に知覚できるようになってきています。
次に、自動車工場内での部品移動を行う汎用人型ロボットのデモが紹介されました。このロボットは、異なるサイズ・形状の部品(エンジンカバー)を事前に決められた順序に従って棚から取り出し、180度振り返って数m先にある別の棚に収納する作業を実演しました。それぞれのエンジンカバーの大きさや形状は少しずつ異なります。また取り出す棚としまう棚のサイズ・向きが異なるため、ロボットは棚の向きに合わせて部品の収納角度を変えるというテクニックを用います。
動画の中で、人型ロボットは5本の指で棚から部品を取り出し、目的地の棚までスムーズに歩行します。ここまでの動作にまったく不安な部分はありません。
しかし、最後に棚にしまうときにややまごついてしまいます。特殊な形状であるエンジンカバーを立てて収納するためには、棚の開口部に合わせて慎重に差し入れる必要があるのです。ロボットは何度か失敗したものの、再挑戦し収納することができました。
講演者であるBoston Dynamics社CTOのSaunders氏は、このようなロボットの活用シーンを示し、「現在のロボットは特定のタスクを遂行できるものの、あらゆる状況に対応できる汎用ロボットにはまだ遠い」と指摘しました。
企業がロボットを採用するためには、まず「ロボットにどんな作業をさせたいか?」を明確に定義することが重要です。人型ロボットを企業内・公共の場に導入したいという声は多く寄せられますが、用途によっては、ドローンやロボットアームなど、決まった作業に特化した産業用マシンがニーズを叶えられる場合もあります。
さらに、ロボットを公共の場や企業内で活用する際には、適切な安全設計を行うことも忘れてはいけません。周囲にぶつからないよう知覚機構を持たせたり、ぶつかっても危険性が少ない素材にしたりするなど、事故を防ぐことは基本中の基本です。悪意を持った第三者に乗っ取られないよう、セキュリティ面の配慮も不可欠です。
Saunders氏は、これらの条件を踏まえたうえで、ロボット導入に向けたロードマップを整備することの重要性を強調しました。
2.3 Placing Frontier AI in Your Hands(Presented by Mistral AI)
Mistral AIは2023年4月にフランスで創業したスタートアップで、オープンソースAIモデルのリーディングカンパニーとして知られています。同社は、より自由で柔軟なAIモデルの提供を目指しています。
今でこそ、私たちはLlamaやCyberAgentLLMなどのオープンソースLLMを利用することができますが、2023年当時の主流であったOpenAI社のモデルはクローズドな設計でした。モデル内部でどのような学習が行われているかを詳しく閲覧することはできず、ユーザー側でのカスタマイズにも制限があるため、利用者は参照元であるLLMの応答結果に左右されることとなります。
このような状況を受けMistral AIは、2023年8月に独自のTransformerモデルである「Mistral 7B」を発表。これを皮切りに、オープンソースAIの開発を積極的に進めています。同社はオープンソースの利点として、以下の3つを挙げています。
- 安全性:透明性の高い設計により、AIモデルの信頼性が向上
- デプロイの柔軟性:多様な環境での利用が可能
- カスタマイズ性:独自のニーズに合わせたモデルの調整が可能
特に③カスタマイズ性に優れている点が強調され、利用企業が競争力を高めるための大きな利点として、自社だけの強みを持ったLLMを生み出すことができる点が強調されました。
また、最近リリースされた「Mistral Small 3.1」は、効率性を最大限に追求した24Bパラメータモデルです。テキスト・画像系のタスクにおける最先端の性能を発揮し、複数の言語をサポートしつつ、少ないパラメータ数で高速に動作するため、ラップトップPCやプライベートクラウドなどさまざまな環境で安全に利用できる点が説明されました。
さらに、同社はチャットボット「Le Chat」を無償で一般公開しました。他のモデルと比較することで、Mistral AIの技術優位性を実感してほしいと述べられました。
Part3記事では、400社以上が出展した展示ブースの中から、特に注目を集めていた展示についてレポートします。