NTTPCとハードウェア開発のはなし

【技業LOG】技術者が紹介するNTTPCのテクノロジー

2020.03.05
その他
尾崎 文則

ネットワーク機器 プロダクト・プロデューサー
尾崎 文則

技業LOG

NTTPCとハードウェア

NTTPCコミュニケーションズ(以下NTTPC)と言えばNTTグループ初のISP、InfoSphere®であったり、日本初のデータセンターであるWebARENA®であったり、国内で古くから先進的なインターネットサービスを手掛けてきた会社として認知度が高いのだと思われますが、NTTPCの顔はそれだけではありません。
国内、とりわけNTTグループの技術戦略会社として、もう一つの大きな役割を担ってきた歴史があります。実はそれが、主に海外ベンダーとのアライアンスによるハードウェアやアプライアンスの協同開発事業なのです。

NTTPCのハードウェア開発のはじまり

時は1998年、当時はインターネットの黎明期にあたりますが、この頃は世界各国の通信事業者が独自に開発してきた方式や、それを実現するための高価な機器に依存するサービス開発から、いわゆるインターネット標準であるRFC(Request for Comments)に準拠した機器を比較的安価に調達し、インターネット標準に基づいたサービス開発に移行しようとしている時代でした。
NTTグループもその流れを受けて、初めて国内メーカーのフルスクラッチによる装置開発をやめ、インターネット標準に基づいて開発された、海外の先進的な製品を活用した専用線サービスを開発しました。
これに際し、当時先進的なフレームリレー装置を開発していたCascade社と提携し、彼らの製品に、NTTが必要と考える機能や性能を盛り込んでもらった製品を開発して調達したのが、NTTPCだったのです。

NTTPCのハードウェア開発の歴史

NTTPCのハードウェア開発の歴史 概要図

特注ソフトウェアの時代

1998年から始まった開発/調達は、ハードウェアの部分は必要な性能だけを伝えて、細かな仕様はベンダーに任せつつ、ソフトウェアに関しては独自性や日本の顧客の趣向にあわせて、柔軟かつ徹底して開発を行いました。例えば私が直接携わったNetApp社のC2100で言えば、NEC社製の配信サーバーと認証を絡めた同期が取れるような開発を行い、2001~2002年という、まだ法整備も十分でなかった時代に、Video On Demandサービスを実現しましたし、今はもう会社が存在しませんが、Procket社のルーターは、まさにNTTのNGN網向けの製品と言っていいほどにカスタマイズされ、当時はまだドラフトレベルだったと思いますが、動画配信を念頭に置いてIP v6のマルチキャストなども実装させた記憶があります。
2000年代のハードウェアについて言えば、まだこの当時はCPUやメモリ、それらを繋ぐバス類のスピードが今と比べれば非常に遅く、高速な通信機器にはASICという専用論理演算装置が不可欠とされていましたが、結局これではハードウェアの価格が下がらないばかりか、ハードウェアの保守費も高止まりしてしまい、独自開発時代と比べれば確かにサービスコストは下がりましたが、結果として想定したほどではなかったという事がよく起こっていました。

NTTPCに蓄積されたノウハウ

NTTPCはこの時代に多くの機器をベンダーと共同開発し、主にNTTグループのサービス網に投入してきましたが、全て独自開発していた時代と比べると、様々な部分をベンダーに異存するために、ブラックボックスになっている部分も多く、その分、予期せぬトラブルに多く見舞われました。ハードウェアの細かい仕様はベンダーにお任せというスタンスであったにも関わらず、結局はハードウェアの作りや仕様にまで踏み込んでトラブルシューティングせざるを得ないことも頻繁にあり、結果としてそうした経験値がどんどん蓄積されていきました。

特注ソフトウェア+特注ハードウェアの時代

2010年代になってくると、CPUやメモリ、それらを繋ぐバス類、大容量なストレージなども随分高速になり、汎用的なパーツを組み合わせるだけで、十分サービス仕様の要求に合う装置を作ることが出来るようになってきました。
そうした折、NTTPCでリリースしたセキュリティのオペレーションサービスであるSecurity BOSS®と、そのサービスでオペレーションするUTMがグループ会社から注目され、彼らが販売するSMB向け通信機器のラインナップとして、新しくUTMを開発して欲しいという要望を受けました。

そこでNTTPCは、当時販売していたUTMを製造するAstaro社(現Sophos社)と協力し、セキュリティに詳しくない顧客層にも分かり易いように、設定をシンプル化するソフトウェア開発とともに、当時200Mbps出るようになったフレッツ光の通信速度でセキュリティ機能が十分動くハードウェアの開発を行いました。
このハードウェアは特注ハードウェアではありましたが、完全に汎用部材を組み合わせて作ったので、コストを十分に抑えることに成功し、結果としてこれが最終的なエンドユーザー向けの価格にも反映できたことで、非常に多くのユーザーに利用される商品に仕立てることが出来ました。
一方で、ソフトウェアに関してはかなり日本のSMBにフォーカスした開発をしたために、要求した機能の全てを、ワールドワイドで販売している通常のソフトウェアの機能の一部として開発することは叶わず、NTTグループ用の特注ソフトウェアという位置付けとなったことで、結果として想定よりも割高になってしまいました。

内製ソフトウェア+ホワイトボックスの時代

2010年代後半になってくると、いよいよ安価な汎用ハードウェアの性能が向上し、この部分に特にお金をかけなくても、ソフトウェアさえきちんと作れば、かなりの性能が出るようになりました。
こうなってくると、サービスを作るコストの支配要因は、ベンダーのソフトウェアに支払うお金と、その維持管理費ということになりますが、特定のベンダーのソフトウェアを使うということは、他と差別化したサービスが作りにくくなりますし、差別化しようとしてベンダーとソフトウェアに特殊な機能を作りこめば、その分コストは高くなります。そのうえ、そのベンダーと離れられなくなってロックインされてしまい、結果的には元と同等以上のコストがかかる構造に陥ってしまうことにもなりかねなくなってしまいました。
また、この時代になってくると、AWS等のクラウドサービスの台頭もあり、上に乗るソフトウェアを様々なハードウェアの上で動かしてサービス化するSoftware Defined系のサービスが、どんどんと出てくるようになり、ますますソフトウェアの優秀さで勝負しなければならない環境にもなってきました。そのため通信キャリアもいよいよ自社でソフトウェアを内製する方向へ舵を切り、内製ソフトウェア+ホワイトボックス(汎用パーツで作った特注ハードウェア)という形でのサービス開発を始めることとなりました。
このような中、NTTPCもこうした方針でサービス開発をするようになり、2017年に誕生したのが、Master'sONE CloudWAN®というサービスです。

参考までに、ここまでの話しを、サービスの差別化とリスク、コストという視点でまとめると、次のようになります。

内製ソフトウェア+ホワイトボックスの時代 概要図

ソフトウェアの時代に活きるハードウェアの知見から生まれた
Master'sONE CloudWAN®

上記のように、Master'sONE CloudWAN®の開発にあたっては、CPE(顧客宅内設置装置)としてホワイトボックスを採用することに決めたのですが、ホワイトボックスはいわゆるODM(Original Design Manufacturing)ベンダーと契約して開発するので、今までのようにハードに関してサービスで要求される性能、機能をベンダに開示して丸投げする。というスタイルは取れません。
つまり内製で開発するソフトウェアの性能を鑑みてベースとなるハードウェアを決め、それにコストを勘案しながら提供したいサービス仕様に合うようにカスタマイズしていかなければなりませんが、逆にある意味、どのようにでもカスタマイズが出来るので、こちらの通信キャリアとしての知見を活かして、独自色の強いハードウェアを作り込むことが可能ですし、それを実現できるベンダーを自由に選定することも可能です。
例えば今回のMaster'sONE CloudWAN®で開発したホワイトボックスの場合には、バックアップ回線としてLTEが使えるようにしたのですが、SIMの抜き挿しを、箱を開けずにできるようにしました。

Master'sONE CloudWAN®で開発したホワイトボックス 画像

進化するNTTPCのソフトウェア&ハードウェア

我々通信キャリアは、CPEにSIMを挿すためにキッティングが必要なことが分かっているので、いちいち箱を開けてはトータルコストが無駄に高くなることを知っています。しかしながらODMベンダーはそうした事情を知る由もありませんので、提案段階ではどのベンダーも、一度箱を空けて中にSIMを挿す方式の箱を提案してきました。これに対して我々は、外から抜き挿しできる箱の提案を持ってくるように各ベンダーにお願いし、それが実現できるベンダーを採用して今に至ります。
また、ホワイトボックスの開発というのは、こうした仕様決めだけで終わるわけではなく、箱の品質保証や故障修理、調達価格とMOQ(Minimum Order Quantity)、調達終了時の義務など、ODMベンダーとの間で様々な条件を決めて契約にまとめる必要があるため、こうした契約関係の知見も必要になってくるのですが、ここでも我々が今まで機器ベンダーとやってきたビジネス経験が活きてきます。
そもそもどんなベースハードウェアやパーツを選ぶべきか、どうやったらトータルコストが下げられるか、どうやったMOQを小さくできるか、ソフトウェアとハードウェアの狭間で問題が起こった時はどうやって解消するのか、技適を取るためには何が必要か、何がODMベンダーに任せられて何が任せられないか、などなど、ソフトウェアの時代だからこそ役に立つ、ハードウェアでの経験や知見が沢山あることを、最近改めて感じています。

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