ウェルビーイングとは? 意味と重要性、企業が実施するメリット
生産性や品質の向上、人材不足の面からも注目を集めている従業員の「ウェルビーイング(well-being)」。今回は、ウェルビーイング経営やその構成要素について解説するとともに、実現による企業へのメリットや健康経営®との関連について読み解きます。
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ウェルビーイングとは心身ともに満たされた状態を表す概念
「ウェルビーイング(well-being)」は、英語の「well(良い、満足)」と「being(状態、存在)」とを組み合わせた言葉で、心身ともに満たされた状態を表す概念です。
WHOの前文には「Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.」の一文があり、これは公益社団法人 日本WHO協会の仮訳によれば「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」とされています。つまり日本語でいえばウェルビーイングは「すべてが満たされて」いることとなります。
また、厚生労働省も、2019年の雇用政策研究会報告書の中で、「『ウェル・ビーイング』とは、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念」定義しています。
ウェルビーイングと「健康」との違い
WHOの前文では、「健康」の定義の中に「ウェルビーイング」という言葉が登場します。
従来の、肉体的に良好な状態を示す「健康」という概念を、精神的、社会的な状態を含むすべてにおいて「ウェルビーイング」な状態であるというより広い概念へと飛躍させているともいえます。
英語でいえば、従来の「健康」は「wellness」、WHOの新たな定義は「well-being」にあたります。
ウェルビーイングと「幸福」との違い
ここまでお読みになって、ウェルビーイングが「幸福」に近い意味を持つという印象をお持ちになった方もいるかもしれません。実際に「well-being」には「幸福」の意味があります。また国語辞典で「幸福」を引いてみると「恵まれた状態にあり、満足で楽しく感じること」などのように書かれていますから、両者が非常に近い意味を持つことが分かります。
しかし、「感じる」という言葉からも分かるように、「幸福」は主に感情面における「幸福感」を指す言葉で、刹那的・瞬間的な概念をも含みます。その点で、持続的・継続的な状態を指すウェルビーイングとは明確な違いがあります。
また、幸福に関連する英単語には「happy」「blissful」「glad」「welfare」などがありますが、「happiness」「blissful」「glad」は従来の幸福の定義と同じく感情面における刹那的、瞬間的な概念を指します。また、「welfare」には「福祉」の意味もあり、個人的な幸福に加え、人々の幸福を実現するための社会の仕組みや制度を指すこともある点で違いがあります。
ウェルビーイングを測る5つの要素
ある人がウェルビーイングの状態にあるかを科学的に計測する要素として「PERMA(パーマ)」が知られています。これは人間の幸福について科学的に検証する学問である「ポジティブ心理学」の権威マーティン・セリグマン氏が提案したもので、「Positive emotion(ポジティブな感情)」「Engagement(対象活動への没入・没頭)」「positive Relationship(ポジティブな人間関係)」、「Meaning(対象活動の意味・意義)」、「Achievement(達成感)」の各文字を取ったものです。これらの要素でどれだけ満たされているかが個人のウェルビーイング度を測る尺度になるとしています。
また、アメリカのギャラップ社は、これらの要素について世界規模で大規模調査を実施し、その結果からウェルビーイング実現には「キャリア面(Career)」、「社会面(Social)」、「経済面(Financial)」、「肉体面(Physical)」、「共同体面(Community)」の5つの面が満たされることが必要であるという結論を出しました。調査は100以上の国と地域で行われましたが、これらの面は地域や民族に関わらず共通であるとのことです。
ウェルビーイングの重要性と注目される背景
ウェルビーイングの実現を目指すことは、充実した人生を送る基盤を作る上で重要です。また、ストレス耐性を高めるとともに、人間関係を改善できるなど様々なメリットもあります。また、次のような社会情勢の変化もあり、近年ウェルビーイングが注目されています。
経済発展と幸福度のギャップの認識
経済成長にともない、日本ではGDPなどの経済指標が大幅に向上しました。経済的には豊かになったはずですが、その反面、個人の幸福度を高めるには物質的な豊かさだけでは不十分だということも分かってきました。そこで、精神的、社会的な幸福を含むウェルビーイングへの関心が高まりました。
メンタルヘルスの重要性の周知
近年では、気分障害などの精神疾患や自殺率の増加が社会問題化しています。そこで、肉体面における健康に加えて精神面における健康(メンタルヘルス)の重要性が再認識され、対策が求められるようになりました。そこで、精神的な幸福を含むウェルビーイングへの関心が高まりました。
働き方改革の推進
過労死の増加などがきっかけとなり、働き方改革が推進されるようになりました。また、社会環境の変化にともないワークライフバランスも重視されるようになり、企業や政府が取り組みを強化してきています。企業にとっては従業員のウェルビーイングの向上が直接企業の生産性や業績に寄与し、また離職率の低下につながるということが知られるようになり、ウェルビーイングへの関心が高まりました。
SDGsの採択・普及
社会全体の活力を向上させ、持続可能な社会の実現を目指す「SDGs」の宣言部分には、私達が望む未来の世界の例として「すべての人が貧困や飢えや病気から守られ、必要なことが満たされ、心豊かに人生を送ることができる世界」が謳われています。これにより国際社会全体で同様の概念を持つウェルビーイングの重要性が認識され、またSDGsを推進する企業でもウェルビーイングへの関心が高まりました。
健康寿命延伸が社会課題化
医療技術の発達により長寿命化が進みました。そして社会全体の高齢化にともない、社会保障費や医療費の抑制が新たな課題として浮上しました。また、高齢者のQOLの維持も課題となっています。
そこで、健康寿命を平均寿命に近づけ、社会貢献活動などを通じて自己実現へと繫げることができるウェルビーイングへの関心が高まりました。
デジタル化の推進
インターネットやスマートフォンが普及して必要とする情報を得ることが容易になったこと、ウェアラブルデバイスなどのいわゆる「ヘルステック」が普及したことなど、個人の健康状態の把握・管理が簡単かつ効果的にできるようになり、ウェルビーイングを実現できる技術的な環境が整ってきたこともウェルビーイングへの関心向上への後押しとなりました。
世界幸福度ランキングが示す日本の課題
2024年の世界幸福度ランキングによると、日本は143ヶ国中51位にランキングされています。前年の2023年の47位より順位を下げていますが、この10年間は平均52位で推移しています。G7に限定すると、カナダ15位、イギリス20位、アメリカ23位、ドイツ24位、フランス27位、イタリア41位と、経済先進国の中でも我が国は下位に位置していることが分かります。
このことからも、日本にはまだまだウェルビーイング向上が不可欠であるという現状が把握できるでしょう。
日本政府の取り組み
政府は2021年の成長戦略実行計画に「国民がWell-beingを実感できる社会の実現」を盛り込み、「成長戦略による成長と分配の好循環の拡大などを通じて、格差是正を図りつつ、一人一人の国民が結果的にWell-beingを実感できる社会の実現を目指す」としました。また、同年の「経済財政運営と改革の基本方針2021」において「政府の各種の基本計画等について、Well-beingに関するKPIを設定する」とし、関係府省庁が連携してWell-beingに関する取り組みを推進するため連絡会議を設置しました。
さらに内閣府はウェルビーイングの観点から経済社会の構造を分析し、政策運営に反映する目的で2019年より「満足度・生活の質に関する調査」を行うなど、ウェルビーイング実現への取り組みを進めています。
ウェルビーイングの実現が企業に与えるメリット
従業員のウェルビーイングの実現は、次のように企業にも数々のメリットを与えます。
生産性や品質の向上
ウェルビーイングの「Positive emotion(ポジティブな感情)」「Engagement(対象活動への没入・没頭)」などの要素は、生産性や自社サービスの品質向上へと繫がります。
人材の確保・離職者の減少
ウェルビーイングの「positive Relationship(ポジティブな人間関係)」「Achievement(達成感)」などの要素は、自社への帰属意識を高め、新規雇用による人材の確保や、離職者の減少による労働力の充足に役立ちます。
保険料負担の軽減
ウェルビーイングの「Meaning(対象活動の意味・意義)」「Achievement(達成感)」などの要素は、ストレスの軽減とメンタルヘルスの維持に寄与し、長期的には保険料負担の軽減に繫がります。
企業価値の向上
上記のような生産性や品質の向上、従業員のウェルビーイング実現などの要素は、将来的には企業の生産性などの経済指標や離職率などの客観的評価に繫がるため、企業価値の向上にも繫がります。
ウェルビーイング経営と健康経営は関連性が高い
近年では、ウェルビーイングの実現を目指す「ウェルビーイング経営」という言葉も生まれています。「従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、戦略的に実践する」健康経営をさらに発展させた概念で、自社の範囲を超え、取引先、延いては社会全体のウェルビーイングを目指す経営方針です。
本格的に健康経営を目指せば行く行くはウェルビーイング経営を目指すことになるでしょう。
健康経営について詳しくは、「健康経営とは? 導入メリット・課題・取り組み方法」を参照してください。
企業がウェルビーイングに取り組む方法
では、企業がウェルビーイングに取り組むには、具体的にどのような方策が必要となるのでしょうか。
従業員の健康管理を徹底
ウェルビーイング経営は健康経営の延長上にありますから、まずは健康経営に取り組み、従業員の健康維持に努める必要があります。
具体的には、健康診断、ストレスチェック、産業医との面談など従来の取り組みを通じ、その結果を受けてしっかり対策を採る必要があります。また、それらに加えて健康維持に役立つイベントやセミナーの実施、各種サークル活動のサポートなども有効でしょう。
労働環境の改善
従業員の健康状態を定期的にチェックすることも大切ですが、そもそも心身の健康を崩しにくい、働きやすい環境を作ることも大切です。
長時間労働や過度の残業を回避できる環境はもちろん、コミュニケーションの取りやすい風通しの良い職場環境や、万一パワハラやセクハラなどの問題が発生した場合の相談窓口を設置することが必要です。また、そうした問題を未然に防止できるよう日頃から研修などを通して従業員教育を行うなどの取り組みも必要となるでしょう。
ウェルビーイングの取り組み事例
すでにウェルビーイングへの取り組みを先進的に進めている企業もあります。いくつか具体例を紹介しましょう。
心理的安全性を確保
ある海外のIT企業では、古代ギリシアの哲学者であるアリストテレスの言葉「全体は部分の総和に勝る」の考えのもと、業務を執行する「チーム」としての効率を高めるにはチーム内における「心理的安全性」などが必要不可欠であることを確認しました。
そしてそれらを拡充する取り組みを行った結果、高い従業員満足度、生産性や企業イメージの向上を実現しました。
健康維持のためのイベントを実施
ある国内のIT企業では、従業員のウェルビーイングの向上を目指す事業を行う部署、従業員の組織への帰属意識を高める部署、組織内のウェルビーイングへの取り組み状況を発信する部署を新設しました。
全従業員が参加する朝の集会でストレッチ運動を取り入れたり、昼休みにピラティスのレッスンを導入したりする取り組みに加え、定期的にデータを取り、設定した目標値に対する達成状況を定期的に確認することにより、ウェルビーイングに対する知識や理解を深め、実践できる環境を提供しています。
ウェルビーイングの実施にはデジタルツール活用が効果的
「ウェルビーイング」という概念が誕生したことによる一番の恩恵は、これまで客観的な評価が困難であった「幸福」という概念を、科学的に客観的数値として評価できるようになったことにあります。
そして、こうした測定数値による評価は、スマホアプリやウェアラブルデバイスなどのデジタルデバイスを最大限に活用することができます。ITの力を活用して、従業員の心身などの健康状態について、データを収集、可視化、分析が可能となったわけです。
デジタルデバイスの活用により、従業員がこれまで無自覚だった自身の健康状態を把握し、主体的に取り組むことができるようになります。また、企業側も収集されたデータにもとづき、今後のアクションプランの計画を立案し、実行していくことが可能となります。
ウェルビーイングに取り組みたい企業におすすめの「健康経営®支援サービス」
NTTPCの「健康経営®支援サービス」は、バイタルセンサーを活用することで、客観的なデータとして組織のパフォーマンスや疲労状態などを、個人を特定しない形で可視化するサービスです。従来のアンケート形式の情報収集手段などと比較すると、本サービスは従業員の負担を軽減しつつ、より客観的なデータをタイムリーに獲得することができます。
また、収集したデータを分析することで、従来のアンケートでは見落とされてきた課題の可視化をサポートし、課題解決のためのヒントを得ることができます。
会社全体のパフォーマンスをタイムリーに把握する必要性を感じている経営層・人事部・管理職の方々には特におすすめのサービスです。従業員のウェルビーイングの実現に課題を感じている企業さまは、是非導入を検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
今回は、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを示す「ウェルビーイング(well-being)」について解説しました。
ウェルビーイングを測る指標としては「PERMA(パーマ)」と呼ばれる「Positive emotion(ポジティブな感情)」「Engagement(対象活動への没入・没頭)」「positive Relationship(ポジティブな人間関係)」、「Meaning(対象活動の意味・意義)」、「Achievement(達成感)」の5要素があり、また、その実現には「キャリア面(Career)」、「社会面(Social)」、「経済面(Financial)」、「肉体面(Physical)」、「共同体面(Community)」の5つの要素が満たされる必要があります。
今後、日本が働き方改革の推進などを目指す上でウェルビーイングの充実は喫緊の課題となりますが、2024年の世界幸福度ランキングでは143ヶ国中51位と、経済先進国の中では下位に属しています。
「生産性や品質の向上」「人材の確保・離職者の減少」「保険料負担の軽減」「企業価値の向上」といったウェルビーイング実現のメリットを享受するためには、健康経営を超えた従業員の健康管理の徹底、労働環境の改善といった取り組みが必要となります。
現在、労働力の確保、従業員のモチベーション低下などのお悩みをお持ちの企業さまは、今回のコラムを参考に、デジタルツールなどを活用して従業員のウェルビーイング実現に取り組んでみてはいかがでしょうか。
※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
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