快適なネットワーク環境を構築するために注目されている『ローカルブレイクアウト(Local Break Out, LBO)』。
企業でのクラウドの業務利用が当たり前になる中、SaaS(Software as a Service)やクラウドを利用する際、ネットワーク負荷や接続速度、通信遅延の課題を解決する手段として導入が進んでいます。本記事では、ローカルブレイクアウト(LBO)の仕組みやメリットに加え、導入時に発生しうるデメリットとその解消方法など、押さえておきたい注意点をわかりやすく解説します。安全で快適なネットワーク利用を目指す方必見です!
ローカルブレイクアウトとは
ローカルブレイクアウト(LBO)の定義
ローカルブレイクアウト(Local Break Out, LBO)とは、企業ネットワーク内のトラフィックをインターネットやクラウドへ直接接続するためのネットワーク手法の一つです。従来の企業ネットワークの構成では、すべてのトラフィックが一度本社やデータセンターなどのセンター拠点を経由して接続するのが一般的でした。しかし、ローカルブレイクアウトでは、各拠点、自宅や外出先、デバイスから直接インターネットに接続することで、インターネット通信の負荷分散と低遅延を実現します。これにより、SaaSやクラウドなどのインターネットサービスを快適に利用できるようになります。
インターネットブレイクアウトとの違い
インターネットブレイクアウトとローカルブレイクアウトは類似した概念ですが、インターネットブレイクアウトは、企業ネットワークから直接インターネットに接続される仕組み全般を指します。一方、ローカルブレイクアウトはユーザーが事前に許可したクラウドサービスなど、特定のインターネット通信を各拠点や各デバイスから直接インターネットに接続させるネットワーク通信のことを指します。事前に登録した安全なクラウドサービスは拠点から直接インターネットにアクセスさせ、それ以外の通信はセンター拠点経由での通信にするといった柔軟な通信構成が可能になる点が特徴です。
ローカルブレイクアウトの仕組み
ローカルブレイクアウト(Local Break Out)は、企業ネットワークにおいて、インターネットトラフィックを直接現地にあるローカル拠点からインターネットに接続する仕組みを指します。このセクションでは、その具体的な仕組みについて解説します。
SD-WANを活用したネットワーク構築
ローカルブレイクアウトの実現には、SD-WAN(Software-Defined Wide Area Network)が重要な役割を果たします。従来のネットワーク構成では、すべてのトラフィックが本社やデータセンターを経由する必要がありました。しかし、SD-WANを活用することで、各拠点から直接インターネットに接続できる柔軟なネットワーク構築が可能です。SD-WANはトラフィックの優先順位付けや暗号化機能を備えており、セキュリティを確保しながら効率的な通信を実現します。
トラフィックの分散と最適化
ローカルブレイクアウトのもう一つの特徴は、トラフィックの分散と最適化です。クラウドやSaaSの利用が増える中、すべての通信を本社経由にすると、ボトルネックが発生し、帯域ひっ迫や通信遅延が発生しやすくなります。ローカルブレイクアウトでは、拠点ごとに直接インターネットに接続するため、以下のようなメリットがあります。
• インターネット接続の分散化による帯域幅の効率利用
• インターネット接続点の負荷分散による通信遅延の低減
• センター拠点などにおけるネットワークトラフィックのボトルネック解消
ローカルブレイクアウトが注目される理由
近年、企業ネットワークにおいて「ローカルブレイクアウト」が注目される背景には、働き方の変化やとDX推進が大きく影響しています。
リモートワークの普及
リモートワークやハイブリッドワークの普及により、従業員が自宅や外出先などの社外から業務を行うケースが一般化しました。このような働き方の変化に伴い、従来のネットワーク構成では、トラフィックがすべて企業のデータセンターを経由するため、通信遅延や回線のひっ迫が発生しやすくなりました。一方、ローカルブレイクアウトを採用すれば、拠点や自宅、外出先などからインターネットへ直接接続できるため、リモートワーク環境においても快適なインターネット接続を実現する必要性が高まってきたことが注目される理由の一つです。
クラウドサービスの利用拡大
企業のDX推進に伴い、Microsoft 365やGoogle Workspaceなど、業務でのSaaS利用が急増する中、これらのクラウドにアクセスするためのトラフィックが急激に増加しています。従来型のネットワーク構成では、クラウドへのアクセスが本社やセンター拠点などに集中するため、ネットワークのボトルネックが発生しやすくなります。ローカルブレイクアウトを導入することで、クラウドへのトラフィックを効率的に分散でき、インターネットアクセスのパフォーマンスの向上が可能になります。
ネットワークトラフィックの増加への対応
動画会議や高解像度データの共有といった帯域を大量に消費するアプリケーションの利用が増え続けています。ローカルブレイクアウトは、拠点ごとにトラフィックを分散させることで、ネットワーク全体の負荷を軽減し、安定した通信を確保する仕組みとして有効です。
ローカルブレイクアウトが注目されるのは、これらの課題を効率的に解決し、現代のビジネスニーズに適応した柔軟なネットワーク環境を提供できる点にあります。
ローカルブレイクアウトを導入するメリット
ローカルブレイクアウトを導入することで、企業のネットワーク運用に次のようなメリットをもたらします。
通信遅延の軽減
ローカルブレイクアウトを活用すると、インターネットトラフィックが拠点から直接へ接続されるため、従来の集中型ネットワーク構成で発生しがちな通信遅延を低減できます。特にSaaSやクラウドを頻繁に利用している場合、快適に利用することができ、業務の効率化につながります。Web会議など、リアルタイム性が求められるアプリケーションでも、スムーズな動作が期待できます。
業務の多様化への対応
ローカルブレイクアウトは、クラウドベースのツールやリモートワーク環境の利用に最適です。従業員がどこからでも直接クラウドリソースへアクセスできるため、働き方の多様化に対応することができます。
ローカルブレイクアウトは、通信遅延の軽減、DX推進や働き方の多様化への対応など、多方面で企業の競争力を高める重要な仕組みとなります。
従来のネットワーク構成との違いによるセキュリティ対策の変化
これまでの集中型ネットワークでは社内を安全とし、社外を危険とする境界型防御が一般的であり、セキュリティ対策をする場所も社内と社外の境界に絞られていました。しかし、ローカルブレイクアウトのような仕組みを導入すると、拠点が直接インターネットにアクセスするため、各拠点がセキュリティの脅威にさらされるリスクが高まります。これにより、拠点ごとのセキュリティ対策を多重化するなどの対策が必要となります。
従来の集中型ネットワーク構成
従来のネットワーク構成では、企業の拠点や支社からの通信がすべて一度本社やデータセンターを経由する「集中型ネットワーク構成」が一般的でした。この構成では、インターネットアクセスやクラウドの利用も本社のゲートウェイを通じて行われるため、境界型防御と言われる一元的なセキュリティ管理やデータ監視が可能です。セキュリティ対策の箇所が社内と社外の境界に絞ることで、容易に運用することができていました。
ネットワーク運用における課題の変化
これまでの集中型ネットワーク構成では、セキュリティ対策の管理や監視が一元化されていたため、運用や統制は比較的容易でした。しかし、ローカルブレイクアウトの導入により、拠点ごとのセキュリティ設定や運用管理が求められるようになります。このため、ゼロトラストセキュリティモデルの導入など、新しいセキュリティ技術や運用方法が必要となってきます。このように、従来の集中型構成から分散型構成への移行は、セキュリティ対策に大きな変化をもたらしています。
ローカルブレイクアウトのデメリットへの対策方法

ローカルブレイクアウトのデメリットは拠点から直接インターネットに接続するため、外部からのサイバー攻撃リスク等が高まる点です。このようなセキュリティリスクから各拠点を防御するためには、アンチウィルスソフトだけでなく、より多重のセキュリティ対策をしていく必要があります。拠点ごとにセキュリティ対策を強化するには、以下のような技術が活用されます。
• DNSセキュリティ:ドメインレベルで、フィッシングサイトなど不正なサイトへのアクセスを遮断します。簡易的なCASB(Cloud Access Security Broker)機能も持ち、クラウドへのアクセス制御をすることもできます。
• セキュアウェブゲートウェイ(SWG):URLフィルタリングやSSLインスペクションなどのマルウェア防止機能を備え、高度なインターネットセキュリティを実現します。
• EDR(Endpoint Detection and Response、エンドポイント検出対応):ウイルス対策ソフト(Endpoint Protection Platform、エンドポイント保護プラットフォーム)では既に判明しているマルウェアだけの対策しかできませんが、ふるまい検知機能を持つEDRならば未知のマルウェアにも対応することができます。
これらの技術を組み合わせることで、ローカルブレイクアウト環境でも高いセキュリティを保ちながら通信の効率化を図ることができます。
ローカルブレイクアウトの導入が向いている企業
ローカルブレイクアウトは、特定の企業において特に効果を発揮します。以下に、ローカルブレイクアウトの導入が向いている企業の特徴を具体的に見ていきます。
リモートワークを中心とした働き方を採用している企業
リモートワークを積極的に取り入れている企業では、従業員が社内ネットワークを経由せずに直接インターネットにアクセスできることが重要です。ローカルブレイクアウトを導入することで、リモートワーク環境において以下のような利点が得られます。
• 通信遅延の低減: クラウドやSaaSへのアクセスが高速化し、業務効率が向上します。
クラウドを積極的に活用している企業
クラウド(例: Microsoft 365, Google Workspaceなど)を業務の中心に据えている企業において、ローカルブレイクアウトの導入は特に有益です。
• クラウドへの直接接続: 拠点から直接クラウドにアクセスすることで、通信速度や帯域効率が向上します。
• スケーラビリティの向上:インターネットへの接続点が各拠点に分散化されているため、クラウド環境における急激なトラフィック増加にも柔軟に対応できます。
ローカルブレイクアウトは、これらの特徴を持つ企業において業務効率化や生産性向上を実現するための強力なソリューションとなります。
まとめ
ローカルブレイクアウトは、現代のワークスタイルの変化に伴い、効率的かつ柔軟な通信を実現するための重要な手法です。この仕組みを活用することで、トラフィックを適切に分散し、ネットワークの負荷軽減や遅延の低減することで、快適なインターネットアクセスを実現できます。一方で、各拠点やデバイスが直接インターネットに接続するため、サイバー攻撃などのVPNセキュリティリスクが高まるため、多重の対策強化が必要です。導入にあたっては、既存のネットワーク構成や運用ポリシーとの整合性、セキュリティリスクへの対策、適切な運用管理体制の構築などが欠かせません。これらを踏まえた上で、自社に合った導入することが成功の鍵となります。
これまで、ローカルブレイクアウトを実現するには、NTTPCのMaster’sONE CloudWAN®のようなSD-WANを利用することが多く見られましたが、最近では拠点間通信を閉域網で通信し、インターネット接続は拠点から直接アクセスできるIP-VPNサービス:Prime ConnectONE®も登場しています。
ローカルブレイクアウトを正しく理解し、適切に活用することで、さらに利用しやすく、セキュリティも高めた企業ネットワークを実現することができるでしょう。
※「Prime ConnectONE®」、「Master'sONE CloudWAN®」は、NTTPCコミュニケーションズの登録商標です。
※Microsoft365は、米国Microsoft Corporation の米国およびその他の国における登録商標、または商標です。
※Google Workspaceは Google LLC の商標です。
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