INTERVIEWインタビュー

【Vol.18】北海道をイノベーション、北大発ベンチャー企業のチャレンジ。

“Boys, be ambitious!” 青年よ大志を抱け! 北海道大学発のIT・AIベンチャー企業『テクノフェイス』が北の大地で挑戦を続けている。豊かな自然の中でこそ生まれる発想こそが、イノベーションの源泉。社会課題の解決を通して地域に喜びを、都会では得られない生きがいと働きがいを創出する。北海道の代名詞“自然”や“食”と共に“テクノロジー”を刻みたい。代表取締役の石田崇さんにテクノフェイス創設の経緯や北海道ならではの取り組み、今後の展望などについてお伺いしました。

北海道で働きたい、北海道のために働きたい。若きIT技術者たちに選ばれる場所を目指して

飯野

北大発のベンチャー企業であるテクノフェイス、発足の経緯や取り組みなどについて教えてください。

石田

テクノフェイスは北大発のベンチャー企業として2002年に創業、今年で20歳の会社です。中心となったのは、大学でAI(人工知能)の研究をしていたメンバー。当時私は27歳、研究員的な立場でしたが、社員第一号として創業時から事業に関わらせてもらいました。

発足当時から今も変わらず北海道の抱える大きな課題、それは道外への人材流出です。大学で育った優秀な人材が就職とともに外へ出てしまう。このままでは北海道の地で技術者は育たない。未来の北海道を託せる技術者が活躍できる場所を創設することを目的に、テクノフェイスが作られました。

学びを地域の課題に応用して解決し、北海道でも高い技術を活かした仕事ができる。北大発ベンチャーならではの充実した研究環境や地域との連携力。大切にしたいのはQOL(クオリティ・オブ・ライフ)、給与面もライフスタイルも満たしていることです。雄大な自然が魅力である北の大地だからこそ得られる豊かな暮らしが、北海道を“選ぶ”鍵だと思います。

現在は社員数35名、平均年齢も35歳台と若い人材に活躍してもらっています。AIを活用した観光支援や、オリジナルのデジタルサイネージシステム、雪国ならではの融雪システムなどの事業に、皆やりがいをもって取り組んでいます。

強みは地域との連携力、地元の課題をテクノロジーの力で解決。「ありがとう」が力の源

飯野

地域の課題や活性化を地元の人材で。『働きがいも経済成長も』という点においてSDGsにつながる面がありますね。他にも意識されていることなどがあれば教えてください。

石田

コロナ禍もありオンラインでの業務が増えました。その中で、会社への帰属意識を感じてもらうために大切だと思うのは『やりがい』の部分ですね。加えて札幌市など自治体や地元企業とのパートナーシップ、つながりや感謝の言葉が存在意義をもたらしてくれます。

飯野

産官学の連携がもたらす幅広いパートナーシップ。その中で北海道ならではの事業としては、どのような取り組みがありますか。

石田

北海道と言えばやはり大雪。除雪は道民のインフラを守る大事な仕事です。AIの受託事業を始めた当初には、建設現場などの監視システムを開発する地元札幌市のIT企業『エコモット』とともに、ロードヒーティング遠隔管理サービスにAIを導入しました。地中に埋められたパイプをボイラーで温めて雪を溶かすシステムですが、エコモット社では人が現場画像から積雪状態を確かめて、ボイラーの稼働を遠隔操作するサービスを提供されていました。人による確認をAIがサポートし、カメラで捉えた画像を元に積雪を察知、運用データから自動学習を促して、的確なボイラー稼働の判断スピード向上にもつなげています。AI導入により人的負担を軽減するとともに、燃料の省エネ、二酸化炭素削減にも貢献しています。

テクノフェイスが幹事社を務める一般社団法人さっぽろイノベーションラボでもパートナーシップを活かしています。地元企業間の知識や技術を結集し、地域内外の課題解決や製品創造のためのコラボレーションを進める中で生まれた、ウェブサービス『札Navi』の実証実験が進んでいます。

『札Navi』はAIを活用して札幌市内のおすすめの観光施設や、移動ルートを案内するウェブサービスです。スマートフォンやパソコンに性別や年齢、旅の目的や周遊可能な時間などを入力すると、観光施設140カ所、飲食店50店からAIがおすすめを選び、最適な経路を示してくれます。昨年の実験では、利用者の約6割の方から「非常に良かった」・「良かった」との評価を頂きました。

北海道の強みである観光と食。『札Navi』の他にもデジタルサイネージ向けのシステムとして『TechnoVision controller』を手掛けました。駅や公共施設などで見かけるディスプレイによる電子看板をもっと使いやすく、もっと便利に。北海道の魅力をビジュアルで伝えたいと願っています。現在は、札幌の地下歩行空間やアイヌ文化復興拠点「民族共生象徴空間(ウポポイ)」などに、ディスプレイが設置されています。さらにAIカメラとの融合で混雑状況を管理、コロナ禍における3密回避を促すシステム『TechnoVision FlowWatcher』では安全安心な空間提供に貢献したいと願っています。

人に寄り添うようなAIを。最新技術で暮らしをもっと豊かに

飯野

多彩な取り組みですね。以前、とあるテレビ番組でAIで俳句を詠む挑戦をされていたのを拝見しましたが…。

石田

アタタ、痛いところを…。4年前、私も関わる札幌市の産学官組織「札幌AIラボ」で、北大とともにAIを使って俳句を詠む『AI俳人・一茶くん』の開発を進めていたのを、NHKが聞きつけて当時の学生俳句チャンピオンたちと戦うことになりました。一茶くんは、過去に詠まれた何十万もの俳句をデータとして読み込み、単語のつながりや季語などをディープラーニングと呼ばれる手法で学習します。画像認識の技術も組み合わせ、写真から情景を読み解いているかのように俳句を生成します。

当時の対戦結果は…、ぼろ負けでした。審査員からは「AIが俳句なんて詠めるわけない」「まだまだ人にはほど遠い」など、酷評を受けました。ある方には「俳句には育ってきた環境や人生が含まれている。AIが入るべき領域ではない」とも。ただ、収録後に審査員の方々とお話しする中で「想像を超える面白い取り組みだ」「人の心の構造を理解しようとする試みだね」とのエールも頂きました。

この先も、AIが完全に人と置き換わることはないと思いますが、人に近い感情や思考ができるようになれば、その先に人を助ける“何か”が生まれるような気がします。それは人にとって、より良い暮らしにつながるような…。そんな期待を『一茶くん』に込めています。

いでよニューリーダー、北の大地が若き力を待っている。ここでしかできない挑戦をともに

飯野

まさに挑戦、開拓精神を感じるエピソードですね。今後のテクノフェイスの展望などについて教えてください

石田

繰り返しになりますが、北海道のこの地で働く技術者に、やりがいを持ってもらえるような取り組みを続けて「北海道と言えばIT」と言われるような場所にしていきたいですね。そのためには、ぐいぐいと北海道のIT業界を引っ張ってくれるリーダーの必要性を感じています。北海道生まれの私は、どちらかと言えばのんびりと構えていて野心が足りないかな。個性的で元気な技術者たちが集えば、きっと良い方へと変わっていくと信じています。

社員たちには、仕事も大切ですが北海道の暮らしそのものを楽しんでほしい。社長になって始めたゴルフが、私にとっては楽しみの一つです。北海道ならではの雄大な景色の中で、おもいっきりスイングすると何とも気持ちがいい。ここでしかできないことを、ここでしか楽しめないことを大切に。これからも北海道から新しい技術を発信していきたいです。