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Dell Technologies World 2025参加レポート
2025.06.24

GPUエンジニア
力石 誠也

法人ビジネス推進本部 ビジネスデザイン部門の力石です。普段はGPU関連案件のSEやPMを担当しております。
この度、2025年5月19日〜22日に米国ネバダ州ラスベガスのThe Venetian / Sands Expoにて開催された「Dell Technologies World 2025」に参加してきました。主催社であるDell Technologies はNTTPCにとって非常に長く深いお付き合いのあるメーカーの一つです。今回私は機会をいただき、初めて参加しました。
はじめに
「Dell Technologies World 2025」は毎年開催されているグローバルカンファレンスで、Keynoteやさまざまな登壇者による講演、新製品発表展示会(ソリューションエクスポ)、技術トレーニングなど多様なセッションが行われます。個別企業向けのプライベートセッションや、参加者同士のネットワーキングの場も設けられており、全体として非常に充実したイベントでした。
これまで私はいくつか海外で開催されるカンファレンス・展示会に参加してきましたが、今回の会場であるThe Venetian / Sands Expoは今まで参加してきた海外カンファレンスの中でも最も華やかで、活気に満ちていました。AI、クラウド、ストレージといった最新技術を中心に、200を超えるセッションが用意され、数千人規模の来場者で賑わっていたのが印象的です。どのセッションも満席に近く、各分野の専門家やDellの製品開発チームとの対話を通じて、現場ならではの実践的な知見を得ることができました。

特に生成AIや液冷インフラに関する展示は注目を集めており、今後のデータセンター運用やエッジAIの設計において、技術的な方向性を示していたと感じました。私自身も、Dellが提唱する「AI Factory構想」や、NVIDIA Grace Blackwellアーキテクチャを搭載した新サーバー製品に強い関心を持ちました。

また、日本からの参加者向けには「Japanセッションブース」が設けられており、日本企業間の貴重な情報交換やネットワーキングの場として、大変有意義な時間を過ごすことができました。この記事では、印象に残った基調講演の内容と、展示ブース(ソリューションエクスポ)での体験について、私なりの視点でご紹介したいと思います。

Keynote
会期中、初日と2日目にKeynoteが行われました。
初日のKeynoteは、Dell CEOのMichael Dell氏による、「Inventing the Future」(未来を作る)がテーマの講演でした。Dell氏は、AIの実用化とインフラ最適化に向けた戦略を語りました。特にNVIDIAとの連携による「Dell AI Factory 2.0」は、Dellが提供する各種ソリューション(液冷GPUサーバー、AI対応スイッチなど)を通じて、高速かつ高密度なAIインフラを構築し、オンプレミスやクラウドとのハイブリッド構成を可能にするとし、JPMorgan Chaseでは金融業務におけるデータ分析の効率化が進み、Lowe’sでは顧客体験のパーソナライズがAIによって加速したなど、具体的な成果事例が共有されました。
Keynoteの最後には、NVIDIA創業者兼CEOのJensen Huang氏(残念ながら、今回は録画での出演となりましたが)が登場し、「これからの10年が史上最大の技術的飛躍の時代になる」と語りました。Huang氏は、AIファクトリーとAIスーパーコンピューターが今後、社会の中核インフラとして不可欠な存在になると強調。中でもDellとNVIDIAが共同で展開する「DELL AI Factory with NVIDIA」は、企業が分散推論や大規模学習をオンプレミスで実行できる専用基盤です。これらの発表から、AIの実用化が着実に進んでいる今、NTTPCとしてもこのようなインフラ活用を具体的なサービスや価値提供にどう結びつけるか、改めて戦略的に取り組む必要があると感じました。
続いて2日目の基調講演では、Dell TechnologiesのCOOであるJeff Clarke氏が登壇し、Innovation in Action (イノベーションの実践)をテーマに、AIの実用化に向けた同社の戦略を発表しました。
冒頭では、Dell AI Factoryがすでに3,000社以上に導入されていることが明かされ、AIがPoC段階から商用運用へと進みつつある現状が強調されました。新製品として、Blackwell GPUを搭載可能な液冷対応サーバー「PowerEdge XE9780」をはじめ、AIデータ統合基盤「Dell AI Data Platform」、構造化・非構造化データを統合可能な「Data Lakehouse」、高速ファイルシステム「Project Lightning」などが紹介されました。
とくに私が注目したのは、AI対応PC「Pro Max Plus」や、エッジデバイス向けのミニAI端末「Pro Max GB10」など、エッジ・ローカル環境でのAI推論を可能にする新しいクライアント製品です。オンプレ・クラウド・エッジを横断した柔軟なAI導入を支援する構えが明確になりました。さらに、GoogleやCohereとの提携によって、セキュアなオンプレAIやエージェント技術への展開も強化されており、企業におけるデータ主権とAI活用の両立が現実味を帯びてきています。
日々の業務を通じてAIの重要性を感じる場面は多々ありますが、今回参加した2つのKeynoteを通じて、“AIによる変革は未来の話ではなく、まさに現在進行形の現実である”ということをあらためて強く認識させられました。また、想像以上に、DellとNVIDIAのパートナーシップが深いことと、彼らが「インフラ×AIモデルの共進化」を真剣に見据えていることを、2日間のKeynoteから、ダイレクトに感じることができました。
ソリューションエクスポやプライベートセッションの様子
ここからは、私が特に関心を持った展示(ソリューションエクスポ)とプライベートセッションの内容について紹介します。今回のカンファレンスでは、日本からの参加者向けに「Japan Session」が用意されています。これは日本からの来場者に向けて、Keynoteや展示を見る前に、注目のキーワードや最新技術に関する事前インプットを得ることができるイベントです。その後、実際に展示会場や講演で同じテーマに繰り返し触れることで、理解が一層深まったと感じています。


Dell PowerCool - 密閉型リアドア熱交換器(eRDHx)
今回のソリューションエクスポで最も注目を集めていたのが、ラック背面に冷却ユニットを搭載した密閉型の水冷ソリューションです。プライベートセッションでもたびたび話題にのぼり、展示会場で実機が展示されていると聞き、真っ先に足を運びました。

「Dell PowerCool」は、密閉型リアドア熱交換器(eRDHx)を採用した次世代液冷ユニットで、データセンターの冷却コストやエネルギー効率を根本から見直す革新的な仕組みです。サーバーから発生する熱を即座に回収・冷却することで、最大60%の冷却エネルギー削減が可能とされており、さらに同一電力内で最大16%多くのラックを展開できるとの試算も示されていました。
私自身、これほどまでに分厚く存在感のあるリアドアを見たのは初めてでしたが、それだけ冷却性能と構造に対する信頼性の高さが伺えました。Dell Integrated Rack Controller(IRC)との統合により、リアルタイム監視、ホットスワップ対応のファン、液漏れ検出といった高度なリスク管理も実現されており、AIやHPCなど高発熱環境を扱う現場において、今後の標準となり得る技術だと感じました。
Dell PowerEdge XE9780/85シリーズ、AI Factory構想を支えるAIサーバー:XE9712
今回発表された新製品の中でも、AIインフラの中核を担う新型サーバー「PowerEdge XE9780/85」シリーズが注目を集めていました。これらのモデルは、空冷/液冷(IRSS:Integrated Rack Scalable System)の両構成に柔軟に対応し、IntelまたはAMD製CPUに加え、最大8基のNVIDIA HGX B300を搭載可能です。GPU間の帯域幅は1.8TB/sにも達し、大規模AIモデルの学習時間を大幅に短縮できます。さらに、Dell OpenManage EnterpriseによってGPUの温度・電力制御が一元管理できるため、信頼性や保守性の向上にも貢献します。

加えて、NVIDIA GB300 NVL72を搭載した「PowerEdge XE9712」も発表されました。72基のGPUをNVLinkで相互接続し、21TBのHBM3eメモリを搭載。800GbpsのConnectX-8によるラック間接続とターンキー型の液冷IRSSによって、迅速な展開が可能な構成です。また、次世代アーキテクチャ「Vera Rubin」シリーズ(NVL144/NVL576)への対応も予定されており、将来を見据えた拡張性にも優れています。推論トークン生成速度は従来比で50倍以上とされており、生成AIを本格導入したい企業にとって、即戦力かつ有力な選択肢の一つとなり得る製品だと感じました。
ストレージとネットワークについて
ストレージ分野では、PowerScaleの最新ロードマップとして「Project Lightning」が紹介されました。これは生成AIや大規模分析を支えるために最適化された次世代ストレージ基盤であり、高速ファイルアクセスの重要性が強調されていました。現在はβテスト段階にあり、正式リリースに向けて進化を続けています。
さらに、GPUDirect Storageによる「S3 over RDMA(Remote Direct Memory Access)」の技術も発表され、オブジェクトストレージとGPU間の高速転送により、AIトレーニング時のI/Oボトルネック解消が期待されています。また、データマネジメントの観点からは、構造化・非構造化データを一元的に統合・活用する「データレークハウス」構想の必要性が改めて強調されました。AIを活用するうえで、「どのデータを、どこで、どのように扱うか」は今後さらに重要なテーマになると感じました。
ネットワーキング領域では、AIファブリック構築に向けたスイッチ技術が紹介されました。特にNVIDIAのスイッチ製品については、現在DellのOEMメーカー経由でも提供が開始されているようで、保守サポート体制の整備も進行中とのことです。さらに、オープンなネットワークOSであるSONiCの導入によって、ネットワーク機器のライフサイクル管理や運用効率の向上が期待されており、複雑化するAIネットワークにおける標準技術として注目を集めていました。
全体的な感想
今回初めてDell Technologies World 2025に参加しましたが、展示エリアや基調講演をはじめ、どのコンテンツも圧巻の内容でした。Dellの皆様にご調整いただいたJapan Sessionと弊社向けにアレンジ頂いたプライベートセッションでは、グローバルのスペシャリストの方々と直接ディスカッションを行うことで、次世代サービスのアイディア構想が生まれ、大きな刺激を受けました。
我々NTTPCとしては、今回発表されたDellの最新ソリューションや製品群をいかに現実のサービスとして形にし、社会へ還元できるかが、今後の大きなチャレンジだと捉えています。帰国後もこの熱を絶やさず、今回得た知見とアイディアを元に、次なる技術革新を現実のプロダクトとして世に出していけるよう、引き続き取り組んでいきたいと思います。Dellの皆様、そして現地でお会いできた皆様、本当にありがとうございました!
最後に、今回のイベント開催地ラスベガスのシンボル「Sphere」が、Dell仕様に彩られた特別バージョンの姿を写真でご紹介します。夜の街に浮かび上がるDellロゴは、テクノロジーの未来を象徴しているようでした。
