クラウド活用の拡大、ハイブリッドワークの定着、そして高度化するサイバー攻撃。現代の企業ネットワークは複雑さを増し、従来型の仕組みでは運用やセキュリティに限界が見えています。
そこで注目されているのが「統合ネットワーク」です。ネットワークとセキュリティを一元的に管理することで、運用負荷の軽減と堅牢なセキュリティを両立し、DX推進に不可欠な“強い基盤”を構築できます。
本記事では、統合ネットワークの基本概念から、導入によるメリット、選定のチェックポイント、さらに関連するサービス事例までを体系的に解説します。
統合ネットワークとは?従来型ネットワークの課題を解決する新アプローチ
統合ネットワークとは、拠点ごとに分断されていたネットワークを一つに統合し、一元的に管理・運用できるようにするアプローチです。
ネットワーク全体を一元的に把握できるようになるため、運用管理の手間を減らしつつ、企業全体にとってより安定したネットワーク環境を実現することができます。

従来型ネットワークの構成
従来の企業ネットワークは、本社を中心に各拠点(支店・工場・店舗など)をWAN(Wide Area Network)で接続し、その内部にLANやWi-Fiを敷設、さらに拠点ごとにファイアウォールやUTMといったセキュリティ機器を設置するのが一般的でした。このモデルは「拠点ごとに完結したネットワークを、本社に集約して管理する」発想に基づいており、長らく企業ITの標準形として機能してきました。
しかしクラウド活用やモバイルワークの普及により、次のような課題が顕在化しています。
・セキュリティの不均一化:拠点ごとにセキュリティポリシーが異なると、一貫した防御体制を維持できません。結果として「最も弱い拠点」が攻撃の入り口となるリスクが高まります。
・サイロ化による可視性不足:ネットワークが拠点ごとに分断されると、一元管理が難しくなります。そのため障害が発生しても「どの拠点・どの機器に原因があるのか」を特定するのに時間がかかります。
・運用負荷の増大:設計や機器がバラバラなため、設定変更や保守を個別に行う必要があります。拠点数が増えるほどIT部門の負担は急増し、DX推進など戦略的な業務にリソースを割けなくなります。
従来型ネットワークと統合ネットワークの比較
上記のような課題に対して、統合ネットワークを導入することでネットワーク全体を一元的に管理でき、従来型で生じやすかった「拠点ごとに分散した煩雑な管理負担」を大幅に軽減できます。結果として、セキュリティポリシーの適用やトラブルシューティングも統一的に行えるようになるでしょう。
この従来型ネットワークと統合ネットワーク両者の主な違いは次のとおりです。
| 観点 | 従来型ネットワーク | 統合ネットワーク |
|---|---|---|
| 管理方法 | 拠点ごとに分散 | 一元的に集中管理 |
| セキュリティ | 拠点ごとにポリシーが分散 | 全体で統一したポリシー適用 |
| 運用負荷 | 拠点ごとに機器や設定が異なり運用負荷が高い | クラウドや一元管理で効率化 |
| 障害対応 | 問題の切り分けに時間がかかる | 全体を可視化し迅速に対応 |
なぜ今、統合ネットワークが注目されるのか ― 技術と市場の背景
「統合ネットワーク」は、従来型ネットワークに存在していた課題を解決するだけではありません。近年は、ビジネス環境やテクノロジーの急速な変化によって、その必要性がますます高まっています。 その背景には次のような流れがあります。
SaaS利用拡大とクラウドの普及
これまで社内のデータセンターに置かれていた業務システムは、近年ではSaaSやIaaSといったクラウドへ移行するケースも増えています。そのため営業支援や会計、人事システムなど多くのアプリがクラウドサービス経由で利用されるようになり、拠点や従業員がクラウドへ直接アクセスするケースが増しています。
その結果、従来型の「本社経由でインターネットに出る」方式では効率面で課題が見られるようになり、クラウド接続を前提としたネットワーク統合の必要性が高まっています。
ハイブリッドワーク・多拠点化による新しい要件
パンデミック以降、リモートワークやハイブリッドワークが広がり、「オフィスにいる前提」で設計されたネットワークでは対応しきれない場面が生じています。そこで、自宅や外出先からでも本社と同じセキュリティ環境を実現できる仕組みとして、統合ネットワークが注目されています。
サイバー攻撃の高度化
ランサムウェアやフィッシングなどの攻撃は年々巧妙化しており、従来の「拠点ごとに設置したファイアウォール」だけでは対応が困難です。統合ネットワークでは、セキュリティをクラウドに集約することで、拠点・リモート・クラウドアクセスを含めて統合的に監視・防御しやすくなります。

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統合ネットワークの主要テクノロジー
統合ネットワークを支えるのは、複数のネットワーク/セキュリティ技術の組み合わせです。単独で完結するものではなく、目的に応じて選び、組み合わせて利用することで効果を発揮します。

代表的な技術は次のとおりです。
| 技術 | 役割・特徴 |
|---|---|
| SD-WAN(Software Defined-Wide Area Network) | ネットワーク経路をソフトウェアで最適化 |
| ZTNA(Zero Trust Network Access) | ゼロトラスト※ に基づいたアクセス制御 |
| SASE(Secure Access Service Edge) | ネットワークとセキュリティをクラウドで包括的に提供 |
| AIOps(Artificial Intelligence for IT Operations) | AIによる運用の自動化・効率化 |
※ゼロトラストとは、「何も信頼しない(Zero Trust)」を前提に、社内外問わずすべてのアクセス・通信を検証・認証するセキュリティの考え方
こうした技術を組み合わせて導入することで、より強力で柔軟なネットワーク環境を構築できるようになります。
以下では、それぞれの技術の詳細について説明します。
SD-WAN(Software Defined-Wide Area Network)
SD-WANは、拠点間を結ぶWANをソフトウェアで管理・制御する仕組みです。従来は専用線やVPNごとに手作業で設定や経路選択を行う必要がありましたが、SD-WANではソフトウェアが通信状況をリアルタイムで監視し、最適な経路を自動的に選択します。
そのため、利用するアプリや状況に応じて、次のような振る舞いが可能です。
・ビデオ会議では遅延が少ない回線を自動選択
・大容量ファイル転送時には安価な回線を優先
・障害発生時には別の回線へ自動切り替え
この仕組みにより、通信品質を維持しながら回線コストを最適化できます。
さらにSD-WANは、クラウド直結の経路制御を実現することで、ZTNAやSASEといったセキュリティモデルを全社的に適用しやすくする「統合ネットワークの土台」として機能します。
ZTNA(Zero Trust Network Access)
ZTNAは、ゼロトラストの考え方をネットワークアクセスに適用した仕組みです。従来のVPNは「接続した瞬間に社内ネットワーク全体に入れる」という弱点がありましたが、ZTNAは「誰が、どこから、どの端末で」アクセスするかを都度検証し、必要最小限の権限だけを与えます。
このプロセスには次のような要素が含まれます。
・本人確認(ID・パスワード+多要素認証)
・端末チェック(OSやセキュリティソフトの状態確認)
・アクセス制御(利用できるアプリやシステムを限定)
こうした多層的な認証により、ユーザーがオフィス、自宅、外出先のどこからアクセスしても一貫したセキュリティを担保できます。統合ネットワークの観点では、ZTNAは「アクセス制御の標準化」を担い、SD-WANやSASEと組み合わせることで企業全体のゼロトラスト化を推進します。
SASE(Secure Access Service Edge)
SASE(サシー)は、ネットワーク機能とセキュリティ機能をクラウドに統合して提供するモデルです。従来は「回線は通信事業者」「セキュリティは拠点ごとの機器」と分かれていましたが、SASEではクラウドに集約することで、拠点やユーザーの場所に関わらず同じルールで保護できます。
この仕組みにより、次のようなメリットが得られます。
・どの拠点・ユーザーも一貫したセキュリティポリシーを適用
・ネットワーク接続とセキュリティ対策を一元的に管理
・クラウド利用が増えた場合も柔軟に対応可能
SASEは「SD-WANによる接続最適化」「ZTNAによるゼロトラスト認証」「クラウドベースの多層防御」を包括的に統合する仕組みです。統合ネットワークの最終形に近いモデルとして、多くの企業が採用を進めています。
AIOps(Artificial Intelligence for IT Operations)
AIOpsは、AIを活用してネットワークやサーバーから集まる膨大なログを分析し、運用を自動化する仕組みです。これにより、運用担当者が個別に監視や分析を行わなくても、システムが自律的に状況を把握し、対応の優先度を提示できます。
具体的には、次のような活用が想定されます。
・通信遅延の兆候を検知し、事前にアラートを通知
・機器の異常パターンを学習し、故障の予兆を予測
・障害時に原因を自動で切り分け、「回線」か「機器故障」かを特定
AIOpsは単なる効率化のための仕組みではなく、大規模かつ複雑な統合ネットワークを安定的に維持するための「運用インテリジェンス」としての役割を果たします。他の技術と組み合わせることで、運用の属人化を防ぎ、ネットワーク全体の品質を高水準で維持できます。
統合ネットワークがもたらす具体的な経営メリット
統合ネットワークは、ネットワークの仕組みを新しくするだけではありません。企業にとって 経営効率や競争力の向上につながるメリットがあります。
ここでは、代表的な4つの効果を紹介します。
1.【コスト】TCO(総所有コスト)の最適化
ネットワークやセキュリティを一元的に管理することで、IT部門の作業工数を削減し、運用コストを抑制できます。
さらに、これまで拠点ごとに個別購入していたファイアウォールなどの機器をクラウドサービスに集約することで、ハードウェアの購入費やライセンス費用も削減可能となります。
2.【セキュリティ】ゼロトラストに基づいたガバナンス強化
SASEのような仕組みを導入すれば、拠点やユーザーの所在地に依存せず、クラウド上の管理画面から統一的なセキュリティルールを適用できます。
これにより「本社は最新対策だが、支店は旧式のまま」といった格差を解消し、全社的に強固で一貫性のある防御体制を実現します。
3.【生産性】クラウド利用における通信パフォーマンスの向上
SD-WANを活用することで、拠点からクラウドサービスへの最適ルートを自動的に選択できます。
本社データセンターを経由する必要がなくなるため、SaaS利用時の遅延や通信のボトルネックを解消し、業務全体の生産性向上に寄与します。
4.【人材】IT部門の運用負荷軽減と戦略的業務へのシフト
ネットワーク全体が可視化されることで、障害対応や設定変更に要する工数が削減されます。
その結果、IT部門は日常的な運用業務から解放され、DX推進や新規システム企画といった戦略的な業務に注力できるようになります。
【導入シナリオ】自社の課題にどう活かすか?ケース別活用法
では統合ネットワークは、実際のビジネスシーンでどのように課題解決に役立つのでしょうか。ここでは代表的な3つのケースを紹介します。
<ケース1> 多拠点企業の拠点間ネットワークを刷新したい
全国に支社や店舗を展開する企業では、拠点ごとにネットワーク構成やベンダーが異なり、管理がブラックボックス化しやすいという課題があります。
統合ネットワークを導入すれば、全拠点のネットワークをクラウドから可視化・一元管理できます。これにより、新規拠点の迅速な立ち上げや、セキュリティポリシーの一括適用が可能となり、ガバナンス強化と運用効率化を同時に実現できます。
<ケース2> ハイブリッドワーク環境のセキュリティを統一・強化したい
オフィス勤務とテレワークが混在する環境では、社員が利用するネットワークの多様化に伴い、セキュリティリスクが高まります。
統合ネットワーク(特にSASE)を導入することで、社員は場所を問わずクラウド上の共通ゲートウェイを経由してアクセスでき、統一されたセキュリティポリシーを適用できます。これにより、社内・自宅を問わず一貫した保護水準を確保し、安全な働き方を支援します。
<ケース3> クラウドサービスのレスポンスを改善し、生産性を向上させたい
従来、多くの拠点は本社データセンターを経由してインターネットに接続しており、クラウド利用の拡大に伴って回線がボトルネックとなりがちでした。
SD-WANを基盤とする統合ネットワークであれば、拠点からクラウドへ直接かつ安全にアクセスできます。これにより、Web会議の音声途切れやSaaSの遅延が解消され、クラウド利用の快適性と従業員の生産性が向上します。
統合ネットワークの導入で失敗しないための選定ポイント
統合ネットワークには多くの選択肢があり、導入の成否は「自社に合ったサービスをどう選ぶか」にかかっています。ここでは、検討の際に押さえておくべきポイントをご紹介します。
導入前に確認すべき主な視点
統合ネットワークは導入後に簡単に切り替えられるものではありません。そのため、事前にサービスの特性や自社の環境との相性を見極めることが重要です。
以下の観点をチェックしておくと、導入の失敗を防ぎやすくなります。
| 観点 | 確認ポイント |
|---|---|
| クラウド親和性 | Microsoft 365やSalesforceなど、主要クラウドサービスに最適化され、アプリ別に最適ルートを選べるか |
| 柔軟な回線利用 | インターネット回線と閉域網を用途や状況に応じて切り替え、コストと品質の両立が可能か |
| ゼロトラスト対応 | 拠点や自宅、外出先を問わず、ユーザーや端末を常に認証・検証できるか |
| 多層防御 | URLフィルタリングに加え、IPS/IDSやサンドボックスなどで未知の脅威に備えられるか |
| AIOps(運用効率化・高度化) | ログ分析による予兆検知や自動切り分けで、運用負荷を軽減できるか |
これらのポイントを整理してチェックしておくことで、自社に最適な統合ネットワークを選びやすくなります。単なるコスト削減だけでなく、将来の拡張性やセキュリティ水準も含めて比較検討することが重要です。
NTTPCが提供する統合ネットワークサービス「Prime ConnectONE®」
これまで見てきた統合ネットワークの考え方を、実際のサービスとして提供しているのが NTTPCが提供する「Prime ConnectONE®」です。 AIによる運用効率化を中核に据え、ネットワークとセキュリティを一体で管理できる点が特長です。

Prime ConnectONE®の利用イメージ
Prime ConnectONEの主な機能は以下の通りです。
・AIによる運用支援と効率化
障害発生時の原因特定や、マルウェア感染端末の自動隔離をAIエージェントがサポート。
これまで人手に頼っていた初動対応を効率化し、運用負荷を大きく軽減します。
・ダッシュボードによる可視化
ネットワークやセキュリティの状況を一元的に表示。
各拠点の状態を遠隔から確認でき、迅速なトラブル対応が可能になります。
・多層的なセキュリティ基盤
IP-VPNによる閉域網とクラウド向けセキュリティ機能を組み合わせ、拠点・クラウド・リモートを問わず安全な通信を実現します。
こうした仕組みにより、日常的な障害対応やセキュリティ管理の負担を減らし、創出されたリソースを「DX推進」や新規施策などの戦略的業務へ振り向けることが可能となります。
詳細はNTTPCの「Prime ConnectONE®」サービスページをご覧ください。
まとめ
本記事では、「統合ネットワーク」の必要性やメリット、選定のポイントについて解説しました。クラウド利用やハイブリッドワークが当たり前になった今、従来型のバラバラに分断されたネットワークでは、運用・セキュリティ・通信品質のすべてにおいて限界が見えてきています。
統合ネットワークは、こうした課題を根本から解決し、IT部門を日々のトラブル対応から解放してくれる有効な仕組みです。
導入の効果はコスト削減だけにとどまりません。変化の速いビジネス環境に合わせて柔軟に対応できる「強いIT基盤」を手に入れることは、企業の競争力を高める戦略的な投資でもあります。
ネットワークの見直しを検討する際は、専門知識を持つパートナーに相談することが、成功への近道になるでしょう。
※「Prime ConnectONE」「Master'sONE CloudWAN」は、NTTPCコミュニケーションズの登録商標です。
※Microsoft365は、米国Microsoft Corporation の米国およびその他の国における登録商標、または商標です。
※Salesforceは、salesforce.com,Inc.の登録商標です。
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