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HPE サーバー最前線2025 ~今日のIT課題を実用レベルで解決する、最新世代のHPE ProLiant Compute Gen12を知る~
2025.05.30

GPUエンジニア
植田 加津佐

2025年4月21日(月)、ホテル雅叙園東京にて、日本ヒューレット・パッカード合同会社主催、日本マイクロソフト株式会社協賛によるお客様及びパートナーに向けた特別イベント「HPE サーバー最前線2025 ~今日のIT課題を実用レベルで解決する、最新世代のHPE ProLiant Compute Gen12を知る~」が開催されました。
本イベントは、HPEの最新世代「HPE ProLiant Compute Gen12」で実装された自動化やセキュリティ機能、消費電力などの最新技術と、今日のIT課題を実用レベルで解決するAIや仮想化などの紹介が行われました。
イベント冒頭では、「HPE ProLiant Compute Gen12」の発表をはじめ、1993年に誕生したProLiantの歴史と進化、2024年第4四半期における国内サーバー市場及び国内x86サーバー市場売上額シェアNo.1を獲得した事などが語られました。
ブランド名であるProLiantは「Professional(プロフェッショナル) +Reliability(信頼性)」という意味を込めて名付けられたそうです。
今回のイベントでは、「HPE ProLiant Compute Gen12」を中心とした2つのプログラム講演と、特別講演として、早稲田大学ビジネススクールの入山 章栄教授が「世界の経営学から見る、DX・AI導入への視座」というテーマで登壇されました。
【目次】
プログラム:「米国本社開発責任者が語る『これからのComputeの世界』を支えるHPE ProLiant Compute Gen12」
本プログラムでは、HPEの最新サーバー「ProLiant Compute Gen12」に焦点を当て、その技術革新を支える3つの主要テーマについて詳細に語られました。
1. セキュリティの強化
ランサムウェア、サプライチェーン攻撃、内部不正などのセキュリティ脅威が増加しており、2025年には世界でのセキュリティ被害の総額10.5兆ドル(約1500兆円)に達するとの予測があり、サーバーセキュリティの重要性が高まっています。
近年の急速な技術の進化によりセキュリティ脅威も複雑化しており、この複雑化した脅威に対応するため、HPEはセキュリティを最優先事項として掲げ、特にサーバー管理コンポーネントである「iLO(Integrated Lights-Out)に対し、高度なセキュリティ機能を実装した事が紹介されました。
- Silicon Root of Trust:
iLO内に独自ASIC(専用チップ)を使用し、秘密鍵や重要データを保護。
※ 攻撃を受けてもチップ内の情報は保持される仕組み。 - FIPS 140-3対応:
米国政府のセキュリティ基準に準拠。特にレベル3の高い物理セキュリティ要件を満たし、従来以上に安全性を強化。
iLOを通じてSelf Encrypting Drive(自己暗号化ドライブ)の鍵管理も可能に。 - ポスト量子暗号(Post-Quantum Cryptography(PQC):
量子コンピュータによる暗号解読リスクに備えた技術。
米国NISTに承認されたアルゴリズムを採用し、BIOSやファームウェアの電子署名に適用。
将来的には通信プロトコルにも拡張予定。
2. 性能と効率の最適化
「ProLiant Compute Gen12」は、AI時代のニーズに応えるべく、性能と効率を最大化する設計が施され、多様なワークロードに応じた構成が行えるようになりました。
特にAI向けサーバーについては、GTC2025で発表された「RTX PRO 6000 Server Edition(Blackwell)」に対応したモデルなどが紹介されました。
- AI向けの最適化サーバー
GPU特化型サーバーとして、2024年にDL380a Gen12やDL384 Gen12を提供開始。
DL380a Gen12は4UサイズでH200 NVLやRTX PRO 6000 Server Edition (Blackwell)を最大8枚搭載可能で、10枚まで搭載可能にすることを計画中。
DL384 Gen12は2UでNVIDIAのスーパーチップGH200 NVL2を2基搭載可能。 - 次世代プロセッサの採用
インテル「第6世代Xeonスケーラブルプロセッサー」を搭載し、用途に応じて選択可能。
※ Pコア(Performance Core): 性能重視
※ Eコア(Efficiency Core): 電力効率重視 - 冷却技術の進化
クローズループリキッドクーリング(CLLC)や直接冷却(DLC)など、選択肢を拡充し、効率的な冷却を実現。 - 電力効率の向上
前世代比で最大約65%の電力効率向上を達成し、データセンターのランニングコスト削減を実現。
Gen12サーバーは、構成によってはGen10サーバー7台分のコンピュート性能を発揮できるため、サーバー集約による省スペース化、省電力化、ひいては運用コスト削減効果が期待されます。
3. 運用の自動化と環境への配慮
AIとクラウド技術を活用して、サーバー運用の自動化と環境配慮を推進するクラウド型の運用管理サービスが紹介されました。
- HPE Compute Ops Management(COM)
クラウドベースの管理ツール「COM」を活用することで、サーバーの電源操作やコンソール操作をリモートで実行可能。
さらに、稼働率と運用効率を向上するために、AIを利用した性能最適化や障害予兆検知の機能を実装予定。 - サステナビリティ機能
電力使用量やCO2排出量を予測する「Sustainability Insight Center」を搭載し、環境負荷を抑えた持続可能な運用をサポート。
4. まとめ
HPE ProLiant Compute Gen12は、将来のセキュリティ標準を見据えたハードウェアレベルのセキュリティ対策、AI時代の高負荷に耐えうる性能と効率性、そして持続可能な社会の実現に貢献する環境配慮設計を備えています。この次世代サーバーは、企業のデジタル変革を力強く推進していくでしょう。
プログラム:「HPE ProLiant Compute Gen12で実現する Hybrid Cloud / Enterprise AI」
本プログラムでは、HPEが提案する次世代のIT基盤「Hybrid Cloud」と「Enterprise AI」の可能性について、具体的な課題と解決策が詳しく紹介されました。
HPEがどのようにして企業のデジタルトランスフォーメーションを支援しているのか知ることのできる貴重な機会となりました。
まずは「ハイブリッドクラウド:多様な選択肢と柔軟な戦略」と題し、近年のVMwareのライセンス体系変更(いわゆる「VMwareショック」)が企業に大きな影響を与え、多くの組織が次世代のインフラ基盤を模索している現状が語られました。
こうした背景とともに、ハイブリッドクラウドの課題と成功事例が共有されました。
VMwareのライセンス変更に伴い、コスト増加や運用の再構築が求められる中、企業は選択を迫られているとし、以下の3点が上げられました。
- VMwareの継続利用(コスト増加を受け入れるのか)
- NutanixやHyper-V、OSSなどの代替プラットフォームへの移行検討
- 仮想化からOpenShiftなどのコンテナ化への転換
プログラム内では、VMware環境から移行支援ツール等を活用し、Hyper-V+HPE ProLiantサーバーやストレージへの移行を行い、コスト削減を達成した事例も紹介され、企業が抱える課題を解決する1つの方法が紹介されました。
HPEは「適材適所のハイブリッド戦略」を推奨しており、コスト優先領域にはOSSやHyperV、高機能が必要な領域にはVMwareの継続、将来的にコンテナ化を目指す領域にはOpenShiftといった、インフラ現状の可視化や移行性の評価を通じて、適切な選択を進めることが重要であると語られました。
続いて、「エンタープライズAI:生成AIの本格導入」というテーマについて語られました。
2022年のChatGPT登場(いい意味でのChatGPTショック)以降、生成AIは企業の注目を集め、2023年は「生成AI本番適用元年」とも呼ばれる時代に突入、企業が生成AIをどのように活用し、課題を克服しているのかが詳しく解説されました。
企業での活用として、自社専用のチャットボットや検索精度向上を目的としたAIモデルの導入が主流になっており、特にオンプレミス環境でのモデル構築により、クラウドでのトークン課金やデータ流出リスクを抑えながら、カスタマイズ性を高める取り組みが進んでいる事が語られました。
HPEでも生成AIは活用されており、Microsoft 365 CopilotやGitHub Copilotを利用しつつ、顧客情報を取り扱うような業務用途については、自社専用のChatHPEやカスタムLLMアプリを導入していることが紹介されました。
実際生成AIを導入の際にも下記のような課題があります。
- AIインフラのサイジング: 必要なGPUリソースをどのように見積もるか
- AIモデルの選定: 日本語対応のLLM(大規模言語モデル)や生成AIツール(例: Llama、Flan-T5など)の選択
- 精度向上の手法:
ベクトルDBを用いたデータ検索最適化
ファインチューニングによるモデル再学習
ガードレール(ポリシー)実装による回答の精度管理
この課題に対し。企業のAI導入を支援するため、以下のような包括的なソリューションが紹介されました。
- AIインフラ:「NVIDIA AI Computing by HPE」や高性能GPU搭載のProLiantサーバー、アプライアンス型ソリューション「HPE Private Cloud AI」を活用。
- データ基盤:「HPE Alletra」や「HPE Data Fabric」などのデータプラットフォーム。
- サービス支援:アドバイザリーサービスやISV(独立系ソフトウェアベンダー)との連携による実装支援。
上記で紹介されたソリューションの産業別の活用事例
- 製造業:
生成AIを用いた設計部門の効率化。
AIによる製品設計の自動化や、過去の設計データを活用した提案機能の強化。 - 金融業:
自社専用の金融データベースを活用した問合せ対応の自動化。
機密性の高いデータをオンプレミスで処理することで、安全性を確保。 - 小売業:
レコメンデーションシステムを生成AIで強化し、顧客体験を向上。
ベクトルDBを活用した商品検索の精度向上。
ハイブリッドクラウドとAIの統合的アプローチ
HPEは、ハイブリッドクラウドとAIを独立したものと考えておらず、相互補完的に組み合わせることで、真価を発揮するとしています。
たとえば、ハイブリッドクラウド上で動作するAIモデルを活用することで、オンプレミスとクラウド環境の両方のメリットを享受できると語られました。
さらに自社が展開するHPE GreenLakeクラウドを活用し、使用量に応じた課金モデルで柔軟で効率的なインフラ運用が可能であると紹介されました。
顧客情報保護の観点から、企業では自社専用またはオンプレミス型のカスタムLLMやAIエージェントの需要が高まると予想されます。
まとめ
このプログラムでは、HPEが、ハイブリッドクラウドにおいてはVMware、Nutanix、Hyper-V、OpenShiftといった多様な選択肢を提供し、エンタープライズAIにおいては、オンプレミス環境での生成AIモデル構築を支援するソリューションを提供していることが分かりました。これらのソリューションは、企業が抱えるコスト、セキュリティ、カスタマイズ性といった課題を解決し、デジタルトランスフォーメーションを加速させるでしょう。
【特別講演】「世界の経営学から見る、DX・AI導入への視座」
本プログラムでは早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授が登壇され、デジタル競争の第2ラウンドにおける日本の勝利戦略やDX推進、イノベーション創出のための「知の探索」と「知の深化」のバランスの必要性、AI時代の人間の役割などについて語られました。
1. デジタル競争の第1ラウンドの敗因と第2ラウンドの展望
GAFAMにプラットフォームを奪われた”第1ラウンド”とは異なり、ここから先10~20年続くと思われるデジタル競争の”第2ラウンド”はリアルとデジタルの融合、IoTの時代に向かうでしょう。
あらゆるモノがデジタル化するなか、高品質な製品が鍵となり、製造業に復活の兆しがあります。西側先進国の中でも、特に日本と、インダストリー4.0を推進するドイツは製造業が強く、このデジタル化の波に乗ることで優位に立てる可能性があります。
2. デジタル化の成功事例
コマツのスマートコンストラクションはまさしく現場のリアルとデジタルの融合。今後海外展開を控えており、大いに飛躍することが期待できるでしょう。
他にもDMG森精機(工作機械)、ダイフク(マテリアルハンドリング)、ホシザキ(冷蔵庫や厨房機器)などの製造業での実装はリアルとデジタルの融合が成功した事例です。
サービス業では、丸亀製麺がDXを導入したことにより、現場の従業員がお客様の接客にエネルギーを注ぎ込むことで顧客満足度向上につながったことが例として挙げられました。
ものづくりやサービスといった現場の現実とデジタル技術を融合させることが、今後の成功の鍵となるでしょう。
3. DX推進における課題と解決策
DX推進には、企業全体の変革(CX:コーポレートトランスフォーメーション)が不可欠です。経路依存性により、一部だけの変更では効果が出ないことが、ダイバーシティ推進の例を挙げて説明されていました。
いまだ日本企業の多くは、新卒一括採用、終身雇用、一律の評価制度といった慣習を続けています。これらの慣習は、多様な人材の確保や、個々の能力に応じた柔軟な働き方を阻害する要因となり、結果として、新しい発想や視点が生まれにくく、DX推進に必要なイノベーションを促進する妨げとなっています。
例えば、新卒一括採用ではどうしても同質的な人材が集まりやすく、多様な視点や発想を取り込みにくくなります。終身雇用は、社員の長期的な育成には有効ですが、変化の激しいデジタル時代においては、新しいスキルを身につける機会が少なくなり、陳腐化してしまう可能性があります。一律の評価制度では、個人の能力や成果を適切に評価することが難しく、社員のモチベーション低下につながる可能性があります。
これらの慣習を見直し、多様な人材や働き方を取り入れることで、はじめてDX推進に必要なイノベーションが促進される環境が成熟すると言えるでしょう。
またDXにおいては、CIOなどのデジタルトップと人事トップの連携や兼任が重要だと提言されました。成功している企業はデジタルのトップが人事権を持っているということです。
4. イノベーション創出の鍵:「知の探索」と「知の深化」
イノベーションは、既存の知見の新しい組み合わせから生まれます(新結合:ニューコンビネーション)。人間は0から何も生み出せないため、既存の知識をいかに組み合わせるかが重要です。
しかし、人間の認知には限界があり、視野が狭くなりがちです。そのため、外部の知見を積極的に取り入れることが重要になります。
トヨタ生産方式(アメリカのスーパーマーケットの仕組み)やTSUTAYAのレンタルビジネスモデル(消費者金融の仕組み)も、異分野の知見を取り入れることで生まれた成功例です。
新たな知見を取り入れ、見つけた有望なアイデアを更に掘り下げ、効率化・安定化することで、イノベーションを起こす確率が高まります。世界中の経営学者の間では、この両方を高いレベルでバランスよくできる企業が成功しやすいというコンセンサスが得られています(Ambidexterity:両利きの経営)。
しかしながら、日本企業は既存知識の深化に偏りがちで、効率化を重視するため、どうしても短期的な視点になりがちと指摘されていました。
5. AIとDXの役割
AIとDXは、「知の探索」と「知の深化」の両方を加速させます。
三井化学は、AIに世界中の化学関係の論文や特許を学習させ、研究開発、つまり知の探索に活用しています。AIは特に知の深化に強く、人間がこれまで行っていたルーティンワークを代替することで、人間は知の探索により多くの時間を割けるようになります。
このようにAIによって業務効率化が進むことで、AI時代においても、人間の役割は重要であり続けます。AIにはできない責任を取ること、感情労働、そして意思決定は人間の仕事です。管理職は管理業務ではなく、部下をサポートする感情労働に注力すべきです。営業も人間関係構築が重要になります。
そして、AI時代には、「誰が言ったか」が重要になり、個人や企業の人格、コーポレートブランディングが重要性を増します。
6. まとめ
入山教授は、デジタル競争に勝ち抜くために、DXとAIを活用し、「知の探索」と「知の深化」のバランスを取りながら、人間独自の役割である責任、感情労働、意思決定に注力し、企業は人事制度改革も含めた組織全体の変革を通して、これらの能力を強化していく必要があると述べました。
感想
今回のイベントは、単なる技術紹介に終わらず、ビジネス課題の解決やDX推進の実践的なヒントが得られる点で非常に有意義でした。HPEのソリューションが、セキュリティ、性能、効率、サステナビリティといった多様な観点から企業の課題解決に寄与することが具体的に示されており、参加者として大いに満足できる内容でした。
特に印象的だったのは、HPE ProLiant Compute Gen12の革新的なセキュリティ技術です。
「Silicon Root of Trust」やポスト量子暗号への対応は、セキュリティ脅威が増加する現代において非常に重要な技術であり、将来を見据えたセキュリティ取り組みに感銘を受けました。
また特別講演では、技術だけでなく経営や組織変革といった広範な視点を取り入れることで、自社におけるAI導入やDX推進の未来像を描くヒントを得ることができました。
特に、『知の探索』と『知の深化』のバランスを取る重要性や、AI時代において人間が担うべき役割として『感情労働』や『意思決定』が求められるという点が印象的でした。
今後、お客様へシステムのご提案をする際に、今回学んだ内容を活用し、より良い提案をしていきたいと思います。