基礎知識
HPCワークロードをGPUで加速!AI時代に適した基盤構築と導入戦略
2025.12.10

GPUエンジニア

製品開発のシミュレーション、新薬の発見、気象予測――。これらの分野では、一般的なコンピューターでは解くことのできない、膨大な計算が求められます。この大規模な科学技術計算を担うのが「HPC(High Performance Computing:ハイパフォーマンスコンピューティング)」です。
近年、このHPCの世界では、従来のCPU中心の計算から、GPUを積極的に活用することで処理を分担する「GPUアクセラレーション」が急速に進んでいます。なぜGPUがHPCの性能を劇的に向上させるのでしょうか。
本記事では、HPCの基本から、CPUとGPUの構造的な違い、GPU導入がもたらす具体的なメリット、そして様々な業界での活用シナリオまでを、ポイントを絞って分かりやすく解説します。
目次:
1. HPCとは?AIも支える次世代インフラ
HPCとは、非常に高い計算性能を持つコンピューターやシステムを使い、普通のPCでは処理できない大規模かつ複雑な計算やシミュレーション、データ解析を行う技術分野のことです。膨大なデータを高速に処理できるため、科学研究、工学設計、気象予測、AIモデルの学習など幅広い分野で活用されています。
HPCの主な特徴は次の通りです。
【HPCの主な特徴】
- 極めて高い計算能力:多数の計算を並列で同時に処理できる
- 高速なネットワーク:複数のコンピューター(ノード)が迅速に通信できる
- 大容量メモリ:膨大なデータを一時的に格納し、高速処理が可能
- 複雑な処理への対応力:同一タスクを大量に並列処理するGPUクラスタとは異なり、条件分岐や依存関係の多い非定常かつ複雑な計算(例:気象予測、化学反応シミュレーションなど)を安定して制御・実行できる

HPCの活用分野イメージ
(参考:NVIDIA「ハイ パフォーマンス コンピューティング」サイト内の
画像「科学的発見のペースを加速する」より。
NVIDIA® CUDA® プログラミング モデルは、
ハイ パフォーマンス アプリケーションの開発者が選ぶプラットフォームであり、
上位 15 の HPC (ハイ パフォーマンス コンピューティング) を含む、
550 超の GPU 対応アプリケーションをサポートしています。
気象予測や材料科学から風洞シミュレーション、ゲノム解析まで、
HPC による最も有望な科学的発見分野の中心となるのが
NVIDIA の GPU アクセラレーテッド コンピューティングです。)
1-1. HPCとスーパーコンピューター(スパコン)の違いとは?
HPCは「大規模・高速計算を行うための技術や分野」の総称であり、その技術を実現するための代表的なコンピューターがスーパーコンピューター(スパコン)です。
スーパーコンピューターは、HPCを実現するための専用に設計された超高性能なコンピューターのことです。国家プロジェクトや大規模な研究機関などが保有する、世界最高クラスの計算能力を持つ大型システムです。

スパコンイメージ
(参考:NVIDIA「ハイ パフォーマンス コンピューティング」サイト内の
画像「世界最速のスーパーコンピューターにパワーを与える」より。
HPC とデータセンターが今後取るべき道として、最も入手しやすく、
最もエネルギー効率の高いのが GPU コンピューティングです。
現在、NVIDIA は米国と欧州の最速スーパーコンピューターの動力となっています。
また、いくつかの開発中の最新システムの動力にもなっています。
米国では、オークリッジ国立研究所では、200 ペタFLOPS 以上の HPC 性能と 3 エクサOPS の AI 性能を誇る世界で最も高性能かつパワフルなスーパーコンピューター、Summit を導入しました。Summit は、科学的発見を加速させるため、27,000 基以上の NVIDIA Volta Tensor コア GPU で HPC と AI コンピューティングを融合しています。 また、日本で最も高性能なスーパーコンピューターであり、AI のグローバル イノベーション プラットフォームとして、日本の人工知能処理向け大規模・省電力クラウド基盤 (ABCI) が 2018 年にオンラインとなります。)
このように、HPCは「高性能計算を目指す概念・アプローチ」、スパコンは「それを実現するための具体的なマシン」という関係にあるといえるでしょう。
2. HPCの構成とGPUはどのように関係するのか
HPCの構成は、時代と用途に応じて大きく変化してきました。特に注目すべきは、従来の「CPU中心の並列計算」から、現代の「GPU中心の高速演算」へと進化している点です。ここでは、HPCの基本的な知識とGPUとの関係について説明します。
HPCの構成
HPCの一般的な構成は、次のとおりです。
- Compute Resources(計算リソース)
ここがHPCの「頭脳」にあたる部分で、膨大な計算を並列で実行します。
ノードにはCPUやGPUが搭載され、用途に応じて構成が変わります。 - InfiniBand(高速ネットワーク)
各計算ノードやストレージを低遅延・高帯域で接続する専用ネットワークです。 - Storage(ストレージ)
計算で使うデータや処理結果を保存します。高速アクセスが必要なため、並列ファイルシステムなどが採用されます。
特に1.にあたるCompute Resourcesの構成(CPU中心かGPU中心か、またはその組み合わせか)によって、HPCが得意とする処理内容が大きく変わります。
2-1. CPUとGPUの違い
CPU中心かGPU中心かによって、どのような違いが出てくるのでしょうか。
ここでGPUとCPUの違いについて理解しておきましょう。
CPU(中央演算処理装置):パソコンやサーバーの中枢にある“頭脳”のような役割を果たすチップで、コンピューター全体の命令実行や制御を担います。CPUは、複雑で制御の多い処理には向いていますが、同じような計算を大量に繰り返す処理(=GPUの得意分野)は苦手です。
GPU(グラフィックス処理装置):もともと画像処理のために作られたチップですが、今では大量のデータを同時に処理する能力(並列処理)を活かして、AIや科学計算にも使われています。
CPUとGPUの違いの詳細は次の記事をご参照ください。
関連記事:
▶ CPUとGPUを徹底比較:導入で差がつく基礎知識と選択の仕方
3. AI分野とHPCの関係
特に近年はAIの普及に伴い、GPUの並列処理性能を活かしたHPC構成が一般的になりました。従来のCPU中心の構成では困難だった大規模計算も、GPUを組み込むことで現実的な処理が可能になっています。この進化を強く後押ししているのがAI分野の急速な発展です。
ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)は、次の理由からHPCを必要とします。
【AI分野におけるHPCの重要性】
- 自然言語や画像、音声といった非構造データを高速かつ高精度に処理する必要がある
- 学習や推論には、数十億〜数千億パラメータを持つモデルの大規模な行列演算が必要となる
- モデルの精度向上には、膨大な学習データを短期間で処理できる演算基盤が求められる
こうした要件は単一のPCや通常のサーバーでは対応できません。HPCは多数のCPU・GPUを連携させ、大容量メモリと高速ネットワークを駆使することで大規模計算を実現する技術です。こうした仕組みによって構築されたHPCシステムは、近年ではAIの学習・推論を支える計算基盤として活用されています。
3-1. NVIDIAのHPCソリューション

NVIDIA Omniverse™によるデータセンターの
空調・気流シミュレーションイメージ画像
(引用:「Supercomputing Superpowers: NVIDIA Brings Digital Twin
Simulation to HPC Data Center Operators」サイト内の画像より)
例えば、実際にこの分野を強力に推進しているのがNVIDIAです。同社はHPC技術によって得られる計算力とGPUアクセラレーション、そしてAIを組み合わせることで、従来では不可能だったワークフローを実現しています。次はその代表例です。
- PhysicsNeMo
膨大なシミュレーションをHPC環境で実行し、その結果をAIに学習させることで、本当に実験をせずともリアルタイムで結果を予測可能なサロゲートモデルを構築することができます。物理法則の忠実さとAIの高速性を両立させています。 - Earth-2
気候・天気予測において、数値シミュレーションをHPCで行い、そこにAIを組み合わせて高速・高精度な予測を実現します。スーパーコンピューター級のHPC基盤がなければ成立しない次世代の気候モデルです。 - NVIDIA Omniverse™
HPCで計算されたシミュレーション結果をリアルに可視化し、AIによる解析や共同編集を可能にするプラットフォームです。
関連記事:
▶ NVIDIA Omniverse™徹底導入ガイド|製造・建築・エンタメ業界で広がる3D仮想空間|GPUならNTTPC|NVIDIAエリートパートナー
このように、NVIDIAは 「HPC × GPU × AI」 を融合させることで、研究から産業利用まで幅広い分野で新しいワークフローを可能にしています。
4. 業界別ユースケース:HPC×AI活用
では、実際の産業分野ではこのような技術がどのように使われているのでしょうか。ここでは、各業界での具体的な応用例を紹介します。

4-1. 製造業:設計革新とプロセス最適化
製造業における製品設計では、AIが過去の設計データから学習し、数百もの新たな設計案を自動で生成することができます。これらの案は、HPC環境で実行されるCFD(計算流体力学)や構造解析シミュレーションによって高速に検証可能です。
このサイクルにより、従来は想定できなかった革新的な設計パターンの発見や、開発期間の大幅な短縮が実現しています。
4-2. ライフサイエンス:AI創薬と分子シミュレーション
新薬開発の分野では、AIが数百万もの化合物候補を解析し、有望な分子を絞り込みます。その効果や安全性を確かめるためには、GPUクラスタなどのHPCシステムで実行される分子動力学シミュレーションが活躍します。
この組み合わせにより、従来は数年単位でかかっていた創薬プロセスを大幅に短縮でき、開発コストの削減と成功率の向上を同時に実現しています。
関連記事:
▶ 生成AI/LLMの開発・学習に欠かせないGPUクラスタについて
4-3. 金融サービス:リスク管理と市場予測
金融業界では、AIがリアルタイムの市場データを分析し、異常な動きやリスクの兆候を素早く検知します。その後、膨大なシナリオを繰り返し計算するモンテカルロシミュレーション等をHPCで実行することで、影響範囲や将来の展開を短時間で評価できます。
これにより、従来は長時間かかっていたリスク計算がリアルタイムに近い速度で行え、投資判断や市場対応の精度とスピードが大幅に向上しています。
5. まとめ
本記事では、HPCとAIが融合する中で、GPUが果たす中心的な役割について解説してきました。現在では、CPUの柔軟な制御力とGPUの圧倒的な並列処理性能を組み合わせることで、計算速度は飛躍的に向上しています。その結果、研究開発の期間短縮、コスト削減、省エネルギー化など、多くのメリットが現実のものとなっています。
こうした技術革新は、もはや一部の先端研究だけでなく、製造、医療、金融など、あらゆる産業において競争力を左右する戦略的な基盤となりつつあります。
HPCやAIソリューションの導入を成功させるには、ワークロードの正確な分析、適切なハードウェアとソフトウェアの選定、そして信頼できるパートナーとの計画的な導入が不可欠です。お客さまの課題に合わせたHPC/AIソリューションについては、ぜひNTTPCにご相談ください。
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