
近年は、さまざまな企業がクラウドを利用するようになり、社内サーバーや業務システムをクラウドに移行する「クラウドシフト」が起きています。また、オンプレミス環境のシステムをクラウドに移行する「クラウドリフト」の動きも活発化しています。
これにより、拠点間通信の安全性や安定性がより問われるようになりました。インターネットVPN(Virtual Private Network)は暗号化技術で保護されていますが、一般に公開されている回線を使う以上、サイバー攻撃やマルウェア、ランサムウェア感染などのセキュリティリスクを完全には排除できません。他ユーザーの利用状況によって、通信が不安定になることもあります。
こうした中、セキュリティと品質を担保する手段として再注目されているのが「閉域網(閉域ネットワーク)」です。この記事では、インターネットVPNの課題を踏まえて、閉域網の種類やメリットのほか、自社に最適な閉域網を選ぶポイントなどについて紹介します。
図解でわかる!閉域網とインターネットVPNの特徴の違い
閉域網は、特定のユーザーだけが利用できる、クローズドな専用ネットワークです。
閉域網には、拠点間を物理的な1対1のケーブルで結ぶ「専用線」、複数拠点間を接続する「広域イーサネット」、通信事業者のネットワークを活用する「IP-VPN」などがあります。
これらはいずれも物理的・論理的にインターネットから分離されているため、高いセキュリティと安定性を確保できます。
一方、インターネットVPNは、既存のインターネット回線を利用して仮想的にプライベートネットワークを構築する技術です。
専用の回線や設備が不要でコスト面ではメリットがありますが、一般に公開されている回線を利用するため、セキュリティリスクが高く、周辺の利用状況に影響を受けやすいという特徴があります。
インターネットVPNにありがちな3つの課題
インターネットVPNは、コストを抑えて一定のセキュリティレベルを保てる接続方法ですが、課題も多くあります。
ここでは、インターネットVPNを利用する際によくある、4つの課題を紹介します。
<インターネットVPNの課題>
- セキュリティリスクがつきまとう
- 通信の不安定さ
- 拠点数が多いと通信負荷も大きくなる
セキュリティリスクがつきまとう
インターネットVPNは、不特定多数のユーザーが利用するインターネット回線を利用します。そのため、送受信されるデータが暗号化されていても、サイバー攻撃によるセキュリティリスクを完全には排除できません。
VPN接続に使用される装置からのマルウェア感染のほか、セキュリティ対策が不十分な従業員の自宅からのアクセス、公衆Wi-Fiからのアクセスなどによって、安全な通信が脅かされることもあります。
インターネットVPNで安全な通信を実現するには、VPN接続と端末の両面での、多層的なセキュリティ対策が必須です。
通信の不安定さ
不特定多数のユーザーが利用するインターネットVPNは、他ユーザーの利用状況によってトラフィックが増大し、通信速度が低下したり接続が不安定になったりすることがあります。
大容量データを送受信することが多い業務や、OSやアプリケーションソフトウェアの社内同時アップデート、TeamsやZoomといったWeb会議の同時利用などが行われると、通信品質の不安定さが大きな課題になる可能性があります。
拠点数が多いと運用負荷も大きくなる
複数拠点がある場合、拠点ごとにルーターやVPN装置を設置して管理します。そのため、拠点数が多いほど運用負荷が大きくなる傾向があるでしょう。
また、単一拠点での導入後に拠点が拡大した場合、ネットワークの設計変更や管理業務が煩雑化しやすいため、将来的な拡張を見据えて導入計画を進めなければなりません。
導入前に押さえておきたい!閉域網の種類別の特徴
通信事業者と契約することで、特定のユーザーだけが使える通信路を利用できるのが閉域網の特徴です。
例えるなら、インターネットVPNが一般道、閉域網が私道だと考えるとわかりやすいでしょう。公道である一般道は誰でも通れますが、渋滞や事故の危険性は高いです。一方、私道は利用者が限定されているため、スムーズに行き来できて事故の心配も少ないです。
つまり、閉域網のほうが、インターネットVPNよりも通信が安定してセキュリティも強固であるということです。
閉域網は下記のように大きく3つに分かれ、それぞれ特徴が異なります。
<種類別・閉域網の特徴>
- IP-VPN:通信事業者が提供する、帯域確保型のVPNを利用。比較的安価に利用でき、全国規模の拠点展開に向いている。ただし、インターネットVPNに比べてコストがかかる。
- 専用線:拠点間を物理的なケーブルで直結し、契約企業が専有。極めて高いセキュリティと安定した通信速度が得られる反面、コストは高くなる傾向にある。金融機関や研究機関など、ミッションクリティカルな用途に最適。
- 広域イーサネット:複数拠点の社内ネットワークをイーサネットプロトコルで相互接続。LAN感覚でシンプルに拠点をつなげられ、柔軟に帯域変更できるのがメリット。拠点数が多い大規模企業やデータ通信量の多い業種に適している。
導入する企業が増える理由!閉域網の4つのメリット
インターネットVPNにありがちな課題を背景に、閉域網を導入する企業が増えています。
次に、閉域網を導入することで得られる主なメリットを、4つ見ていきましょう。
<閉域網の導入で得られるメリット>
- セキュリティが高くなる
- 通信が安定する
- 大容量の通信が可能になる
- 運用負荷が軽減される
セキュリティが高くなる
閉域網では、通信がインターネットから完全に分離され、特定のユーザーだけが利用できる専用のネットワーク環境を利用できます。これにより、端末や回線からの不正アクセスやDDoS攻撃、マルウェア、ランサムウェアへの感染といったリスクが大幅に低減されます。
また、専用回線を提供する通信事業者側が高度なセキュリティ対策を講じていることも多く、自社の負担を軽減しながら高水準のセキュリティの実現が可能です。
特に、機密性の高い顧客情報やデータを多く扱う業種にとって、閉域網の導入は非常に有効なリスク対策になります。
通信が安定する
閉域網は、契約したユーザー専用のネットワーク帯域が確保されているため、トラフィックの影響を受けにくいことが特徴です。時間帯や地域によって通信速度が不安定になりやすいインターネットVPNと違い、常に安定した通信が可能です。
リアルタイム性が求められるオンライン会議などでも一定以上の品質を維持できるため、業務の生産性を高めることにつながります。
大容量の通信が可能になる
閉域網では、通信事業者が一定の帯域を保証しており、複数拠点間での大容量データのやりとりもスムーズに行えます。例えば、映像データや図面、バックアップファイルなど、大量かつ高速なデータ通信が求められる業務に最適です。
また、クラウド利用における通信の可用性を高める手段としても、閉域網の導入が有効です。近年、多くの企業がサーバーの物理的な構築・運用の負荷を軽減するために社内サーバーや業務システムをクラウドに移行しています。
しかし、一般的なネットワーク回線を利用した接続では、共有帯域の影響で接続に遅延や不安定さが生じ、業務に支障をきたす可能性を否定できません。
こうした課題に対して閉域網を導入すれば、インターネットを経由せず専用回線でクラウドに接続できるため、レスポンスの安定やセキュリティの強化、さらには帯域保証や冗長化による高い可用性を実現できます。結果として、安全で快適なクラウド利用環境を構築できるでしょう。
運用負荷が軽減される
閉域網サービスの多くは、サービスを提供する通信事業者が一貫してネットワークの運用・監視・保守を担っています。
特にIP-VPNや広域イーサネットでは、インターネットVPNのように社内で暗号化やトンネル管理を行う必要がなくなるため、ネットワーク担当者や情シス担当者の運用負荷を軽減できます。専用線の場合は自社での運用管理が必要な場合もありますが、物理的な回線品質の安定性により、そもそものトラブル対応を減らせるでしょう。
また、障害対応やトラブル対応も通信事業者に一任できるため、専門的な知識を持つ人材が不足していても安定した運用が可能です。さらに、監視システムやサポート体制が整っているサービスを選べば、障害発生から復旧までの時間短縮も期待できます。
自社ネットワークに最適な閉域網を選ぶには?チェックしたい4つのポイント
閉域網の導入・移行の際は、自社の業務内容や拠点数、将来的な拡張計画などを踏まえて、多角的に比較検討することが大切です。
主要な検討ポイントとして「セキュリティ」「通信品質」「導入コストや期間」「拠点数」の4つを挙げ、詳しく紹介します。
<自社ネットワークに最適な閉域網を選ぶためのポイント>
- セキュリティ
- 通信品質
- 導入コストと構築までの期間
- 拠点数、組織や事業拡大の予定
セキュリティ
閉域網を選ぶ際、重視したいポイントがセキュリティです。インターネット回線から物理的に分離された閉域網は、インターネットVPNに比べてセキュリティレベルが高いことが大きな特徴であり、導入によって通信の安全性を高めることができます。
特に、極めて機密性の高い情報を扱う金融や医療・福祉、製造・小売といった業界では、専用線のように物理的に分離されたネットワークが最適です。
ただし、専用線は導入コストや運用コストがかさむため、拠点数などとのバランスを見て、IP-VPNや広域イーサネットを選択するケースも少なくありません。
自社の業務内容に応じて求められるセキュリティレベルを明確にし、リスク評価をしてベストな閉域網を選定することが重要です。
通信品質
DXの推進により、企業間の大容量データのやりとり、クラウドサービスとの連携、オンライン会議など、通信品質を求められるシーンが増加しています。
帯域保証がある閉域網であれば、トラフィックのピーク時でも遅延や切断を最小限に抑えられ、顧客対応品質や生産性の低下を防ぐことが可能です。
現在の通信量だけでなく、事業拡大に伴う拠点の増加や利用サービスの増加も見据えて、どの程度の帯域保証が必要かを明確にしましょう。
導入コストと構築までの期間
閉域網の種類によって、導入に必要な期間やコストには大きな違いがあります。社内ネットワークの構築にかけられる予算や、導入までのスケジュールを踏まえ、自社の事業計画に沿って着実にネットワーク構築を進められるサービスを選ぶことが大切です。
また、初期費用だけでなく運用費用も含めたトータルコストを試算し、長期的な視点でコストパフォーマンスを評価しましょう。
例えば、特定の拠点間を1対1で結ぶ専用線の場合、物理的な配線工事が必要で、構築まで数ヶ月を要することもあります。初期費用や月額コストが高額になることも珍しくありません。
一方、通信事業者の既存インフラを利用するIP-VPNや広域イーサネットは、比較的リードタイムが短く、コストも抑えやすいという違いがあります。
拠点数、組織や事業拡大の予定
現在の拠点数だけで社内ネットワークの構築計画を進めると、後になって構成が複雑になります。ネットワーク担当者や情シス担当者に負荷がかからないよう、将来的な拡張計画も見据えて構築することが重要です。
拠点数が増えることが明らかな場合、1対1の接続で拡張性に乏しい専用線は不向きです。多拠点接続に対応しやすく、組織拡大にも柔軟に対応できるIP-VPNや広域イーサネットを積極的に検討することをおすすめします。
高いセキュリティと通信品質を実現する閉域ネットワークで、安全・快適な通信環境を実現しよう!
テレワークの普及や業務のDX化でクラウド利用が進む今、拠点間の通信品質やセキュリティの確保は、企業の成長や事業継続において極めて重要な課題です。
従来のインターネットVPNには、コストや利便性の面で一定のメリットがあります。しかし、通信の不安定さやセキュリティリスクといった課題が残るのもまた事実です。
一方、インターネットから物理的に分離された専用の通信環境を利用する閉域網は、セキュリティや通信の安定性はもちろん、拡張性や運用効率の向上も見込める選択肢です。自社のネットワーク環境を最適化できるよう、用途や業務内容、拠点数、拡張予定、求める通信品質、予算、導入までの期間など、複数の観点で慎重に自社に合う閉域網を選定しましょう。
なお、近年ではSD-WANやSASEといったインターネットVPNを補完・最適化する仕組みも登場しており、環境や目的に応じて柔軟に選択できる点も覚えておくとよいでしょう。
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