トレンドコラム

トレンド

「DXを推進する製造業におけるAI活用とは」Webinar開催レポート
~ 「2025年の崖」を乗り越える ~

2020.07.31

「2025年の崖」に転落せずDX化を進めるために

近年、最新のデジタル技術を導入・活用することで企業活動の改革や新規ビジネスの創出を実現する「デジタルトランスフォーメーション ( DX ) 」への関心が高まっています。
一方で、IT化、データ活用、システム刷新などが進んでいない企業はまだ多く、日本の製造業においてDXへの取り組みが遅れた場合、2025年以降、最大12兆円もの経済損失が生じる可能性を経済産業省は「2025年の崖」と名付けて警鐘を鳴らしています[*1]。
NTTPCでは、企業がDXを推進するにあたって、AI ( 人工知能 ) が重要なテクノロジーのひとつになると捉えています。そこで今回、製造業の事業企画・サービス開発部門の方を対象に、"DXを推進する製造業におけるAI活用とは ~「2025年の崖」を乗り越えよう~" をテーマとするセミナーを2020年7月10日に開催しました。なお、新型コロナウイルス感染症 ( COVID-19 ) の感染拡大防止の観点から、Webinar ( オンライン ) 形式での開催となりました。

*1:「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」、経済産業省デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会、平成30年9月7日

ALBERTさま:DX/AI人材を育成して開発の内製化を

最初のセッションでは、株式会社ALBERT ( アルベルト ) ビジネス推進本部 製造・自動車部 部長の行方隆人さまから「AI開発の内製化のススメ」と題してお話を頂戴しました。

2005年創業のALBERTさまは、オーダーメイドのデータ分析やAIシステムの開発を強みとする日本屈指のデータサイエンスカンパニーです。200人を超えるデータサイエンティストが在籍し、AI活用のコンサルテーション、ビッグデータ分析、AIアルゴリズム構築、システム開発、運用などを幅広く手掛けています。
本セッションでは、次のとおり製造業におけるAI活用事例を紹介され、先行的な企業においてAIの導入と活用が進んでいることが示されました。

  • 事前学習なしに単眼カメラの映像だけで部品の形状や三次元姿勢を推定するピッキングロボット用システム
  • 正常画像のみからモデルを学習する外観検査システム
  • 複数のセンサーが出力する時系列データが正常値を逸脱したときに異常と判定する異常検知システム

後半では、「経済産業省は、企業がDXを進めていくには、IT人材の比率が社内3割+ベンダー7割となっている現状を社内5割にまで高めていく必要があると指摘しています。人材不足の課題を乗り越えるには、実務に即した人材教育と、プログラミングを必要としないAIツールの導入が鍵になるでしょう」 ( 行方さま ) というように、DXを推進するための解決策として、①AI開発の内製化 ②AIツールの導入 という2点が提案されました。

ALBERTさまでは、もともとは社内向けだったデータサイエンティスト教育カリキュラムを体系化したものを、研修プログラムとして外部に提供されています ( 図1 ) 。統計の基礎から始まり、プログラミング、教師あり学習、クラスタ分析、時系列分析、自然言語処理、異常検知などを学んだのち、データ分析演習を行って、AI活用の基本的な知識を身につけるカリキュラムが組まれています。


図1. ALBERTさま提供のAI研修プログラム

また、顧客のニーズに応じた専用カリキュラムや、センサーデータから取得した時系列データを用いた異常検知演習などの新たなカリキュラムも提供。「経験豊富な現役のデータサイエンティストが講師を担当しますので、実務に即した分析スキルを身に着けられるとして、受講されたお客さまからは好評です」と行方さまは説明します。
人材が社内で育つことで、外部に委託していたデータ分析やシステム構築の内製化、ビジネス部門とIT部門との調整、AIベンダーに対する目利き力の養成、外部AIベンダーとのやり取りの円滑化などが図れると期待されます。
ALBERTさまのもうひとつの提案がAIツールの導入です。同社では、プログラミングの知識を必要とせずにブラウザー上で画像認識処理を構築できる、AI・画像認識サービス「タクミノメ」シリーズを提供中です ( 図2 ) 。


図2. AI・画像認識サービス「タクミノメ」シリーズの概要

「部品ワーク表面の微細な汚れ検出や、建造物の外壁等のひび割れ検知、道路・橋の劣化診断など、外観検査や官能検査に活用されるお客さまが増えています。2020年5月からは、初期費用50万円+月額20万円のライトプランを加えて導入しやすくしました」 ( 行方さま ) 。
同社が提供する人材育成プログラムやツールの活用によって、外部ベンダーに対する依存度を減らしながら、DXやAI化に対する取り組みが進んでいくことが期待されます。

NTTPC:AI/IoTの開発・導入に必要なプラットフォームをワンストップで提供

次のセッションでは、NTTPC サービスクリエーション本部 本部長の三澤 響から「製造業のDX化を支えるAI/IoTプラットフォーム」と題して、当社の取り組みを紹介しました。

はじめに三澤は、政府の「2020年版ものづくり白書」[*2]を引用しながら、製品を顧客に届けるサプライチェーンと製造開発のエンジニアリングチェーンの中で、データを見える化し、分析し、判断し、活用し、価値につなげていく活動を速やかに進めていくことが重要と指摘しました。一方で、同白書によれば、およそ8割の企業において、企業活動に関連した「データ化」やそれらデータの「見える化」が進んでいない事実が報告されていると述べました。

*2:「2020年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告」、経済産業省、厚生労働省、文部科学省、令和2年5月


図3.国内製造業企業におけるデータ活用への取り組み状況

データ活用の取り組みが遅れている理由はさまざまですが、もっとも大きな課題として取り上げられるのはAI人材の不足による「要件定義やロードマップ策定の難しさ」です。また、投資対効果の不明瞭さや、それに関連した予算・組織面などの問題も浮かび上がります。

解決策として三澤は、導入検討の初期フェーズにおいて最重要となる「要件定義」において、
ALBERT社のようなAI開発のスペシャリストと対象業務に精通した社員がタッグを組むことの重要性を説き、
さらに要件定義後に行う「設計~PoC」においては、データ収集・学習・推論のサイクルを効率的に実現するために当社のようなプラットフォームベンダーがサポートしていくことが重要ではないかと提言しました。

「お客さまは、本業であるビジネス企画や事業開発、アプリケーション開発のところに注力され、ノンコア領域であるファシリティ、ネットワーク、ハードウェアといったところを当社のようなプラットフォーマーにお任せくださるのが、競争力を高めていくポイントではないかと考えています」と説明しました。

NTTPCは、企業がDXを進めるために必要となるIT環境のうち、データセンターなどのファシリティ、モバイルを含む各種のネットワークサービス、GPUサーバーなどのハードウェア、およびOS/ミドルウェアなどを提供しており、PoC環境や本番開発環境、商用環境に至るまでワンストップで提供することが可能です ( 図4 ) 。
AI処理を高速化するGPUサーバーに関しては、NVIDIAさまのパートナーとして、100社を超えるお客さまに延べ1,500台以上を納めてきた実績を誇っています。
その一例として、外観検査の誤検知を減らしたいとするお客さまの悩みに対して、AIパートナーとともにエッジ環境やクラウド環境を構築した事例を紹介しました。


図4. NTTPCが提供するファシリティからOSまでのレイヤーの概念

三澤はNTTPCの取り組みのひとつである「InnovationLAB」についても紹介しました ( 図5 ) 。

InnovationLABは、AIの導入や活用を考えられている事業会社、スタートアップを中心としたAI開発ベンダー、大学・官庁、および先進技術・製品を提供する各メーカーを交えたコラボレーションプログラムです。
AI開発に取り組んでいる、または取り組もうとしている企業に対してGPU計算リソースを提供するほか、InnovationLABに加盟している多種多様な企業間の人材・技術交流を通じたビジネスマッチング、および共同マーケティング活動などのメリットが得られます。


図5. AIを活用してDXを目指すお客さまにNTTPCが提供するInnovationLAB

2019年度には、パートナーやお客さまを対象にしたリアルなコラボレーションイベントとして「InnovationLAB MeetUp #1」を開催。
参加者は100名を超え、このイベントをきっかけとして共同開発・共同検証などさまざまなビジネスが生まれています。

また、NVIDIAさまが先日リリースされた超高性能AIシステム「NVIDIA DGX A100」についても、いちはやくInnovationLABで提供していく予定です。

最後に三澤から、「製造業の皆さまがDXやビジネスモデルの変革に注力できるよう、プラットフォーム部分を当社から支援することで、お客さまにとって不可欠な一部となるべく努めていきます」と、当社の理念を述べました。

NVIDIAさま:高性能なA100 Tensorコア GPUとDGX A100で製造業のDX化を支援

最後のセッションでは、NVIDIA インダストリー事業部 ロボティクスビジネス推進マネージャーの梅本将範さまから、「製造業向けGPU活用事例および新製品A100の紹介」と題してお話を頂戴しました。

梅本さまからは、製造業におけるGPU活用例として、検査コストの削減を目的に自動車用ギア部品の外観検査にAIを活用されている武蔵精密工業さま ( 愛知県豊橋市 ) の取り組みが紹介されました。
同社はわずか6か月でPOCシステムの稼働を実現。そのポイントとして梅本さまは、

  1. ① AIベンダーと協業して開発した点
  2. ② NVIDIA DGX Systemを導入しオンプレミスで構築することで、試行錯誤によって多くの時間がかかってしまうニューラルネットワークの構築 ( 学習 ) を高速化したこと
  3. ③ 組み込み用プラットフォームであるNVIDIA Jetsonをエッジ部分に採用し、GPUサーバーで作成したモデルをスムーズに展開できるようにしたこと

の3点を挙げました。
これにより武蔵精密工業さまでは、ディープラーニングによる画像認識によって、肉眼ではほぼ不可能な、ギア外観のわずか1mmの欠陥や溶接のわずか0.5mmの欠陥に対して正確な検査を実現されたそうです。

後半では、同社の新製品である「NVIDIA A100 Tensorコア GPU」の紹介がありました ( 図6 ) 。7nmのプロセスノードで製造される826㎟という巨大なチップで、集積されているトランジスタ数は540億個と膨大です。学習スピードを従来の「NVIDIA V100 Tensorコア GPU」に比べて20倍に向上させるなど、驚異的な性能を実現しています。さらに、ハードウェアを最大7個のインスタンスに分割して、それぞれ別のワークロードに割り当てる運用も可能になりました。
「混合精度の演算を実現するTensorコアを第3世代に進化させるなど、アーキテクチャ的にもさまざまな革新を盛り込んでいます」 ( 梅本さま ) 。


図6. 最新の高性能GPU「NVIDIA A100 Tensorコア GPU」

続いて、このNVIDIA A100 Tensorコア GPUを8基搭載した高性能AIシステム「NVIDIA DGX A100」の説明がありました( 図7 ) 。混合精度で5 peta-FLOPS、INT8で10 peta-OPSという他に類を見ない性能を誇るサーバーで、同社では「AIインフラストラクチャ向けのユニバーサルシステム」と位置付けています。インターコネクト用にMellanox ConnectX-6を8ポート備えていて、複数のDGX A100ノードを結んだクラスタ構成も可能となっています。


図7. 「NVIDIA A100 Tensorコア GPU」を8基搭載した高性能GPUサーバー「DGX A100」

梅本さまは、「クラウドやオンプレミス用にNVIDIA DGX A100のような高性能サーバーを揃えているほか、GPUボードやエッジ向けソリューションなど幅広く提供しています。ぜひお気軽にご相談ください」と述べてセッションを締めくくりました。

なお、NTTPCセッションで三澤が紹介したように、NTTPCのInnovationLABにてNVIDIA DGX A100を提供予定です。消費電力最大6,500W、重量123kgと、物理的にも巨大なマシンを自社で運用するのはハードルが高いですが、NTTPCではこうしたGPUサーバーを収容できるデータセンターを備えていますので、安心してご活用になれます。

Webinar開催後に実施したアンケートでは、「AIと聞いても今一ピンと来なかったが、実際の導入のしかた、使われ方聞いて色々現実味がわきました。ありがとうございます!」などの嬉しいご意見を頂戴しています。

最後になりましたが、今回のWebinarにご参加くださった皆さまに感謝申し上げます。引き続きNTTPCでは、DXに取り組まれる製造業の皆さまをバックアップする取り組みを進めていきます。