「好奇心」と「想像力」、
これが良いサービスを生むためには
必要不可欠なのではないでしょうか

ユーザー・開発者双方の目線で効率化を実現する
ネットワークエンジニア

武藤 睦美

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近年の第三次AIブームの到来により、多くのビジネス領域でAIが活用され始めています。NTTPCでも、AIチャットボットを活用したCPE(お客さま宅内ルーター)状態確認ツールを開発。NTTPCサービスのOEM(納入先ブランドによる受託製造)においてエンドユーザーさまへのアフターサポートを行っているパートナー企業への導入では、一定以上の効果を発揮しています。AI活用はお客さまのネットワーク利用に、どのようなメリットをもたらすのか。NTTPCの基幹ネットワークの開発で活躍する武藤 睦美が、その可能性についてお伝えします。

EXPERTS

AIチャットボット導入で、
保守窓口業務を80%以上削減

AIチャットボットは、どのような領域で活用していますか?

私は現在、ネットワークエンジニアとしてNTTPCの基幹ネットワーク開発を行う技術部門に所属し、Master'sONE®で提供しているCPEの開発業務を行っています。要求仕様に基づいて市場調査・検討・検証を行ったのち、レンタルCPEを市場に展開することが主な業務です。そして展開後の運用フェーズでは、各部門からの仕様に関する質問対応やトラブルシューティング支援なども行っています。

AIチャットボットは、トラブルシューティング支援の業務領域で活躍しています。私達のチームではIBM Watson Assistantサービスを活用し、CPEの状態確認が出来るチャットボットツールを開発しています。数年前、「自動化」というキーワードが出始めましたが、人の手で行っていたCPEの検証なども現在は自動化を行っており、実用フェーズに入っています。同じくCPE運用業務における自動化においても、CPE状態取得API(プログラムの機能を共有する仕組み)の開発を進めていたことから、これをAIチャットボットと組み合わせることで運用業務の効率化ができるツールを作りました。現在は社内運用部門と一部のパートナー企業向けに、トライアル提供を進めているところです。

導入によってどのような効果がありましたか?

お客さまはNTTPCのネットワークを使っている中で「なんとなく通信速度が遅い」「CPEのLEDがいつもと違う色な気がする」といった些細なことに対して故障への不安を抱き、窓口へ問い合わせます。そうした疑問や質問に対して、パートナー企業やNTTPCのオペレーション部門がやりとりし、問診や回線の工事・故障情報の確認、CPEの状態確認を行うなど、問題解決に向けてサポートします。しかしこれだと、お客さまへの回答に時間がかかってしまっていたのです。

そこで、まずは故障なのかどうかを迅速に切り分けるためのツールとして、AIチャットボットが役立っています。AIチャットボットのメリットは、チャットという簡易性および、あいまいな話し言葉からでも目的を分類できることです。つまり、コマンドなどの技術的な専門知識を持たないお客さまでも、簡単に欲しい情報を引き出すことが出来ます。実際にパートナー企業向けにトライアル提供したところ、マニュアルなどを必要とせず、すぐに使ってくださいました。この結果、月300件ほどの保守窓口業務の80%以上が削減されました。この数字が、AIチャットボットの有効性を立証していると思います。

EXPERTS

好奇心と使い手への思いやりが
新たなサービスを生む

AIチャットボットを開発した経緯を教えてください。

長年CPEの開発・運用サポートを行ってきた中で、運用部門へ展開する運用マニュアルは膨大な情報量になっていました。そのため、サービスに精通するまでには多くの時間を要していたのです。これとは別に、社内でのCPEの仕様確認に関する質問内容にも、重複するものが非常に多いという課題がありました。質問者と回答者、両方の負担を軽くすることが必要だったのです。その解決策として、AIチャットボットを活用できるのではないかと考えました。

実はAIやチャットボットについては、サービスとして提供する前から個人的に研究していました。2000年代の「第三次AIブーム」以降、AIの実用性が非常に高まると同時に、チャットボットが身近な存在になりました。まずはフリーツールで作成した試作品を社内向けのFAQチャットボットとして展開することから始めたのです。更に「このシステムを活用できないか」とチーム内で話し合った結果、CPEの状態を取得するチャットボットツールという構想が生まれました。

開発の中で大切にしていたことはありますか?

チャットボットに限らず「使う側の気持ちになる」ことだと思います。私は以前に社外向けのシステムエンジニアとして働いた経験がある中で、パートナー企業だけでなくエンドユーザーさまとも接する機会がたくさんありました。その経験から、お客さまと対応者、双方の想いや苦悩、苦労をある程度理解しているつもりです。

最初に作った社内向けFAQチャットボットは、「膨大な情報量にすぐアクセスできるように」という思いだけではなく、別の考えもありました。人間なので、一度聞いたことを忘れてしまうことはどうしてもあり、相手に質問をする際、「これ前に聞いたかも」「実はマニュアルのどこかに書いてあるのかも」などのためらいや気後れを感じることもあります。また、メールで問い合わせる際は、「お疲れ様です」「お忙しい所申し訳ありません」といった些細な気遣いが必要になることもあります。私は主に回答者側ですが、こうした心理的な負担をも軽減したかったのです。このような、「相手の立場だったら」という想像力が良いサービスを生むには必要不可欠なのではないでしょうか。

一方でプロダクト部門での業務を経て、現在の基幹ネットワークの開発に携わる中で、お客さまだけを見て開発することの難しさも痛感しています。このジレンマに悩みながらも、社内からの問い合わせ・相談に対して、常にその先にいるお客さまの気持ちを考えて迅速・真摯な対応を心掛けています。

それに加えて、技術者として最新技術を含め、幅広く情報収集することも重要だと思います。チャットボットの導入についても、最初からこのツールを使って課題解決したいというより、根底にあったのは好奇心や遊び心でした。部内会議でチャットボットについて紹介した際、上司を含め多くのメンバーが「面白いね!どういう仕組みになっているの?」「こんなチャットボットを作ったら面白いんじゃない?」など、大いに盛り上がったのをよく覚えています。こうした技術に対しての貪欲な姿勢と遊び心が、新しいサービス・アイディアの始まりには不可欠だと考えています。

EXPERTS

AIでお客さまが安心して
ネットワークを使えるようにしたい

チャットボットをはじめとするAIツールを活用して、今後取り組みたい領域はありますか?

今回のチャットボット導入では、オペレーション部門の負担軽減で大きな成果を得られました。あまりの申告数の減少に、経緯を知らない担当者が「一体、何をしたんですか!?」「軽く革命起きてます!」と私の席に来たほどです。トライアル提供しているパートナー企業からも「次はこの領域もチャットボットに対応してほしい」というリクエストが続々と届いています。

現在進めている計画では、パートナー企業向けサービスである、Master'sONE® SIVコラボレーションへの適用を検討しています。これはNTTPCの終端装置に、パートナー企業が選んだCPEを接続してネットワークが利用できるというものです。しかし、不具合が発生した場合、パートナー企業でのCPEの確認だけでは原因究明には至らず、終端装置の状態について、NTTPCへの問い合わせが必要になる場合もあります。チャットボットの活用により、終端装置の状態確認に要する負担をも軽減し、より安心してネットワークが利用できるような取り組みを進めています。

現在はCPEなどの状態確認ツールにとどまっていますが、今後はネットワークサービス全体の品質を見える化できるツールや、AIによるネットワークサービスの故障予知・検知システムを実用化していきたいですね。

IBM Watsonは、世界の多くの国で登録されたInternational Business Machines Corp. の商標です。

PROFILE

武藤 睦美(むとう むつみ)

経歴:2002年にNTTPCコミュニケーションズ入社。製販一体となる新規立ち上げの事業部に配属され、SEとして顧客ネットワークのSI構築を行う傍ら、CPE開発業務に就く。現在はNTTPCの基幹NW開発を行う部門にて、NW機器の評価・検証および運用部門からの技術的なエスカレーション対応を行っている。

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