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汎用型人工知能(AGI)を考える

2018.04.25

営業本部 GPUセールスエンジニア 池田 剛

営業本部
GPUセールスエンジニア
池田 剛

最近、「シンギュラリティ」という言葉がよく聞かれるようになりました。
シンギュラリティ(技術特異点)とは、ひと言で言うと「人工知能が人間を超える」ことです。

人工知能が人間を超えると聞いて「おや?」と思った方も多いと思います。
そうです。チェス、将棋、囲碁、そして画像認識など、“ある特定分野”では人工知能はすでに人間を凌駕しています。
Google傘下のDeepMindによって開発されたAlphaGoが、人間のプロ棋士を破ったニュースは記憶に新しいのではないでしょうか。

ここで“ある特定分野”と表現したのは、これらの人工知能は「特化型人工知能 ( Narrow AI ) 」と呼ばれるものだからです。自動運転AIも含め、現存する多くの人工知能は特化型人工知能に分類されます。

これに対し、幅広い用途に活用できる人工知能を「汎用型人工知能 ( AGI:Artificial General Intelligence ) 」と言います。
汎用型人工知能はまだまだ研究段階にあり、いかに生命を模倣するか、いかに知性を獲得できるか日々研究されています。

先日、大盛況のうちに閉幕した「AI・人工知能EXPO ( 4/4~6:東京ビッグサイト ) 」でも汎用人工知能をテーマにしたセミナーが多く、研究者の方々のさまざまなアプローチに衝撃を受けました。

例えば、ドワンゴ人工知能研究所の山川所長のセミナーでは、人の脳の仕組みやアーキテクチャから学びながらアプローチする研究開発だけでなく、AGIと共存する未来社会像についても語られていました。
正しいデータで学習させると性善の人工知能が出来上がり、悪いデータで学習させると性悪の人工知能となる。
先進国だけに偏らず、世界中の人々が平等にAGIの恩恵を受けられる社会を築く必要があるという考え方が強く印象に残りました。

こうした人工知能の学習には、膨大なデータ量を必要とします。人間が学習に必要とするデータ量と比較するととても非効率です。
理化学研究所 革新知能統合研究センター上田副センター長のセミナーの中で、最初にモデリングし、シミュレーションにより学習用データを生み出す「シミュレーション科学」の話がありました。

地震動予測など少数観測データから膨大なシミュレーションを行い、ビッグデータを創出して、これを学習することで新たな知識を獲得するというものです。
今までは、ビッグデータを保有している企業が人工知能の開発に有利と思われていましたが、これからは「いかにモデリングし、いかにシミュレーション」させるか。人工知能の発展にはモデリング技術が重要だと感じました。

AlphaGoの後継であるAlphaGoZeroは、過去の棋譜に頼らず、囲碁のルールをモデリングしただけで、自らが対戦相手となり、自分と対局することで、ゼロから学習して40日後には最新のAlphaGoに勝利しています。
人工知能が自己を分割して相反的に学習することを「GAN:敵対的生成ネットワーク( Generative Adversarial Network ) 」といいます。
人間が一生かけてもできないような学習量を、人工知能は膨大なシミュレーションを繰り返すことで、疲れることもなく短時間で獲得することができます。

シンギュラリティとは、正に汎用型人工知能の実現と言えるかも知れません。
汎用型人工知能の実現にはまだまだいくつものブレークスルー ( 技術革新 ) が必要だと言われています。
生命を模倣するアプローチだけでなく、膨大な計算を瞬時に行う量子コンピュータのような革新的なハードウェア開発も重要です。

人工知能が人間と同様に、自らの存在を意識する時がいつか来るのでしょうか。