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XRとメタバースがつなぐ“リアル”の未来 XR・メタバース総合展レポート

2025.12.17

GPUエンジニア 眞砂 諒也

GPUエンジニア
眞砂 諒也

1. はじめに

NTTPCコミュニケーションズ AIソリューション事業部 ビジネスデザイン部門 HPCエンジニアリング部1年目社員の眞砂です。普段はGPU関連案件のSEを担当しております。
この度、2025年10月8日〜10日に幕張メッセにて開催された「XR・メタバース総合展(秋)」に参加してきました。XR・メタバース総合展は、XR・メタバースを活用するサービス・技術が出展する国内最大級の専門展です。本展は単なる製品展示にとどまらず、「体験」重視の場として、産業用XRデバイスやメタバース空間を活用した、デジタルツインソリューションが多数紹介され、来場者は実際にデモを体験できるのが特徴です。
特に今年は、「生成AIとXRの融合」が大きなテーマとなり、AIによるシミュレーションやデジタルツインでの活用事例が目立ちました。その中で特に気になった講演を中心に、私の考えを交えて紹介します。

2. XR・メタバースとは

そもそもXR・メタバースとはどういったものなのか、簡単に説明します。
メタバースとは、インターネット上に構築された仮想空間のことを指します。参加するユーザーは、仮想空間内で自由に交流、活動を行うことができます。当初はエンターテイメントでの活用が主でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、企業イベントやバーチャルオフィス等での活用が普及していきました。さらに近年では医療、産業、教育の分野等でも活用され始めています。

XR(クロスリアリティ)とは、現実の物理空間と仮想空間を融合させる技術で、「VR(仮想現実)」「AR(拡張現実)」「MR(複合現実)」などの技術の総称です。
VR(仮想現実)は、現実空間から切り離された仮想空間(メタバース)に完全に没入することができる技術を指します。VRヘッドセット(VRHMD)を頭に装着し頭を振り視点を移動させるとメタバース内での視点も現実と同様に移動します。また、専用のコントローラやカメラ等を使用したトラッキング技術を使うことで手足も現実と同様に動かすことができます。主にゲームやエンターテイメント分野で活用されます。
AR(拡張現実)は、現実の中にデジタル情報を重ねて表示させることのできる技術を指します。ARグラスを使用するものもありますが、スマートフォンのカメラを通じて手軽に使用することもでき、XRの中でも手軽に体験できるのが特徴です。現在は主に観光業や広告の分野で活用されています。
MR(複合現実)は、現実空間と仮想空間を融合されたような体験ができる技術を指します。ARとの違いとしては、実際に操作することができる点があげられます。MRヘッドセット(MRHMD)を頭に装着することで現実に投影されたCGを見ることができ、ハンドジェスチャーでそれらを操作することができます。主に製造業や建築業等で活用されます。

VR・AR・MR比較表

項目 VR(Virtual Reality) AR(Augmented Reality) MR(Mixed Reality)
体験環境 完全な仮想空間に没入 現実世界にデジタル情報を重ねる 現実と仮想が融合し、相互作用が可能
表示方法 VRゴーグルで360°仮想世界を表示 スマホやタブレットで現実+キャラクター表示 MR対応ヘッドセットで現実+キャラクター操作
キャラクターの見え方 仮想空間内で自由に動き回る スマホ越しに現実空間に立っている 現実の家具や壁に沿って動き、触れることも可能
没入感 非常に高い(現実は見えない) 中程度(現実を見ながら情報追加) 高い(現実と仮想が自然に融合)
利用シーン ゲーム、トレーニング、シミュレーション 家具配置確認、観光案内、教育 設計レビュー、遠隔作業支援、医療

3. 講演紹介

XR・メタバース総合展では、各社が手掛けるXR・メタバース分野の最新技術を講演していました。ここからは、私が特に興味深いと思った講演内容を紹介します。

3-1 NVIDIA:フィジカルAI・デジタルツインで進化する産業用メタバース

NVIDIAの講演では、AI・デジタルツインを活用した産業用メタバースについて紹介がありました。
講演のタイトルにもなっている「フィジカルAI」とは、センサーやアクチュエーターを通じて物理世界を認識し、実世界の動作へ作用することのできるAIのことです。産業用ロボットや自動運転技術などでの活用が期待されています。
また、フィジカルAIは、AIエージェントより技術的には高度なものではあるものの、これからAIエージェントが衰退し、フィジカルAIだけが普及していくかというとそういうわけではなく、それぞれが適材適所で使われていくだろうというお話をされていました。


引用:NVIDIA「CES 2025 Highlights Deck」 AI at CES 2025 was all about NVIDIA

そして、このフィジカルAIを実現するためには、3つのコンピュータが必要となります。それが、トレーニング、シミュレート、デプロイの3つです。
トレーニングでは、NVIDIA DGX™ Systemsを利用することで、AIに現実世界の物理法則を学習させることができます。シミュレートでは、NVIDIA Omniverse™や、NVIDIA Cosmos™が利用され、データを仮想空間に再現します。デプロイでは、NVIDIA Jetson™が利用され、高速で推論・実行を行うことが可能です。
今回は、特にOmniverse、Cosmosについて詳しく紹介されていました。

NVIDIA Omniverseは、デジタルツインの実現のための3Dレンダリングから、物理シミュレーションまで行える開発プラットフォームになっています。

特徴として、

  • オープンUSD(3Dシーンのデータフォーマット)を採用し、3Dデータやアニメーションを統合
  • 異なるソフト間で開発されたデータをあたかも1つのデータかのように扱える
  • 複数のユーザーでリアルタイムで共同作業が可能
  • 物理ベースで、フォトリアルなシミュレーション

という点があげられます。
これを活用することで、デジタルツインやメタバースなどを効率的かつ正確に作成することが可能になります。
参考:OMNIVERSE|GPUならNTTPC|NVIDIAエリートパートナー

NVIDIA Cosmosは、フィジカルAIモデルを構築するためのプラットフォームで、世界基盤モデル(World Foundation Model)と呼ばれる、現実世界の環境のシミュレーションを可能にするニューラルネットワークを活用しています。従来の画像や動画などの生成AIとは異なり、物理法則に基づいたリアルなシミュレーションを行い、ロボティクスや自動運転などの現実世界で動作するAIの学習を支援することができます。
NVIDIA Cosmosは、主に以下の3つの機能を有しています。

① Cosmos Predict

映像もしくは画像とテキストプロンプトを入力し、その後30秒の展開を予測した仮想世界の状態の映像を出力。自動運転などでの危険状況の予測に用いられる。


出典:NVIDIA公式サイト「NVIDIA Cosmos」より
世界基盤モデルを使用したフィジカル AI | NVIDIA Cosmos
② Cosmos Transfer

Omniverseで作成された3Dデータをもとに様々なバージョンのAIのトレーニングデータを作成。セグメンテーションマップや深度マップなどの構造化された映像を入力し、様々な環境をシミュレーションしたフォトリアルな映像を出力。


出典:NVIDIA公式サイト「NVIDIA Cosmos」より
世界基盤モデルを使用したフィジカル AI | NVIDIA Cosmos
③ Cosmos Reason

映像が事前常識や物理常識から正しいかどうか等を分析し、映像内で何が起こっているのかの予測を出力。点検ロボット等によるリアルタイム状況判断を可能にする。


出典:NVIDIA公式サイト「NVIDIA Cosmos」より
世界基盤モデルを使用したフィジカル AI | NVIDIA Cosmos

下記Webサイトでこれらのモデルの試用版が公開されており、簡単なデモであればすぐに試すことができます。
▶ Try NVIDIA NIM APIs

そして、これらのOmniverse,Cosmosをロボティクス分野に取り込む技術として、「IsaacGR00T」も紹介されていました。
IsaacGR00TはNVIDIAの開発した、ヒューマノイド向けオープン基盤モデルで、VLA(Vision-Language-Action)モデルと呼ばれるものです。
VLAモデルというのは、視覚情報(Vision)、言語情報(Language)、行動(Action)を統合し、カメラやセンサなどで見たものを理解、言語化し、行動に移すことのできるモデルです。これにより、人間の指示を自然言語で受け取り、物理世界の情報から複雑なタスクを実行することが可能です。

さらに、前述したOmniverseやCosmosを活用し、10回程度の人間が行ったデモを100万回分の物理法則に基づいたデータに増やすことなども可能で、効率的にロボットの学習を行うことが可能になります。

他にも、VSS(Video Search and Summarization)というエージェントも紹介されていました。
VSSというのは、視覚認識可能なAIエージェントのことで、動画のデータを検索・要約・解析することが可能です。膨大な映像データから必要な情報を抽出し、テキストやメタデータとして整理することで、業務効率化や高度な分析を可能にします。
Ingestion Pipelineと呼ばれる、動画取り込みを行う技術と、Retrieval Pipelineと呼ばれる、検索と要約を行うAIモデルで構成されています。
講演の中では、上空から撮影された動画から、交通事故の状況を判断し、それに伴う渋滞の状況までテキストで表示されるという事例が紹介されており(下記画像)、他にも、橋の修理箇所をドローン映像の情報からリアルタイムで検出するなどのユースケースも紹介されていました。

3-2 HIKKY:AIで進化する共創型メタバース

続いて、株式会社HIKKYによる講演について紹介します。
株式会社HIKKYは、世界中から135万人集客し、ギネス世界記録™も樹立している世界最大級のメタバースイベント、「バーチャルマーケット」を主催していることで有名な企業です。

バーチャルマーケット(通称Vket)は、現在年二回(夏・冬)に開催されている、VRChatなどのメタバースプラットフォーム上で企業や自治体、個人クリエイターがアバターや3Dモデル等のブースを出展するイベントです。テクノロジー系の企業に関わらず、地方自治体や飲食メーカーなど幅広い業界が参加し、ゲーム等のメタバース内での体験を通じて、製品を紹介する場として活用されています。(余談ですが、私自身もプライベートで参加していました。)

そして、今回の講演の中では、こちらのVketを現実世界にも反映させた、VketRealについて詳しく紹介されていました。
VketRealは、その名の通り、Vketをリアル空間まで拡張したイベントです。Vketの延長線上として開催され、企業の出展、個人クリエイターによるグッズの販売が行われています。
VketもXRデバイスがなくとも、ある程度のスペックのPCさえあれば参加可能ですがVketRealでは、現地に行くだけで何もなくてもXRやメタバースの技術を気軽に体験することができます。もはや企業が広告を出稿する時代は終わり、実体験を通じて顧客に知ってもらうことが企業・製品の訴求につながるというお話をされていました。その点において、VketRealでは、リアル会場で各社の出展を体験することができるので、出展する企業は大きなアピールになります。


Vketメタバース空間内で企業ブースを訪問しました(筆者撮影)

今年の夏に開催されたVketReal 2025 Summerでは、二日間で無料(企業)エリアに50,000人、有料(個人クリエイター)エリアでは6,200人来場されたそうです。実際、私がプライベートで参加した際には、有料チケットエリアへの入場は、最大3時間ほど待つ長蛇の列で、その盛況ぶりを体感しました。また、全国展開もスタートしており、今年7月に札幌で実際に開催されたほかにも、全国10以上の自治体で開催が検討されているそうです。
2025年11月26日(水)には、VketReal公式Xにて、2026年度に札幌、神奈川、関西(大阪)、広島、福岡での開催も決定したと発表されました。


VketReal 2025 summer会場の様子(筆者撮影)

VketRealにて購入したアバターのぬいぐるみ(筆者撮影)

会場では、リアル会場とバーチャル(メタバース)会場とで一緒に遊べるイベントがあり、ヘッドセットがなくともバーチャルとセッションすることができました。このようにリアルとバーチャルのつながりを感じられるところが魅力的であると感じました。

VketRealのすごいところは、イベントのスタッフがボランティアで集まっているということです。
ボランティアスタッフをSNS上で募集し、それを見て面白そうと思って集まった有志のスタッフたちが運営に携わったそうです。人数は100名で、募集はそれ以上にあったそうです。面白そうと興味を持った人たちがたくさん集まる、面白さがメタバースにはあるのだと感じました。

また、講演の中で出てきた「choose your reality」という言葉が印象的でした。リアルでもメタバースでも、自分らしい現実を好きに選べるような未来がすぐそこに来ているのかもしれません。

4. 全体的な感想

視察の中で、今回紹介しきれなかった会社様のブースでも話を伺ったところ、デジタルツイン実現のための産業用メタバースは、日本での大規模導入事例はいまだに少なく、研修用途がほとんどであるということでした。産業大国の日本だからこそ今後の産業用メタバースの発展には期待していきたいと感じました。また、ロボティクス分野にも今後活かされていくということなので、私たちもメタバースに関する新技術の検証を継続して取り組んでいきたいです。

その一方で、エンターテイメント分野では、世界最大級のメタバースイベントを日本企業が主催しており、日本国内でもこれからどんどん広がっていくのではないかと感じました。現段階ではまだまだ広く普及しているとは言い難いですが、普段からメタバース上でゲームを遊んでいる私としては、このようなリアルイベントから、メタバースの存在自体がより広く認知され、メタバースの楽しさをより多くの人に知ってもらえればうれしいと思います。
また、産業とエンターテイメント、どちらの分野においても、今までメタバース内で完結したものが現実世界にも大きく影響を与えていくだろうという風に感じました。XRとメタバースがつなぐ“リアル”の未来、その動向には今後も注目していきたいです。

※「NVIDIA」「NVIDIA DGX Systems」「NVIDIA Omniverse」「NVIDIA Cosmos」「NVIDIA Jetson」は米国およびその他の国における NVIDIA Corporation の商標または登録商標です。
※「Vket」「VketReal」「HIKKY」は株式会社HIKKYの登録商標です。
※「ギネス世界記録」はギネスワールドレコーズリミテッドの登録商標です。