奥平 進
佐村 俊幸
【取り組みの背景】
- 各組織・各担当で個別に生成AIを利用しており、セキュリティや利用環境が統一されていなかった
- Microsoft 365アプリケーションと生成AIとの連携性の低さから、業務での生成AI活用に制約があった
- 全社的なDX推進を加速するため、安全かつ利便性の高い生成AI環境の整備が必要であった
- 技術部門だけでなく、営業/マーケティング、スタッフ部門を含む全社員が活用できる推進体制の構築が課題であった

【取り組みの成果】
- Microsoft 365 Copilot導入から1年未満で全社員の83%にあたる530名が利用
- GitHubの全社利用を推進し、GitHub Copilotの利用やソフト開発のノウハウの全社展開を実現
- 独自のナレッジハブ制度により、組織の壁を越えた情報共有と推進が実現
- 月2回の生成AI情報共有会には平均100名以上の社員が参加し、全社での情報共有の場となり、ノウハウの横展開を実現
- 「開発」、「FAQ」、「データ分析」、「業務自動化」のテーマごとに4つのコミュニティが形成され、テーマ毎に組織横断で情報共有やサポートを実施
- グループディスカッションで現場のアイデアや課題を吸い上げ、実践につなげる文化が醸成
「生成AIを使うこと」ではなく、「業務課題を解決すること」——これが、NTTPCコミュニケーションズ株式会社(以下、NTTPC)が実践するDX推進の軸である。2024年7月にデジタルイノベーション推進室(現:デジタルイノベーション室)が発足。2025年1月にMicrosoft 365 Copilot(以下、M365 Copilot)を全社導入した当初の利用率はわずか2割だったが、約1年で8割超に到達した背景には、単なるツール導入ではなく、現場に寄り添った推進体制と組織文化の変革があった。
本記事では、全社のDX推進を担うデジタルイノベーション室長の奥平と、マーケティング戦略を企画・統括するマーケティング&ストラテジー室長の佐村による対談形式で、取り組みの実際を深掘りする。全社横断の推進体制(ナレッジハブ)、研修と伴走支援による浸透施策、技術部門だけでなく営業/マーケティング、スタッフ部門にも広がる活用事例、そして今後の展望まで——試行錯誤を重ねながら進めてきたNTTPCの取り組みを紹介する。
全社員の83%が生成AIを活用する組織へ──短期間で実現した普及の裏側
佐村:2025年1月からM365 Copilotの全社導入を開始しましたが、全社から見た現在の生成AI活用の状況はどのようなものでしょうか?
奥平:M365 Copilotの全社導入以前より生成AIは活用していましたが、Microsoft Teams、Outlook、SharePoint等(以下、M365アプリケーション)とシームレスな連携ができておらず、全社的な活用には制約がありました。それが、2025年1月にM365 Copilotを全社導入したことで状況は大きく変わりました。導入から約1年で全社員の83%にあたる530名が生成AIを活用しています。導入直後の2025年春頃は利用者が100名程度、全社員の2割にも満たない状況でしたが、そこから9カ月で8割超まで伸びました。
佐村:9カ月で利用者が2割から8割超に伸びるというのは、大きな変化ですね。ただ、新しいツールの導入には抵抗がある方もいたのではないでしょうか?
奥平:そうですね。一般的に、新しいツール導入では『自ら積極的に使うアーリーアダプター』『様子見層』『否定的層』に分かれます。自ら積極的に使う方は3割前後、まずは様子を見る方が4割くらい、残りの方は否定的だったり使い方が分からなかったりします。こうした様子見層や否定的層の方々をどう引き込んでいくかが最大の課題でした。
【導入の背景】デジタルイノベーション室の役割とDX推進への課題意識
佐村:今回のAI活用推進の軸となったデジタルイノベーション室の役割とミッションについて教えてください。
奥平:デジタルイノベーション室のミッションは、これからのIT環境の整備やAIを活用して、DX活用を社内に推進していくことです。全社員が安心して新しい技術を活用できる環境を整え、業務課題の解決につなげることを目指しています。
セキュリティと利便性を両立させる環境整備
佐村:今回、全社のDX推進やAI活用に取り組むにあたって、どんな課題意識をお持ちでしたか?
奥平:セキュリティ攻撃の被害を受けた他社さまの事例を見ても、セキュリティを担保しつつ社内の人が安心して使える環境を整えることが重要です。以前は各組織が様々な生成AIを使っており、M365アプリケーションとの連携に課題がありました。
DX推進において、この課題を解決することが最も大切だと考え、2025年1月にM365 Copilotの全社導入に至りました。
M365 Copilotの導入により、SharePointやOutlookの情報を瞬時に検索して活用できるようになり、利便性が大きく向上しました。また、社内に閉じたクローズドな環境で使えることも重要でした。組織や担当に閉じないといけない情報も適切に制限できるので、安心して使える環境が整いました。
佐村:実際に使ってみて、利便性の面ではどうでしたか?
奥平:M365 Copilotは日常業務で使うアプリケーションに統合されているため、特別な操作を覚える必要がありません。Microsoft TeamsやOutlookでの会議の要約、メールの下書き作成など、日々の業務の中で自然に使える点が好評でした。業務効率化が目的ですが、重要なのは『何時間削減できたか』ではなく、『削減できた時間で何に新しくコミットできたか』です。このような考え方で組織に広めています。
【推進体制】全社横断の推進を支えるナレッジハブ
佐村:AI活用推進において、体制構築をする際に工夫したポイントはありますか?全社横断の『ナレッジハブ』という体制をつくった狙いは何だったのでしょうか。
奥平:組織間の壁、リモートワークで誰がどのような仕事をしているか理解しづらくなっています。一人が旗を揚げても分かりにくいので、情報を収集する仕組みをまず作ることから始めました。そこで、全社の各部署に推進担当者を配置する『ナレッジハブ』という体制を構築しました。全社では約50名のナレッジハブが存在し、任期は1年間で、現在2年目です。AI活用研修の浸透やコミュニティへの勧誘、担当とのミーティング、利用申請の動機づけなどをしてもらっています。

全社推進における大きな支えとなっているNTTPCナレッジハブのイメージ
ナレッジハブの重要な役割:現場の課題を吸い上げる仕組み
奥平:ナレッジハブの一人一人と各組織の課題を把握するため月一回のペースでミーティングしています。ミーティングの中で、チーム内の利用状況や課題をヒアリングし、一カ月後に向けたテーマを相談しています。
ナレッジハブの方には、マネージャと一緒に担当内でのグループディスカッションを実施し、チーム内での利用状況、課題、利用アイデアを議論しています。当初はリアルでのフェイス・トゥ・フェイスを推奨していましたが、最近からはオンラインにしました。我々が会議に出席しなくても、議事メモを生成AIで自動抽出し分析できます。グループごとの利用状況や課題感などを可視化してくれるので、非常に便利になっています。
年齢や役職を問わず多様なメンバーが参加できるナレッジハブ体制
奥平:ナレッジハブになった方は、大きな推進力になりました。きっかけを与えることで、その動きが加速する。ナレッジハブの担当者にとっては全社施策推進をしているという大義名分になり、活動を宣言しやすく、業務の中に組み込みやすくなります。
佐村:担当の中や部署の中で差はありましたか?
奥平:NTTPCは元々技術にたけた会社なので、各部署に誰かしらAI活用に詳しい方がいました。若い方、入社早々の方もいれば、ベテランの方もいて、様々です。また、新入社員の研修テーマに生成AIの活用を取り上げたことで、配属先のメンバーがサポートする機運も出てきました。
ナレッジハブを基盤として、専門性を深めるコミュニティ活動
奥平:全社向けの生成AI情報共有会を月2回木曜日に開催しており、毎回社員約650名のうち100名程度が参加します。ナレッジハブの方からヒアリングした利用事例を共有し、社内での横展開を推進しています。更に、DXを持続的に広げていくために、「開発」、「FAQ」、「データ分析」、「業務自動化」という4つのコミュニティを立ち上げ運営しています。日々の業務の中で「ここを自動化したい」「ここでAIを活用したい」という相談が寄せられ、コミュニティのメンバー同士で知見を持ち寄りながら、解決しています。
社員から選抜した各コミュニティのリーダーや事務局であるデジタルイノベーション室メンバーが、困っている社員の相談に乗る体制も整えています。
推進体制と並行して、全社研修で利用を促進
奥平:プロンプトの使い方なども含めた研修を全社員に実施しました。動画を撮影し、参加できなかった社員は録画を見られるようにし、アンケートで研修の効果を確認しています。
佐村:AI活用の研修は良かったですね。私も受講しましたが、具体的な使い方が分かって、すぐに実務で使えるようになりました。研修によって使う人が確実に増えたと感じています。
こうした推進体制と施策により、全社員の8割超が生成AIを活用する組織となった。実際の現場では、どのような活用が広がっているのか、具体的な事例を紹介する。
【事例と成果】営業/マーケティング、スタッフ部門にも広がる活用事例
生成AIの活用は、技術部門だけでなく営業/マーケティング、スタッフ部門にも広がっている。業務に直結した実践的な事例が次々と生まれている。
佐村:技術部門だけでなく、営業や管理部門での活用事例が出てきたことをどう評価していますか?
奥平:当初は技術部門以外への広がりに不安もありましたが、周りのサポートとともに一人一人が手を動かして取り組んでいます。想定以上に活動が広がっています。
佐村:私も現場で見ていますが、生成AIの活用の幅は本当に業務に直結していますね。最初は個人でつまみ食いするように使っていたものが、色々試してみることでアイデアが出てきて、そこから新しい活用方法が生まれている様子を現場で見て実感しています。
奥平:デジタルイノベーション室では事例創出の数をKPIとしてカウントしています。KPIの中に事例をいくつ作るかというのもあります。KPIの状況も更新しており、思ったように順調に進んでいる形です。こうして生まれた多数の事例から、現場部門での具体的な活用事例を紹介します。
NTTPCの現場部門での具体的活用事例
【全社】議事録を自動作成し会議時間を削減
議事録の自動作成は、社内で最も広く使われている活用事例の一つだ。会議の内容をM365 Copilotが自動で文字起こしし、要点をまとめた議事録を生成する。自分が参加していない会議も議事録を読むことで理解できるため、発言しない会議への参加を減らし、その分の時間を他の業務に充てられるようになっている。
【全社】新入社員の研修にM365 Copilotを活用
新入社員の研修テーマに生成AIの活用を組み込み、配属初日から業務でM365 Copilotを使える状態を整えている。配属先のメンバーがサポートする機運も生まれ、組織全体での活用が促進されている。
【技術部門】GitHub Copilotで内製開発を加速するとともにノウハウの共有を加速
ソフト開発に従事している約150名の開発者がGitHub Copilotを利用し、コーディングの効率化を実現している。従来は外部委託していた案件がCopilotを活用することで内製化できるなど効果が出ている。このような取り組みにより、開発スピードの向上とコスト削減を両立している。また、Claude CodeやFigma等のツールの活用、UI/UXデザインガイドの作成など開発部署のマネージャがリードし、ノウハウの蓄積、横展開を実施している。
【サービス開発】独自AIを健康経営®支援サービス等サービス開発での活用
厚生労働省が推奨する「4つのケア」を実践する健康経営®支援サービスに、NTTPC独自AIを活用したQAチャット機能を組み込んだ。国産スマートリング「SOXAI RING」で取得したバイタルデータをAIが分析し、従業員へのセルフケアアドバイスや管理者へのアラート通知を実現している。
最新のAIエンジンを組み合わせ、RAG技術により健康経営に関する専門知識を反映した対話型サポートを提供。管理者向け画面ではアラート一覧やステータスを一元管理でき、属人的なケアから標準化されたケアへの移行を支援する。
<健康経営®支援サービス>
https://www.nttpc.co.jp/lp/health_mng_sprt/
また、ネットワークサービスPrime ConnectONE®におけるAI機能(AIOps)開発にも取り組み、画像解析による故障判定支援などお客さまの運用を支援するAIエージェントを開発し、今後も順次機能の追加を進めている。
<Prime ConnectONE®サービス>
https://www.nttpc.co.jp/prime-connectone/
【営業/マーケティング部門】概算見積もりの迅速化
インサイドセールス業務では、ウェアラブルIoTサービスの見積もり依頼対応の際に課題があった。熱中症対策義務化などの影響で問い合わせが急増する中、お客さまから「概算費用で良いのですぐに見積もりが欲しい」という声が多く寄せられていたが、人手での見積もり対応には時間がかかっていた。そこで、生成AIを活用した概算見積もり回答の仕組みを構築。インサイドセールス担当者がプロンプトで指示を出すことで、生成AIが数分で概算見積もりを算出し、担当者が内容を確認した上でお客さまに回答する体制を整えた。この取り組みにより、見積もり回答時間を約50%削減し、最短即日回答が可能になった。
佐村:インサイドセールスでの概算見積もりの事例に関しては、お客さまの反応も良くなっていますし、パートナー企業の方からも『以前より対応が早くなった』『情報共有がスムーズになった』と聞いています。生成AIの活用が、社内だけでなく社外とのコミュニケーションの質向上にもつながっていると実感しています。

【今後の展望】組織横断での活用とデータ基盤の整備へ
佐村:今後、NTTPCではどのようなAI活用を目指していきたいと考えていますか?
奥平:今は個人や担当部署の中で使う形が中心です。次は組織横断で使うことをどう実現していくか。様々なSaaSとの連携やデータ分析など、ツールの使い方をより深めていきたいと考えています。また、データを蓄積する部分が手作業になっているので、自動で入出力する仕組みの構築も必要です。
組織横断での活用に向けては、現場から多様なアイデアが生まれてきています。例えば、2025年11月に行ったグループディスカッションでは、「やってみたい」というアイデアが自発的に次々と挙がりました。まだまだ活用の可能性は広がっており、一人で悩むのではなく、情報共有会やコミュニティを通じてノウハウを共有しながら実践していきます。また、一部の担当で成果を出しているAIエージェントへの活用やローカルLLMを含めた活動についても費用対効果を評価しながら、安心して利用できる環境を全社に展開したいと考えています。
NTTPCの取り組みからDX推進時に参考・適用できるポイントとは
佐村:NTTPCでの取り組みを振り返って、他社にも共有できる学びや気づきは何でしょうか。生成AIを活用していく上で、企業導入へのアドバイスがあれば教えてください。
1. 推進体制:各部署に推進担当を配置し、現場の声を吸い上げる
奥平:全社に均等に広げたいなら、ナレッジハブのような仕組みは有効だと思います。課題を収集したり、背中を押す取り組みをする。ただし、経営層のバックアップが必要です。推進担当だけが頑張っても、なかなか進みません。
ナレッジハブという仕組みは、推進担当だけでは把握しきれない現場の課題を可視化します。重要なのは、推進担当が「監視役」ではなく「サポート役」として機能していることです。
2. 段階的な施策展開:研修→コミュニティ活動→個別サポート
奥平:全社員研修で基礎を固め、情報共有会やコミュニティ活動でノウハウを蓄積/共有し、個別サポートで不安を解消する。この多層的な施策により、アーリーアダプター層だけでなく、様子見層や否定的層も巻き込むことができました。段階的に施策を展開することで、それぞれの層に合った支援を提供できたと考えています。
3. 目的達成のための手段としてAIを位置づける
佐村:現場の立場から見ると、『生成AIを使うこと』自体が目的になってはいけないと感じています。今はまだ『生成AIツールを使おう』という意識が強いですが、Googleの検索エンジンがAIモードになってきているように、検索するのと生成AIを使うのに差がなくなりつつあります。重要なのは、業務の目的を達成するために最適な手段としてAIを選ぶこと。AIは一つのツールに過ぎず、やるべきはDX推進です。目的を見失わないことが基本テーマだと思います。
4. セキュリティとガイドライン:現場が迷わない道筋を示す
奥平:『どこまで使っていいか分からない』という不安を解消するため、NTTグループのガイドラインを展開しながら、個別ケースの相談に応じています。お客さま情報を含めて機密情報をどこまで取り扱って良いかなど、使う方が迷わない道をケースごとに丁寧に対応しています。
佐村:生成AIは、そのうち『使おう』と言わなくても自然に使われるようになります。だからこそ、セキュリティをその場で担保する仕組みが重要です。
奥平:NTTPCのDX推進は、ナレッジハブによる推進体制の構築、段階的な施策展開、目的達成のための手段としてAIを位置づけること、そしてセキュリティとガイドラインの整備等、包括的に進めています。私たちもまだ道半ばです。今回の取り組みで得た知見は、どんどん外部にも公開していきたいと思っています。他社の方々と一緒に情報交換しながら、日本全体のDX推進を加速していきたいですね。NTTPCは今後も、組織全体でDX推進に取り組んでいきます。「ツールを導入すること」ではなく、「組織文化を変えること」——この本質を押さえながら、さらなる進化を続けていきます。
※Microsoft、Microsoft 365、Microsoft 365 Copilot、Microsoft Teams、Outlook、SharePointは、米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標です。
※GitHub Copilotは、GitHub, Inc.の商標または登録商標です。
※健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
※Prime ConnectONEは、NTTPCコミュニケーションズ株式会社の登録商標です。