INTERVIEWインタビュー

【Vol.16】DXで建設業界の未来を照らす。つながりあうことで広がる「共創」こそ成長の鍵。

北海道の建設ICTスタートアップ企業『NexTerrace(ネクステラス)』が3次元データを活用、立体的な完成予想図を確認できる建設現場向けAR(拡張現実)アプリやAI(人工知能)カメラによる安全性向上につながるジェスチャーコミュニケーションシステムを開発し注目を集めています。
「デジタル技術を使って建設業界をもっと楽しく」と話す株式会社 ネクステラス代表取締役の木下大也さん。建設現場で話題の「BIM/CIM(ビム/シム)」とは?次世代の建設業界をDXの力で明るく照らす、ネクステラスの挑戦について木下さんにお話を伺いました。

建設途中の工事現場を魔法のゴーグルで覗くと…、そこには未来の街が見える。まるで漫画の世界のような技術が今現実に。

次世代の建設を担う新技術。“見えないもの”を見える化したことで“見えてきた”建設業界の可能性

飯野

ネクステラスが取り組む3次元データの活用について教えてください。

木下

主に僕らは図面や施工に関連するデータなどから、3次元モデルを作成するサービスを行っています。さらに、せっかく作成した3次元モデルを有効活用するために、ARとして構造物を可視化できるように“照らし出す”アプリ『TerraceAR』を開発しました。
iPhoneやiPadを現場にかざすと画面に3次元モデルが現れ、構造物がどのように設置されるかや配管の位置、地中の埋設物などを確認することができます。

建設現場は規模が大きく様々な業者が関わるため、施工において意思疎通や作業手順が複雑化していることが課題でした。その課題を「見える化」することで解決したいと考えています。3次元データの活用は、国が2023年度に小規模を除く全ての公共工事に適用するBIM/CIM原則化においても重要なポイントです。

BIM/CIMとはわかりやすく言えば、設計段階から3次元モデルを導入して施工や維持管理など関係者間の情報共有を容易にして効率化、さらには高度化を図ること。イメージしづらいですよね。だからこそ百聞は一見にしかず。現場で『TerraceAR』を体験すると、皆さん「おお!」とまずは驚き、「すごくわかりやすい」「なるほど。ここがこうなるのか」と3次元モデル活用の有用性に目を輝かせてくれます。少しずつですがこの体験を広げていきたいと考えています。

飯野

具体的にはどのような現場で活用されましたか。

木下

渋谷駅の再開発において、施工を手がける東急建設様との事例がわかりやすいかもしれません。複雑に入り組んだ現場ではどこに何ができるのか、完成後の景観はどのようになるのかが把握しづらい。作業手順の確認や埋めた後の情報などをARで共有すれば、作業者間の連携が進み仕事の効率化につながります。完成後の維持管理にも応用できます。

AR技術は様々な現場で使われていますが、建設業に特化したARはまだ少ない。アプリでは建設業特有の地中や水中など本来見えない位置に隠れている3次元モデルについては、現実の映像の中に枠を設け、その枠内にARが照らし出されるような仕組みをとっています。現実空間をのぞき込むようにARを体感することで「この地面の下に管が通って…」など、立体感を損なわない見せ方、見ていて楽しくなるゲーム感を生み出している点などが、我々のシステムの特徴だと思います。

今こそ転換期、持続可能な建設業界に向けてマインドセット。誰もが働き甲斐をもって現場に臨める時代へ

飯野

建設業界で進むDX、現場の方々の反応はいかがですか。

木下

正直、まだまだです。建設業界に限りませんが少子高齢化は課題です。年配の職人さんや社長さんの中には「うちの会社には無理」と言われることも。業界には未だに3K(きつい・汚い・危険)のイメージも残っています。

そのマインドではBIM/CIMも進まないし、若い方々も建設業界を目指してくれない。DXやICT、AIを用いて効率化を進め、建設現場から新しい3K(給与が良い、休暇がとれる、希望がもてる)に業界全体を変えていきたいと考えています。

そのためには若い人たちが”楽しい”と思えるエッセンスをもっともっと取り入れることが大切だと感じています。ARの世界観などはゲームでは当たり前のものになりつつありますよね。楽しいと自然と上達していくもの。若い世代にとってこれからDX化が加速していく建設業界は力を存分に発揮できる魅力あふれるフィールドだと思います。

最新の技術を用いることで作業自体が効率化すれば、資材の節減や建設現場で稼働するダンプカーなどの重機から排出される二酸化炭素を抑えることができます。取り組みの中で働き方改革、技術革新、環境保護などSDGs(持続可能な開発目標)につながっていく部分もたくさんあると感じています。

つながる、つなげるが生み出す共創のエネルギー。無限の可能性を信じて

飯野

パートナーシップという点もSDGsにつながる部分。ネクステラスは多くの企業とコラボレーションする中で新たな挑戦を続けています。現在はどのようなことに取り組んでいますか。

木下

こぶし建設様(北海道岩見沢市)とともにAI姿勢検知システム『AI’s(アイズ)』を共同開発しました。ショベルカーなどの重機は運転席からの死角が多く、運転には危険がつきものでした。そこで、ショベルカーの後部にAIカメラを設置。周囲の作業員が手を挙げるなどのジェスチャーで、運転席へ危険を知らせるジェスチャーコミュニケーションシステムを構築しました。

『AI’s(アイズ)』は「合図」とAIをかけて命名。「照らす」とかけた『TerraceAR』もそう。僕らは業界をもっと楽しい場所にしたい。ネクステラスの理念として、技術革新やパートナーシップ、共創によるイノベーション、そして「わくわく」「勇気」「感動」を掲げています。

現在、社員4名ですが100社ほどの企業さんとコラボレーションしています。お互いを認め合い、協力しながらより良いものを作るのは楽しい。若い人はゲームやプログラミングなどを通してARやVR、3次元データの取り扱いに長けている。彼らから教わることも本当に多いです。会社や世代を超えてこれからもコラボレーションし続けていきたいですね。

飯野

木下さんの人柄がにじみ出るような会社理念ですね。どのような体験からそのように感じられたのですか。今後の展望についても教えてください。

木下

もともと和歌山県出身、大学で土木を学ぼうと北海道にやってきました。大学では学業の傍ら、ヒグマの生態を観察する「ヒグマ研究グループ」に入りました。入ってみてわかったのは多種多様な人がいること、そして力を合わせることの大切さです。自然のヒグマを相手にしているので、何といっても安全第一。協力し合って山を登り、排泄物などの痕跡を探す。どこにどんなヒグマが何頭いるか…、あの頃の経験が今も企業間におけるコミュニケーションの基礎になっているような気がします。

建設業界も一緒なんです。1社ではできないことも、たくさん集まることで大きなことが実現できる。大きなインフラや構造物を作ろうと思ったら、やっぱり『共創』が大切。我々は、小さな会社として、小さいからこそいろいろなパートナーと知恵を出し合って、面白いことができるんじゃないかと思っています。

今はどこでもつながりあえる時代。国内だけではなく、インフラや建設技術が今後大きく発展することが予想される東南アジア、アフリカ諸国などにも3次元データの活用やAI技術の応用を伝えていきたいですね。ともに学び、ともに考え、ともに成長していく。それこそが持続可能な社会の実現には欠かせないポイントだと私は感じています。