INTERVIEWインタビュー

【Vol.10】AIカメラが見据える未来のスマート社会。もっと便利に、もっと人々を幸せに。

「それはどれくらい人を幸せにできるか?」-そんな問いかけをAI開発のモットーとする新進気鋭のスタートアップ企業が、ニューラルポケット株式会社。画像認識やエッジ処理技術を源泉としたAIエンジニアリング事業を展開し、創業わずか3年目で上場するなど国内外から注目が集まっています。
「どんなにAI技術が進歩しても、それはあくまで“世のため、人のため”であるべきです。」そう語る、同社取締役CTO(最高技術責任者)の佐々木雄一氏に、同社の注力分野である「エッジAIカメラ」の活用価値や今後の展望などをお聞きしました。

世界を便利に、人々を幸せに。社会課題へのアプローチが新たなAI技術の活用を生む

飯野

ニューラルポケットが取り組むAI事業について教えてください。

佐々木

ニューラルポケットは「世界を便利に、人々を幸せに」というミッションを掲げてAI事業を展開しています。AI技術を活用したさまざまなサービスが、人々の暮らしを便利にしていく立役者となるよう願っています。

具体例を挙げると、スマートシティ関連がわかりやすいかもしれませんね。街中に設置されたカメラの映像を、AIを使って動態解析して活用する試みに挑戦しています。防犯カメラではなく、人間に近い認識能力を持った“AIカメラ”です。
このカメラで街を見守ることで、そこで暮らす人々の生活を安心・便利にしていこうという考え方がAIスマートシティ構想ですね。その実現に向けて事業を行っています。

その他にも、商業施設の人流や駐車場の空きスペース・ナンバー等をAIカメラで分析して効率的な運営やマーケティングに役立てるサービス、スマホ型のドライブレコーダー、駅や商業施設、マンションエントランスなどに設置されているデジタルサイネージ広告、SNSなどにアップされたファッションの画像をAIで分析してトレンドを可視化するサービスなど、当社独自の画像認識およびエッジ処理技術を源泉としたAIエンジニアリング事業を展開しています。

飯野

スマートシティからファッションまで幅広い分野でご活躍ですね。創業のきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

佐々木

もともとは、前述のファッショントレンドを可視化する「AI MD」事業からスタートしました。当時の社名は「ファッションポケット」でした。日本において女性だけに絞っても、Web上では年間100万枚以上の画像がアップロードされているのをご存じですか。
その画像をAIで分析すれば、流行のトレンドを捉えることができます。アップトレンドは話題になるので皆さん気づきやすいですが、問題はダウントレンドです。いつの間にか売れなくなっていることに気づかず、生産を続けてしまい、最終的には在庫廃棄へとつながってしまう。

SDGsにも通じますが、アパレル業界では全世界的に「エシカル」が重要なキーワードになっています。主なファストファッションブランドも軒並みリサイクルサービスを行っていますよね。我々はそのような課題に社会的なミッションを感じてサービスを始めました。

ファッションポケットで培ったAI技術や人材をもとに、より広い分野で汎用的なサービスに発展させ、社会にAIを普及させることを目指して「ニューラルポケット」に社名を変更しました。
現在では、情報収集の末端(エッジ)にあたるカメラ部分で画像を解析して情報を取り出す「エッジAIカメラ」分野に注力し、この技術を応用してデジタルサイネージ広告、モビリティ関連サービス、スマートシティへの取り組みへと活かしています。

環境に優しく、人に寄り添うテクノロジー。小さなエッジAIに込められた大きなミッション

飯野

エッジAIとはどのようなものなのでしょうか。通常の防犯カメラなどとの違いについて教えてください。

佐々木

エッジAIカメラとは、カメラに小さなAIコンピューターが組み込まれ、撮影した映像をその場で分析して必要な情報だけを抽出することができるデバイスです。
通常の防犯カメラは撮影した画像をすべてセンターサーバへ送るためデータ量が多く、映像解析に関しては膨大な通信負荷がかかります。加えて、センター側に計算・解析リソースが一極集中することになるため、消費電力も膨大になります。
エッジAIカメラは、端末側で計算・解析を行うため送信するデータ通信量が抑えられ、センター側への負荷が少なくてすみます。エッジAI自体のサイズが小さなものなので、特別な冷却装置も必要ありません。
消費電力に関しては、従来の10分の1ほどに抑えることができる(※)とも言われています。環境負荷を減らすという意味で、SDGsの観点からもエッジAIカメラは利点があります。
(※)ニューラルポケット社調べ

飯野

いいことずくめのエッジAIですが、実物はどのようなものなのでしょうか?

佐々木

大人の握りこぶしぐらいのコンピューターと思ってもらえるとわかりやすいかもしれません。すでに設置されている通常のカメラに、エッジAIを後付けすることもできます。既存のカメラを活用して、環境に配慮しつつよりよい街づくりへとつなげていくことができると感じています。

飯野

意外と小さい。社会に溶け込むデザインなんですね。そんなエッジAI技術がもたらす社会へのインパクトを教えていただけますか?

佐々木

千葉県柏市で取り組んでいる「柏の葉スマートシティ」を例に、エッジAIの活用についてお話します。
「柏の葉」では街中にエッジAIカメラを設置、住民の見守りや防犯などに活用されています。通常の防犯カメラだと、監視員が見落としてしまえば、なにかトラブルが起きても気づくことができませんよね。また、カメラの設置が増えればその分だけ監視員の負担も増えます。1人で何十台ものカメラを見守り続けるのは難しいですよね。
でも、エッジAIカメラであれば、何十台、何百台であっても、道で倒れた人や立ち入り禁止区域への子どもの侵入、不審者などの映像情報をその場で分析して異常を検知、必要な情報を監視員に知らせることが可能です。
街の見守りと同時に、テクノロジーの力で働き方にも良い貢献ができればと思っています。
またプライバシーの観点においてもエッジAIは注目されています。
エッジAIは映像から必要な情報だけを抜き取るので、撮影した映像はその場で消去され、記録としては残りません。誰しも自分の顔が映った映像が記録されるのは気持ちよくないですよね。例えば、エッジAIカメラが私を捉えた場合、「男性」「30代」などの情報のみがセンターサーバへ送られます。
AIカメラは使う側に何かしらのベネフィットを感じていただけないと、単に「見られている」という気持ち悪さだけで終ってしまいますよね。社会のためにいかに価値を創造するかということにニューラルポケットは注力しているんです。

叶えたいのは子どもの頃に描いた夢。AI技術の力で人々を幸せに

飯野

AIテクノロジーのお話をする佐々木さんの表情は生き生きとしていますね。AIが未来の社会を変えていく存在であることが伝わってきます。

佐々木

ありがとうございます。小学2年のときに、読めもしない大学院生向けの参考書を買ったんです。そこに、AIと人の脳との対比が書いてあって、とてもわくわくしたのを今でも鮮明に覚えています。
大学ではデータ分析を学び、卒業後はCERN(欧州原子核研究機構)での素粒子研究などを経てコンサルティング業界で働いていましたが、その後ようやく、深層学習(ディープラーニング)と言われる技術が注目され始めて、「これだ!」と(笑)。いよいよ子ども時代からの夢に携われる!とわくわくしましたね。今もその気持ちは変わりません。

飯野

聞いているこちらもわくわくしてきます。今後のAIカメラ普及の鍵や、展望などがあれば教えてください。

佐々木

エッジAI分野は業界全体として一層の技術的な習熟が必要です。まだエッジデバイス自体の価格が高いということ、そして計算能力ももっともっと高めていく必要があります。
また、当然のことですが、サービスとしての魅力を高めていくことが何よりも大切です。

開発にあたってチームスタッフと話し合う時に「それってどれくらい人を幸せにするの?」と問いかけるように心がけています。AIに限らず、人の役に立たないものは売れません。

スマートシティの取り組みは、まさに総合格闘技。自治体との連携や企業同士のサポート、インフラ設備にビジネス的な視点などあらゆる要素が必要です。NTTPCコミュニケーションズが運営するAIコラボレーションプログラム「Innovation LAB」を通して、さまざまなコミュニティを活用するなど、幅広い分野と力を合わせて推進していきたいですね。
AI技術を「すごいでしょ」と自慢するつもりはありません。世の中の方々にどれだけ使ってもらえるか、どれだけの利便性を届けられるかという部分に、これからもフォーカスし続けていきたいと思っています。