離職率はなぜ下がらないのか──健康経営から考える、社員が定着する職場の条件 サムネイル
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離職をめぐる課題は、なぜ多くの企業で繰り返し議論されているのでしょうか。
厚生労働省の統計を見ると、離職率は年度ごとに上下はあるものの、長期的に見て大きく変動していない状況が続いています。

近年、多くの企業が処遇改善や労務制度の見直しに取り組んでいます。しかしながら、離職率の変化が見られないということは、給与や福利厚生といった条件を整えたとしても、離職率を下げることに直結するわけではないということを示唆しています。
社員が高い活力を持って働き、退職することなく定着化を図るには、社員の健康保持・増進や働きやすい職場環境づくりが必要です。このためには、企業側も社員の不調などの変化を早期に把握、対処していくことが求められます。
一方で、社員の体調不良や心理的な負荷、業務負荷の増大といった点は、企業側も把握しづらいという面があります。
こうした、社員の不調や心理的な変化に企業が気づきにくいという課題に対し、個人任せにせず組織として向き合おうとする考え方が、健康経営®です。健康経営は、社員の心身の状態や働き方の実態を継続的に把握し、職場環境の改善につなげていくことで、働きやすい環境づくりを目指す取り組みです。そのため、健康経営は社員が安心して働き続けられる職場を支える土台となる取り組みです。
※健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

社員定着が進まない理由|待遇改善だけでは離職率が下がらない背景

厚生労働省の統計によると、主な離職理由のトップ5のなかに、「職場の人間関係」と「仕事のストレス・過重労働」が含まれています。
(出典:令和5年雇用動向調査結果の概況|厚生労働省 P15)

「職場の人間関係」はメンタルヘルス対策、ハラスメント防止、組織風土改善、「仕事のストレス・過重労働」はストレスチェック、健康管理体制の充実、といった健康経営施策を実行することによって改善が期待できます。

経済産業省の「健康経営度調査」によると、健康経営度の高い企業は離職率が低い結果であるとの報告がされています。

離職率の全国平均(厚生労働省 2020年(令和2年)雇用動向調査)は10.7%ですが、健康経営有用法人2022に選出された企業の離職率は4.9%となっており、健康経営度の高い企業の離職率が低い傾向にあることが示されています。
(出典:健康経営の推進について 経済産業省 P38)

給与アップや福利厚生の充実などの処遇改善は、社員満足度を高める一因になりえるでしょう。しかし、それだけでは離職率を下げ、社員の定着化を向上できるわけではありません。

この観点で注目されるのが、「職場の人間関係」への改善や「仕事のストレス・過重労働」の減少に繋がる健康経営の取り組みです。

長時間労働やストレスの蓄積といった社員の日々の心身の状態や働き方を把握し、組織として職場環境の改善に繋げる仕組みを整えることは、社員の定着化を進め、ひいては企業にとってもメリットがあると言えるでしょう。

健康経営のメリットとは|社員定着・人的資本経営への効果

健康経営のメリットとは|社員定着・人的資本経営への効果

健康経営とは、従業員等の健康保持・増進への取り組みを企業価値向上につながる取り組みと捉え、戦略的に実践する経営の考え方です。経済産業省が推進する「健康経営優良法人」制度は、この健康経営を実践している法人を顕彰する制度であり、メンタルヘルス対策や働き方の改善、ストレスチェックの活用などの取り組み内容が評価項目に含まれています。

健康経営優良法人制度は、健康経営の取り組みを評価・顕彰する制度ですが、その本質は認定そのものではなく、日々の実践内容にあります。

健康施策を実行すれば社員が定着するというよりも、健康経営を通じて、ストレスや過重労働が軽減され、働きやすさ・心理的安全性などが高まり、その結果として定着に繋がるでしょう。健康経営が社員の定着を支える背景には、社員の日々の心身状態や働き方などの“働き心地”を可視化し客観的に捉え、改善につなげやすくなる点があります。

職場の雰囲気や心理的安全性といった要素は、これまで感覚的に語られがちで、組織として把握・共有することが難しい領域でした。しかし、健康指標やストレス傾向を継続的に可視化することで、働きづらさの兆しを早い段階で捉え、具体的な改善につなげやすくなります。
また、健康経営の取り組みは、人的資本の開示が求められる現在の経営環境とも深く結びついています。
離職率や休職の状況、健康施策の実施状況といった情報は、企業がどのように社員の働く環境と向き合っているかを示す指標として位置づけられつつあります。こうした取り組みを継続的に整理・発信できることは、経営の透明性を高めるうえでも重要な意味を持ちます。

健康経営は、社員一人ひとりの状態に目を向け、働き続けられる環境を整えようとする企業の姿勢を具体的に示す取り組みであり、結果として組織の安定性や信頼性を支える土台となっていきます。

働き方改革と法制度対応|現場の実態と見えにくい負荷

近年、労働基準法をはじめとする働き方関連法制では、連続勤務の抑制や休息時間の確保など、働き手の健康に配慮した見直しに向けた議論が進められています。
こうした法制度の動きは、企業にとって最低限守るべきルールや枠組みを明確にするものです。
一方で、制度が整備されたからといって、現場の働きづらさや負荷が自動的に解消されるわけではありません。実際の職場では、業務量の偏りや突発的な対応による長時間労働、管理職自身の多忙さによるフォロー不足などにより、制度どおりの運用が難しいケースも少なくありません。

表面上は法令を遵守しているように見えても、「体感として十分に休めていない」「常に余裕がない」といった状態が続けば、疲労やストレスは徐々に蓄積していきます。
こうした負荷は、勤怠データや制度上の数値だけでは把握しにくく、結果として、離職や休職といった形で後から表面化することもあります。
企業が「どのような制度を設けているか」だけでなく、「それが実際の現場でどのように運用されているか」「無理が生じたときに気づける仕組みがあるか」といった点まで、より厳しく見られるようになっています。

このように、法制度によって守るべき最低限のルールが示される一方で、企業が向き合うべき本質的な課題は、日々の働き方やコンディションに無理が生じていない状態をどのように維持・管理するかという点にあります。

制度対応と並行して、疲労やストレスの兆し、業務負荷の偏りといった変化を早い段階で捉え、必要な対応につなげられる仕組みを整えることが、これからの働き方マネジメントにおいて重要になっていきます。

働き方の見える化と健康状態の可視化|離職予防への活用

働き方の見える化と健康状態の可視化|離職予防への活用

制度改正が進む中で、企業には「働きやすさ」や「働き続けられる環境」を、感覚ではなく客観的に捉えることが求められるようになっています。

近年、多くの企業で、社員の健康状態や心理的なコンディションの把握を支援する仕組みの導入が進んでいます。

こうした仕組みの中には、疲労の蓄積やストレス傾向といった、日常業務の中では見えにくい変化を捉えるための機能を備えたものもあります。

これらの機能は、単に数値を集めることが目的ではなく、体調や負荷の変化といった兆しを早い段階で捉え、管理職が声をかけたり、業務の進め方を見直したりするための判断材料として活用されます。
上司が多忙で日常的なフォローが難しい場面であっても、負荷の高まりやコンディションの変化が可視化されていれば、本人・上司・産業保健スタッフなどが共通の認識を持ち、早い段階から対応を検討しやすくなります。その結果、不調や働きづらさが深刻化する前に手を打ちやすくなり、離職や休職のリスクを抑えることにもつながります。

ストレスチェックなどのデータ蓄積は、社員自身が自分の状態を振り返るきっかけとなり、相談や対話につながることで、不調を抱え込まずに済む環境づくりにも寄与します。

さらに、蓄積されたデータを組織全体で振り返ることで、特定の部署への負荷集中や働き方の偏りに気づき、改善につなげていくことも可能になります。

制度によって最低限のルールは整備されていきますが、実際の働き心地や職場の安心感は、日々の小さな変化にどれだけ気づけるかによって大きく左右されます。

働き方や健康状態を見える化し、対話のきっかけを生み出す仕組みは、社員が働き続けられる環境を支える基盤の一つといえます。

健康経営を現場で機能させる方法|可視化を支援につなげる仕組み

ここまで見てきたように、働き方や健康状態への配慮は、制度や方針を整えるだけでは十分に機能しません。

日々の業務の中で起きている小さな変化に気づき、必要なタイミングで支援につなげられる仕組みがあってこそ、健康経営は実効性を持ちます。

重要なのは、働き方と健康状態を「管理」や「評価」のために可視化するのではなく、支援や対話につなげるための“気づきの材料”として活用することです。

そのため、すべてを一度に導入するのではなく、課題が見えやすい部署や職種から小さく始め、運用しながら調整していく進め方が現実的です。

こうした考え方を踏まえた取り組みの一例として、NTTPCの健康経営®支援サービスでは、社員一人ひとりの心身の状態やストレス傾向を可視化し、働き方と健康の両面から職場環境を支える仕組みを提供しています。

本サービスに対応したウェアラブルデバイスと連携し、取得したデータをもとに、日々のコンディションや負荷の変化を把握します。これにより、「無理が生じていないか」「支援が必要な兆しはないか」といった変化に気づくための情報を提供します。

なお、本サービスは医療行為や診断を目的としたものではありません。健康状態を判定するものではなく、働き方の中で蓄積しがちな疲労やストレスの傾向を可視化し、対話や業務調整につなげることを目的としています。

そのため、管理や監視を目的としたものではなく、支援のための基盤として活用される設計となっています。また、導入にあたっては全社一斉を前提とせず、一部の部署や職種から段階的に始めることも可能です。

まとめ|社員定着を支える“働き心地”と職場環境改善

まとめ|社員定着を支える“働き心地”と職場環境改善

給与水準の見直しや福利厚生の拡充だけでは、社員の離職を低下させることはできません。

職場でどれだけ安心して働けるか、日々の変化に気づき、支援につなげてもらえるかといった“働き心地”の要素も企業として取り組む必要があります。

働き方と健康状態を日常的に可視化の仕組みづくりは、決して大がかりな取り組みから始める必要はありません。

まずは課題が見えやすい部署や職種から小さく導入し、運用の感覚を掴みながら改善を重ねていく。部分導入を通じて得られた気づきや成果を少しずつ広げていくことで、無理のない形で企業文化として根づかせることが可能になります。
見える化の目的は、社員一人ひとりを管理することではなく、社員を支える環境を整えることにあります。日々の小さな変化に気づき、必要なときに手を差し伸べられる状態があることは、社員の定着だけでなく、企業側のメリットにもつながっていきます。

働き方と健康状態を日常的に可視化する仕組みをどのように整え、どう運用していくか。
その積み重ねが、社員の定着化の向上や、ひいては企業の持続的な成長を支える重要な要素になってきていると言えるでしょう。