衛星画像による新規建物検知AIを利用したアイディア検討とPoC

【技業LOG】技術者が紹介するNTTPCのテクノロジー

2024.08.02
池上 和馬

ソフトウェアエンジニア
池上 和馬

取得資格:基本情報技術者、Certified ScrumMaster

1. はじめに

本記事では、地球観測衛星データ解析ソフトウェア開発や宇宙ビジネスに関する調査やコンサルティングを手掛ける株式会社スペースシフトさまと協力し、新しいアイディアや価値の創造を目的とした検証内容について紹介いたします。
検証ではNTTPCが持つクラウドサービスである「VDIクラウド for デジタルツイン®」と、スペースシフトさまが提供している衛星情報解析サービスである「新規建物検知AI」を掛け合わせた技術検証を行いました。
記事では今回の検証で利用した2つのサービスについて紹介を行い、その後検証の際に作成したPoC(Proof of Concept:概念実証)の内容についても紹介します。衛星情報の解析データに興味がある方や、PoC内容を見て興味を持たれた方々のご意見などを頂戴できますと幸いです。

2. 新規建物検知AIとは

まずは新規建物検知AIについて紹介します。新規建物検知AIとは、同じ場所を異なる時期に撮影した2つの衛星画像を比べた際に発生する差分をAIで検知・分析を行うことで新たに建設された建築物を自動で検出することができるサービスとなっております。
AI解析に用いる衛星画像はSAR画像と呼ばれる、地球地表上へ衛星から照射された電波の反射情報から観測したデータを基に作成した画像を使用します。
新規建物検知AIは

「衛星自ら発した電波の跳ね返りを観測しているため、常に同じ条件で対象物を撮影でき、太陽光の状態によって見え方が異なる光学画像と比較すると、対象物の変化を検出しやすいという特徴があります。」引用元:光学衛星とSAR衛星の違い | SPACE SHIFT (spcsft.com)

というSAR画像の特徴を活用したものです。

SAR画像を用いて解析を行う新規建物検知AI

図1. SAR画像を用いて解析を行う新規建物検知AI

また、解析した結果は地理参照情報である座標が埋め込まれたファイルであるGeoTIFF形式画像で出力されます。
新規建物検知AIはAWS Marketplaceで"Sentinel-1 New Building Detection API"というサービス名で一般公開されており、都市の開発動向の把握と開発計画の作成や建設予定地周辺状況の調査など様々な分野での活用が期待されております。
AWS Marketplace"Sentinel-1 New Building Detection API"URL:
AWS Marketplace: New Building Detection API Sentinel-1 (amazon.com)

3. VDIクラウド for デジタルツイン®とNVIDIA Omniverse™

VDIクラウド for デジタルツイン®とは、設備や環境を用意しなくても、3DCGアプリケーションをVDI方式のクラウドサービス上で利用可能なサービスです。クラウド上に構築した仮想空間上で3Dモデルの作成や編集などを複数人でリアルタイムに共同作業することが可能であるという特長があります。VDIクラウド for デジタルツイン®の詳細なサービス仕様についてはNTTPCのWebサイトをご確認ください。
今回の検証ではNVIDIA Omniverse™を利用可能な仮想デスクトップ環境を用意しました。

4. PoCの内容

ここまでで今回検証に利用した技術の紹介をいたしました。ここからは具体的な技術検証内容について触れていきます。
検証では新規建物検知AIの解析結果に着目しました。出力した解析結果を、3DCGで作成した都市に反映させることで差分の可視化を行い、実際の状態を再現した都市と合わせてみることでイメージの把握に貢献できるのではないかという仮説を立ててPoCを作成してみました。
そのために、まずはNVIDIA Omniverse™へ3D都市モデル「PLATEAU」のデータを取り込ませることで仮想空間上に東京都を再現しました。

3Dデータを基に作成した東京都

図2. 3Dデータを基に作成した東京都

NVIDIA Omniverse™へPLATEAUのデータを取り込む方法についてはこちらの記事でまとめられておりますので、興味がありましたらご確認ください。今回作成したPoCも上記の記事で紹介された手順を用いて作成しました。
新規建物検知AIで解析を行ったSAR画像は2020年と2022年の東京都になります。

左が2020年で右が2022年の東京都

図3. 左が2020年で右が2022年の東京都

この2年間の差分を解析した結果が図4です。大部分が黒で埋め尽くされている中、いくつか白い点が表示されております。この白い部分が、差分があったと判定された座標になります。

新規建物検知AIでの解析結果

図4. 新規建物検知AIでの解析結果

そして図5の通り、解析結果を基にNVIDIA Omniverse™上の東京都の該当エリアを赤色に変更してみました。エリアの色変更は、オープンソースソフトウェアであるQGISを用いて解析結果であるGeoTIFF画像から差分がある座標を取得。その後、PLATEAUのデータから該当座標が含まれるエリアを検索して色の変更を行いました。

解析結果を反映させた東京都

図5. 解析結果を反映させた東京都

このように見てみるとGeoTIFF画像で見るよりも直感的に差分がある場所がわかるのではないでしょうか?
今回作成した仮想空間上の東京都は1㎢毎に区切ったエリアを1つずつ読み込ませることで作成しています。この場合だと、変更のあった正確な座標を確認することは難しいですが、エリア内に差分があるのかを一目で把握しやすいのではないかと考えております。将来的に正確な座標を確認するために、エリアを1㎢毎に区切るのではなく、もっと細かくエリアを作成して読み込ませることも検討しております。

5. 今後の展望

今回は新規建物検知AIの解析結果を仮想空間上に反映させて可視化を行ったが、さらに要素を組み合わせることで新しい価値を見出すことができると考えています。例えば、今回のPoCに人や車が移動する流れをデータとして取り入れることができれば、ある地点に建物が建築された際に交通量に与える影響を予測することや、太陽の高度と方位を表したデータを取り入れることで建物が作り出す影の状態を予測するようなシミュレーションを実現できるのではないかと検討を行っております。
他の考え方だと、仮想空間の都市モデルの更新頻度を短くすることで、最新の都市状況をVDIクラウド上から容易に確認可能な状態を作り出すことも考えております。この考えは、都市部で災害が発生した際に仮想空間上の都市から被災地の状況を把握することで救助や対応の手助けができないか検討しております。

6. 終わりに

本記事では、スペースシフトさまが提供する新規建物検知AIとNTTPCが提供するVDIクラウド for デジタルツイン®を組み合わせたアイディア検討とPoCの紹介をしました。それぞれの技術領域やサービスに興味がある方がいらっしゃいましたらご意見を頂戴できますと幸いです。
記事中でも今後の展望について紹介いたしましたが、新しい検証結果が出ましたら記事として紹介したいと考えておりますので、引き続きよろしくお願いいたします。

  • AWSは、米国その他の諸国における、Amazon.com, Inc.またはその関連会社の商標です。

技業LOG

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VDIクラウド for デジタルツイン®

NVIDIA Omniverse™や3DCGソフトがロケーションフリーで利用できる、3次元モデル向け仮想デスクトップサービス

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