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NVIDIA AI Summit Japan2024 現地参加レポート

2024.12.27

GPUセールス&マーケティング担当 亀谷 淑恵

GPUセールス&マーケティング担当
亀谷 淑恵

みなさんこんにちは。NTTPCでGPUセールス&マーケティングを担当する亀谷です。
2024年11月12日~13日に都内会場で開催された「NVIDIA AI Summit Japan 2024」に現地で参加しました!

「NVIDIA AI Summit Japan」とは、NVIDIAが主催するコーポレートイベントであり、日本のほか、2024年度は台湾、アメリカ(ワシントンDC)、インドでも開催されました。今注目の生成AIや産業デジタル化、ロボティクスや大規模言語モデル(LLM)など、AI における各分野のリーダーたちから貴重な洞察や知見を得られる注目のイベントです。

ちなみに、毎年3月頃に開催される「NVIDIA GTC」とは別のイベントです。GTCについて詳しく知りたい方は過去の当社レポートもご覧ください。
GTC2024レポート:NVIDIA GTC2024 現地参加レポート(基調講演編)|GPUならNTTPC|NVIDIAエリートパートナー

ここ数年はオンラインのみでの開催が続いていましたが、今回は6年ぶりのオンサイト開催となり、東京都港区の「ザ・プリンス パークタワー東京」で開催されました。完全招待制のイベントでしたが、当社もNPN(NVIDIA Partner Network)エリートパートナーとして参加枠を頂くことができました。

今回の目玉はなんといっても、NVIDIA の創業者/CEO のJensen Huang氏と、ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役 会長兼社長執行役員 孫 正義氏との対談(ファイヤーサイドチャット)です。世界的なテクノロジーリーダーシップを持つ両社のトップが日本で対談するということで、あらゆる産業に大きな影響を与える内容になることは間違いありません!

また、ファイヤーサイドチャット以外にも、生成AI/LLM、スマートシティ、ロボティクス、デジタルツインなど、各ジャンルに関するNVIDIAからの最新情報発表や、各業界で変革に取り組む企業・団体による60 のセッションやライブデモが行われました。さらに、各スポンサー企業のブース出展も行われ、現地は大盛況でした。

本記事では、ファイヤーサイドチャットやその他セッションの内容、注目の展示ブースなど、NVIDIA AI Summit Japan現地の模様を詳しくお届けします!

1. セッション

1.1 ファイヤーサイドチャット

“完全招待制”ということで、ある程度参加人数が限定されたイベントなのかなと(勝手に)思っていましたが、講演開始20分前にはすでに長蛇の列ができていました。聴講者全員がホールに入りきらない場合に備え、サテライト会場も用意されていたようです。なんとかメインホールの端に着席することができました。


ギリギリHuang氏が目視できます(NTTPC社員撮影)

Huang氏は「NVIDIA GB200 Grace Blackwell Superchip」を片手に登場します。NVIDIAの設立当初からのパートナーであるSEGA社や、本イベントのスポンサー企業など、日本のGPUユーザー/パートナーに謝辞を述べた後、これまでのNVIDIAの歴史を振り返ります。


「NVIDIA GB200 Grace Blackwell Superchip」を手に登場(NTTPC社員撮影)

NVIDIAの発明品の中で、最も偉大なものの一つが「CUDA」といえるでしょう。GPUプログラム開発言語としてリリースされたCUDAは、ディープラーニング用の「cuDNN」や、量子コンピューティングのための「CUDA-Q」に代表されるように、幅広いジャンルの開発に最適化されたエコシステムを拡大しています。
CUDAとGPU技術が「テキスト×動画」「テキスト×音声」、「画像×タンパク質組成」など、異なる入力を掛け合わせたマルチモーダルAIを発展させることで、世界中で次々と新しいアプリケーションが生まれています。「まさにカンブリア爆発のようだ」と表現されていたのが印象に残りました。


CUDAのエコシステムをおさらい(NTTPC社員撮影)

ChatGPTが登場してから早2年。生成AIは私たちの日常にすっかりなくてはならないものとなりました。学習データが増えればそれに従って精度も高まるという「スケーリング則」にのっとって、生成AIは今後もまだまだ発展が進み、それに伴って演算リソースであるGPUもまだまだ必要とされるだろうとHuang氏は予言します。

1基あたりのGPUの演算性能が上がればさらに高集積化が進み、必要な電力量も小さく済みます。何かと「電力食い虫」のように言われがちなGPUですが、環境への配慮の観点からも、NVIDIAは毎年新たなGPUアーキテクチャを発表して利用者の期待に応えています。

時折日本語のジョークを挟み聴講者を沸かせつつ、「AIってなんでしょうか?私たちはAIをどう活用できるのでしょうか?」と、ハッとするような疑問を投げかけるシーンもありました。NVIDIAは、ユーザーが最終的に利用するAIサービスを作るわけではなく、そのためのエコシステム、サービス開発のための基盤を広く提供しています。今後も世界のスタートアップ企業やコンサルタントなどのパートナーとの連携を深めていくという方針が打ち出されました。


日本企業とのパートナーリングも拡大

また、キーワードとして繰り返されたのは「自律型AIエージェント」と「フィジカルAI」です。

NVIDIA NIMによって作られた「AIエージェント」のJamesが、PDFの複数の論文を読み込んでその内容を要約し説明したり、執筆者に代わって質疑応答を行うデモが公開されました。


デジタルヒューマンインターフェースによる論文要約のデモ

単一の命令に従って動くだけでなく、複雑なステップが存在する問題に対して、自ら筋道立てて解決できる自律型AIエージェントを活用することで、人間の業務の50%は代替されると言われています。”AIが人の業務を奪う”という説は、以前から呈されていたリスクですが、Huang氏は「悲観することではない」と言います。AIに代替されない残り50%で、より人にしかできない仕事に集中し、生産性を高めることができるのです。

自律型AIエージェントには、現実空間で柔軟に活動できる拡張型ロボティクス技術「フィジカルAI」が欠かせません。NVIDIA Omniverse™ EnterpriseやIsaac Simを用いた最新のロボットシミュレーションも示されました。


ロボットシミュレーションのデモ

日本には「鉄腕アトム」や「マジンガーZ」など、自ら考えて動くロボットを題材にしたエンターテイメント作品が古くから流行してきました。さらに、世界中で高いシェアを誇る産業用ロボットの大手企業も多くあります。「ここ日本で、ロボティクスAI革命を起こそう!」という前向きな提言がなされました。

ここでいよいよソフトバンクグループの孫社長が登壇します。冒頭、なんと孫氏が過去にNVIDIAの最大株主だったことが明かされました。


Huang氏と孫氏は古くからの友人同士(NTTPC社員撮影)

ここでソフトバンクグループが、計25exaFLOPSの計算性能を持つ日本最大のAIデータセンターを国内5箇所に建設していくことを発表しました。


SoftBankのAIファクトリーを発表

孫氏は、「ソフトバンクグループ配下のLINE社やYahoo、PayPayでも、このAIデータセンターのリソースを活用して、AIを使ったサービスを出していく」という方針を語ります。
「日本はこれまで”ものづくり”を突き詰めてきたが、その反面で”ソフトウェア”は軽視される傾向にあった」と孫氏は言います。自律型AIエージェントが普及する未来では、人間と友達になれるようなハートを持ったロボットが求められていくでしょう。そのためにはソフトウェア開発の技術も重要です。すでに時代はリセットされ、日本でも多くのソフトウェア技術者の育成が急務となっています。

幸いなことに、日本政府はAIによる改革にブレーキをかけない方針を続けています。日本で働く私たちにとって、これは大きな追い風です。
「我々はAIエージェントをすべての人々に届けていきたい」と固い握手を交わし、セッションは締めくくられました。

1.2 日本における生成AIの現在と未来

続いて参加したのは、東京大学 松尾 豊教授による、日本における生成 AI の進歩や政策、ビジネス戦略への影響を探るセッションです。


こちらも超満員です(NTTPC社員撮影)

実は、当社のオープンイノベーションコミュニティ「Innovation LAB」にも、松尾研発ベンチャーのパートナー企業が多く加盟されています。いずれも、驚くほど高い技術力を持った若手アントレプレナーの方々が、高い志を持って創業されています。優秀な人材を多く輩出する松尾教授の考える、日本の生成AI研究の競争力や今後の可能性を知るために聴講しました。
ディープラーニングの世界では、過適合(学習データを増やしすぎると、与えられた学習データの特長だけを過剰に学習してしまい、学習データ以外の未知のデータでの予測精度が落ちる)というリスクがあります。これを防ぐため、研究者は正則化などさまざまな手法を生み出してきたのですが、LLMにおいては、学習データを増やせば増やすほど上限なく精度が高まるという「スケーリング則」が知られています。LLMでは過適合は起きないのでしょうか?

LLMでも過適合は起こりえるものの、それを無視して学習データをどんどん増やしていくと、出力が数学的な特徴をとらえたものに変化していく事象が見られたとのことです。これはOpenAIが発見した現象で、「Grokking(腑に落ちる)」と言われています。

これは人に例えるなら、新入社員が「なんだか理屈は分からないけれど、とりあえず与えられた仕事を1つ1つこなしていくうちに、ある日突然仕事の全体像を理解する」ようなことに近いのでは?と松尾教授は言います。まだ解明されていないLLMの魅力的な不思議の一つです。


生成AIの基盤技術”Grokking”(NTTPC社員撮影)

2022年、松尾・岩澤研究室の小島氏が「Let’s think step by step」というプロンプトをLLMに与えることで、事前に学習させていない新しいタスクでも論理的な推論を行える可能性を示した論文を発表しました。
参考:Chain-of-Thought Prompting Elicits Reasoning in Large Language Models

このあとすぐにChatGPTが登場し、「プロンプトエンジニアリング」が世間に知られることとなりました。わたしたちが新入社員に「急がば回れで、一つずつ順番に考えてみよう」「頭を柔らかくして、複数の角度から解決案を挙げてみよう」と教えるように、LLMのプロンプトを入力することで精度を向上できることがわかっています。

ファイヤーサイドチャットでも取り上げられた「AIエージェント」は、まさに優秀な新入社員といえるでしょう。
松尾教授は「これまでのAIは主にシングルタスクの処理に特化していたが、自律的にタスクを探索して解決できるのがAIエージェントだ」と述べます。「ECサイトで注文した商品の返品」を例に、AIエージェントができることを説明されていたのが分かりやすかったので紹介します。

もしオンラインショッピングで不良品を買ってしまった場合、返品するためには①購入サイトの返品規定・返品方法を調べ ②購入した際のレシートを探して ③箱詰めして ④指定宛先まで発送する というような一連の流れを行う必要があります。

購入サイトごとに少しずつ異なる返品のルールの調べ方さえわかっていれば、入社したての新入社員でもできることですが、現状のAIにはまだ難しそうです。試しにSiriにお願いしてみましたが、Googleで返品方法を検索してくれるところまででした・・・

「これ返品しておいて」と指示されれば、①~④までの必要タスクを自ら探索して行動できるのが、自律型AIエージェントの目指す姿です。

飛躍的に発展する生成AI技術は、日本国内でもすでにさまざまな分野で活用されています。プレゼン内では、医療分野・ロボット分野・行政機関での導入事例が示されました。

しかし教育者である松尾教授は「『導入して終わり』ではなく、自分の力でAI/LLMを使いこなせる人材を育成することが急務」とおっしゃっていました。そのために、松尾研では学生向けのLLM講座を開講しています。座学だけでなくコンペ形式のカリキュラムも用意され、手を動かしながら学べるプログラムになっています。さらに、受講者は松尾研のLLMオンラインコミュニティに参加することができ、現在では約5,000名規模のコミュニティに拡大しているとのことです。

しかし、生成AIから享受できるメリットが増えるにつれ、プライバシーや基本的人権の侵害リスクなど、さまざまな倫理的問題が発生する可能性も生じます。そのため海外ではAI開発を規制したり、国際的なルール作りを進める向きもありますが、「2024年時点では、日本政府は締め付けすぎないソフトロー路線を取っている」と松尾教授は言います。
もちろん今後もAIの危険性を十分に議論する必要はありますが、AI分野の研究者・開発者にとっては、日本はスピード感を持って技術革新を進めるうえで適した国といえるでしょう。

最後に松尾教授は「最近は日本でも”新しいことをやろう” ”変化を楽しもう”というメンタリティの人が増えてきたように感じている」と期待感をのぞかせました。私たちはいま、生成AIによる歴史の転換点に立ち会っています。今後のさらなる技術の進歩や、それによる世界の変化を楽しみにしたいと思います。

1.3 NVIDIA ソフトウエアスタックで実現する次世代デジタルストアの研究

次に、株式会社セブン&アイ・ホールディングス デジタルイノベーション部 AI・テクノロジーUnitによる、NVIDIA Omniverse™を活用したデジタルストアソリューションの構築のセッションを聴講しました。

セブンイレブンでは、デジタルを活用して「おもてなし接客」ができる有人店舗の売り上げ向上を目指しています。競合コンビニの中には、無人化を進めコスト削減を追求する方針の企業もありますが、セブンイレブンのメインはあくまで「有人店舗」であるところがこだわりです。

店舗に来店する買い物客は、買い物中にさまざまな振る舞いをします。このソリューションでは、店舗内に設置したカメラやセンサーからユーザーの各種データをリアルタイムに取得して、パーソナライズされたおすすめ情報を提供したり、フードロスを削減するための適切な値付けを行うことなどをテーマにしています。

実際の店舗でテストを行うには、高性能カメラやさまざまなセンサーを店舗に設置して、撮影したパーソナルデータを匿名化して・・・とかなり高いハードルがあります。そのためセブンイレブンでは、プライバシーを考える必要がなく、機材設置も不要なバーチャル店舗内で事前に検証を行い、その後リアル店舗に落とし込むことにしました。

2024年初めから開発に着手し、その人にあった商品をレコメンドしたり、商品設置棚へのナビゲーションを行う機能がすでに実装されているとのことです。実装にあたって「NVIDIA Metropolis」「NVIDIA Omniverse™」「NVIDIA Merlin™」の3つのソフトウェアスタックが活用されています。「どれか1つの活用事例はあっても、3つを組み合わせた事例は少ない」とおっしゃっていました。

具体的な実装方法や提供機能は会場限定コンテンツのためここでは紹介できませんが、店内でのユーザー行動を模擬した3DデジタルツインフルHD動画を制作したり、撮影カメラ間をまたがったユーザートラッキングを行う技術は、他の産業でも参考になると感じました。

またプライバシーへの配慮のため、リアルタイムで取得できる情報はユーザーの骨格座標・目線・立ち位置のみに制限されています。コンビニヘビーユーザーの私はちょっと安心しました。
商品棚の座標とパーソナルデータを掛け合わせることで、今この瞬間、ユーザーがどの商品に興味を持っているかを特定します。例えばお肉を手に取っている人へは旬の赤ワイン、枝豆を見ている人にはそれに合うビールといったように、ユーザーは自分の関心のある商品に対するマリアージュの提案を受けることができます。

今後は、デジタルヒューマンによるより詳しい商品案内や、ロボットによる接客誘導にもチャレンジされるということでした。

2. スポンサー出展ブース

■Super Micro Computer Inc.

ハードウェアメーカーの出展が目を引きます。Supermicro社の展示ブースでは、Jensen Huang氏サイン入りのBlackwell GPUサーバーが展示されていたので思わず写真撮影しました。


Supermicro HGX B200水冷サーバー(NTTPC社員撮影)

現行最新製品の「NVIDIA B200 GPU」は、GPU1基あたりの最大消費電力が1,200Wとドライヤー並みです。複数GPUを搭載すればその分消費電力は高くなります。冷却効率を高めるため、サーバーの水冷式ソリューションと合わせて紹介されているのが印象的でした。

■Spiral.AI

今回の展示ブース内には、スタートアップ企業が集まるエリアが設けられていました。
中でも、独自LLMを構築する開発力を軸に、コミュニケーションに注力したAI開発を行う「Spiral.AI株式会社」のデモ展示に人が集まっていました。

私が会話体験したのは、「ククリさま」というツンデレな縁結びの神様です。歯に衣着せぬ物言いで恋愛相談に乗ってくれます。ChatGPTのような優しさはありませんが、このような個性がAIっぽくなくて可愛いと受けているとのことでした。


Spiral.AIのキャラクターチャットボット「ククリさま」

Spiral.AI株式会社では、「Naomi.AI」や「AI野々村真」など、固有の性格を持ったキャラクターチャットボットをいくつもリリースしています。お伺いしたところ、同社のAIキャラクター作成ツール「TwinRoom」を使えば、だれでも1〜2日あればすぐに希望のボットを作っておしゃべりできるとのことでした。

3. まとめ

セッション・展示ブースともにたくさんの人が来場されており、日本国内でもNVIDIAとそれを取り巻くステークホルダーの動向に注目が集まっているトレンドを改めて感じました。

イベント全体を通してテーマになっていた「AIエージェント」は、つい5年前ほど前まではフィクションの世界でしか語られていなかったものの、本イベントではリアリティを持って実装可能な技術として登場しました。人間のように汎用的な知能を持つAGI(汎用型人工知能)の実現も、もはや夢ではなくなっているのだと驚きました。

現在世界中で起こっている ”生成AIによる産業革命” の現場に立ち会えることに非常にワクワクしています。当社も生成AI/LLMのインフラ基盤を提供することで、技術の発展に貢献したいと思います。