SIMアプレットによる基地局情報を
活用したIoT機器見守りの検討
【技業LOG】技術者が紹介するNTTPCのテクノロジー
はじめに
NTTPCではモバイル通信のSIMを活用した多くのサービスを提供しております。代表例として、モバイル通信と閉域の連携を特長とする「Master'sONE®モバイル」、AI/IoTでのエッジ機器の運用課題を解決する「エッジマネジメント」が挙げられます。
私達技術チームは前述のNTTPCサービスへのさらなる付加価値の向上を目指し、様々な分野の技術調査と検証を実施しています。その1つとして、SIMアプレットに注目し、社内外にSIMアプレットの活用方法の理解を広げるための活動を行ってきました。
本記事では、具体的なユースケースとしてIoT機器見守りを想定したデモと、その中で得た基地局情報を活用してGPSに頼らないIoT機器の存在エリアの推定についてご紹介していきます。
前回の記事からの環境の変化
機器の見守りでSIMアプレットを活用する理由
多くの機器に対し、機器そのものに特別なソフトウェアを導入しなくても見守りが可能であることです。
これを実現するSIMアプレットの優位点を下記にご説明をいたします。
- SIMが扱える機器であればOSやメーカーを超えてアプリケーションの動作が期待できる。
- SIMアプレットが機器情報を取得し、外部システムと連携することができる。
様々な機器で動作するSIMアプレット
本記事でのSIMアプレットとは、SIMにインストールして動作するJavaアプリケーションのことを指しています。(詳細は前回の記事も合わせてご参照ください。)
SIMでアプリケーションを動作させることにより、SIMを利用する機器であれば同じ動作をすることが期待できます。例えば、スマートフォンとフィーチャーフォン(いわゆる、ガラケー)にアプリケーションをインストールするなら、それぞれの機器にあったアプリケーションを別々に用意する必要があります。しかし、SIMにアプリケーションをインストールするSIMアプレットではどちらの機器でも同一のアプリケーションが動作することが期待できます。
この特長により、今後のIoT化が進み様々な通信機能を持つ機器が登場しても、SIMを挿入するだけで機能を付加できる見込みです。利用者が手を加えられないような機器、例えば市販されているモバイルルーターなどでもこれを実現できる可能性があります。
上図はSIMアプレットが機器と連携して動作する様子を模式的に示しました。
多くのSIMを利用する機器にはSIMと連携するエージェント(以下、エージェント)が標準搭載されています。このエージェントとSIMアプレットが連携することで、機器の様々な機能を利用することができます。この仕組みにより、同一のSIMアプレットが異なる機器(図中のSIMを利用する機器A、B)でも同様の動作をすることができます。ただし、利用できる機器の機能はエージェントにより異なります。多くは標準化されていますが、OS、機器メーカー、製造時期により差異が発生する場合があります。
情報取得と外部システムとの連携
前述の仕組みによって、SIMアプレットはエージェントと連携して機器の情報とTCP通信による外部システムとの連携が可能です。取得できる情報には、IoT機器の見守りに有用な情報があり、今回構築したデモでは下記を活用しています。
- SIMが挿入されている機器の情報
- 機器のIMEI
- 接続しているモバイル回線の通信状態
- 電波の強さ
- モバイル通信の基地局関連の情報
SIMアプレットの動作検証デモを用いたIoT機器見守りの検討
デモの概要
SIMアプレットの動作検証のために、IoT機器見守りのデモシステムを構築しました。デモは次の図のような構成になっています。
デモの動作の流れは次の通りです。
- SIMアプレットは機器から見守りに有用な情報(IMEIなど)を取得し、定期的にデモのサーバー(外部システム)に送信します。
- サーバーはSIMアプレットから受信した情報をもとに表示用データを作成します。
- 機器のIMEIをもとに機種を特定する
- 基地局関連の情報をGoogle Maps Platformに問い合わせて、機器が存在する推定のエリアを取得する
- 作成したデータをもとにデモ画面を表示します。
デモにおけるIoT機器見守りの様子
実際のデモ画面は、次のようになっています。
画面左側に機器の健全性を確認できる情報、画面右側に機器が存在エリアの推定を表示しています。
- 端末情報(画面左側)
- 機器の種類、IMEI、電波状況、データの受信時間を表示し、機器の健全性やデータの鮮度(何分前のデータであるか)が確認できます。
- 端末存在エリア(画面右側)
- 機器が存在すると推定されるエリアを地図で確認できます。これはGPSによらず提供されるもので、GPS非搭載端末でも確認することが可能です。
- 存在エリアは中心点と誤差半径が存在し、円の範囲内のどこかに機器が存在するであろうことを示します。
様々な機器を用いた検証
次に、ひとつのSIMアプレットを用いて、同じSIMアプレットが様々な機器で動作することを検証しました。
検証を行った機器は次の通りです。
- スマートフォン:iPhone (iOS)、 Sony Vaio (Android)
- タブレット:iPad (iPadOS)
- その他:モバイルルーターやM2Mルーター
検証の結果、すべての検証機器で問題なくデモ画面にデータを表示することができました。あわせて、存在エリアを比較したところ、機器の差による存在エリアの違いはほとんど見られませんでした。
この結果から、今回私達が作成したSIMアプレットは、SIMが扱える機器であれば端末の種類、OSまたはメーカーを超えて動作できるのではないかと考えています。
機器の存在エリアの精度
機器の存在エリアの推定について、その精度の追加調査を行いました。
上図は山の手線に機器(スマートフォン)を持ったメンバーが乗車し、スタートからゴールに向けて移動した時の推定されたエリアを時間毎にプロットしたものです。左図はエリアの中心点のみ、右図はそれに加えて誤差の範囲を描画しています。
左図からは、ほとんどの点が山手線の線路上にあることから、多くの場所で高い精度のデータが取得できていることが推測できます。
右図からは、存在エリア推定の誤差範囲が場所毎に異なることがわかりました。今回計測した範囲では、もっとも誤差の小さいところで500m程度、誤差の大きいところでは1000m程度になりました。
今後の展望
今回の検討によって、SIMアプレットを用いることで、多種多様なIoT機器の見守りが実現できそうだという知見が得られました。
この検証結果を受けて、私達は、「IoT機器みまもり」のサービス化に向けて次の検討を進めています。
このサービスは、ルーターやIoT端末などに今回のデモのようなSIMアプレットを入れることで、動作不良や機器の盗難などのトラブル発生をただちにお客さまにお知らせするという内容を想定しています。
この構想について、展示会の場で実際のお客さまと意見交換しましたところ、IoT機器の中には、監視用エージェントを組み込むことが困難な機器や、GPS機能を組み込むことが難しい機器が数多くあるという声がありましたので、SIMカードを差し込むだけで機器見守りができることには利用価値があると考えております。
おわりに
本記事では、SIMアプレットを用いた、IoT機器見守りを想定したデモと、GPSによらない機器の存在エリアの推定について紹介しました。私達は、モバイル通信SIMを活用したサービスの付加価値向上を目指して本検証を行いました。その結果、SIMアプレットを活用することで、機器見守りという新たな価値を実現できることがわかりました。
今後は「エッジマネジメント」を皮切りに、SIMアプレットのNTTPCサービスへの活用を進め、より大きな価値を生み出せないかを引き続き検討してまいります。
SIMアプレットに関するお問い合わせはこちらからお願いします。
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