INTERVIEWインタビュー
【Vol.20】「スマホで漫画」を叶えるAI技術。読み手も描き手もサスティナブルな漫画ビジネスが見据える世界
ガタン、ゴトン。電車に揺られるほんのひと時をワクワクする時間に、隙間時間を学びの場に変える漫画アプリや語学学習アプリ。そんな暮らしを豊かにするサービスを、オリジナルサーバーを基軸とした、データ配信とAIソリューションで支えるベンチャー企業『Link-U』とは。月間利用者数は1,500万人以上、増加していく膨大なデータの蓄積と分析をAIと高性能サーバーで円滑につなげてユーザーに“リンク”。サービスの質を落とすことなく環境負荷を抑える技術力や、世界に誇る漫画文化の発信などについて取締役CTOの山田剛史さんに伺いました。
読みたい、知りたいをかなえるワンストップ型サーバープラットフォームサービス
- 飯野
-
Link-Uの事業について教えてください。
- 山田
-
小学館のオリジナルコンテンツが魅力のマンガアプリ『マンガワン』、集英社のコミックやライトノベル、写真集が楽しめる『ゼブラック』、NHK出版英語学習サービス『ポケット語学』…。出版社だけではなく、経済コンテンツ・アプリ『PIVOT』の共同開発や、地震防災サービス『ゆれしる』など幅広い分野でサービスを展開しています。
クライアントとともにアプリの設計・開発、そして企画・運営を共創し、サービスを自社設計の配信用オリジナルサーバーで運用できるようトータルパッケージでサポートしています。
- 飯野
-
つい見たくなるようなアプリがいっぱいですね。どのような経緯で事業が始まったのでしょうか。
- 山田
-
創業のきっかけは代表取締役の松原裕樹CEOと始めた小さなゲームアプリの開発でした。当時、私が在籍していた東京大学内のラウンジで、仲間と集まってプログラミングをしながらスマートフォン向けのゲームを作っていました。本当に今では恥ずかしいようなシンプルなゲームですけど。少しずつ利益が出るようになり、そこから2013年に起業しようと話がまとまり、学生ベンチャーとしてスタートしました。
当時集まったメンバーは、スーパーコンピューターやパソコンの演算処理などを研究する情報系の人材が多かったことが特徴です。今でもそれはサーバー開発の面などにおいてLink-Uの強みとなっています。
偶然の出会いから生まれたチャンス。AIの力が不可能を可能に変えた
- 飯野
-
漫画アプリ開発のきっかけを教えてください。
- 山田
-
すごく不思議なお話しですが…、小学館が立ち上げたWebコミックサイト「裏サンデー」に“ビジネスパートナー募集”という不思議な案内を見つけ、メンバー内で「面白そうだね」と盛り上がり応募したのがご縁で、今の『マンガワン』が生まれました。すごく小さな入口から大きなところへ導いてもらった気がしますね。
ビジネスパートナーとなってわかったことは、日本の出版社はデジタル化が遅れているように見えていますが、決してそうではなかったということ。我々はスマートフォンアプリを使って、面白いことをしましょうと提案しただけなんです。
漫画の原稿データは、ずいぶん昔からデジタル化されていました。ただ解像度がすごく低かった。この低解像度の画像をAIを使って読み、できるだけ今の高解像度のスマートフォンでもきれいに見えるようにする。これを業界用語で『アップコンバート』と呼んでいます。解像度が低いが故に拡大すると画像がギザギザした状態になってしまうところを、AIが自動で滑らかに補正したり、セリフの部分を読みやすくしてくれたりと活躍しています。保存された原稿の解像度が低いのなら、もう一度今の原稿をスキャニングして読み込めば良いのでは?と思われるかもしれませんが、過去何十年にもわたる膨大な漫画を一つひとつ読み込むのは困難です。AIだからこそ実現できたと言えるでしょう。
Link-Uだからできることを。その先に見えるSDGs
- 飯野
-
強みとされる高い技術力はどのような部分で活かされているのでしょうか
- 山田
-
ハードウェア系のメンバーが集まって創業したことから、ビジネスに合わせて最適なサーバーを組み立てることが可能です。余計なものがないため非常にシンプルに動かすことができる。その結果、サーバーそのものをコンパクトにし、さらには消費電力も抑えることができます。他社さんが運営されているサーバーと比較するというのは難しいのですが、少なくとも5分の1程度には抑えることができていると思います。月間で数百万人に利用されているマンガワンのサーバーでも、一般のご家庭で動かすことができるレベルです。
製作、運用、維持管理におけるサーバーコストの削減とともに、消費電力も抑えることができれば会社にも地球にも優しいですよね。SDGsの観点から見ても、無駄なものを使わないことやエネルギーそのものを大切にしていくことは、これからの社会に必要不可欠な考え方だと思います。
技術の力がもたらす未来。真のサスティナブルな社会実現に向けて
- 飯野
-
Link-Uが取り組むSDGsへの取り組みについても教えてください。
- 山田
-
ハード面ではエネルギー消費を抑えること。ソフト面では、ともにビジネスに取り組む企業とのパートナーシップが上げられます。Link-Uでは「レベニューシェア」と呼ばれる発注者と受注者が、事業で得た利益とリスクを分配する契約方法をとっています。作って終わりという関係性ではなく、その先の運用も含めて共創する仕組みです。だからこそシステムを作る我々も本気になります。
漫画のように長期連載されるコンテンツはクライアントとなる出版社とも長いお付き合いとなることが多くなります。システム面において「現時点でも問題なく動くが、もっと利便性を高められるかもしれない」というような事案が発生した場合には、長期的な視点で、自分たちが納得いくまで改善に取り組んでいます。それが相互に利益をもたらすレベニューシェア型の良い部分ですね。出版社はもちろん、読者の皆さんにとっても本当に使い勝手のいいものを届けたい。それがまわりまわって自分たちの喜びや利益にもつながると信じています。
また、社内での取り組みとなりますが、昨年から和歌山県にオフィスを構えて多様な働き方の提案も進めています。東京から離れていても仕事はできる。選択肢を多く持つことで働きがいと経済成長を叶えたい。和歌山では地元大学や高専向けの出前講座なども行い、ITやDXなどの技術を伝えています。その先に新たなビジネスや雇用が生まれることを願っています。
- 飯野
-
今後の展望について教えてください。
- 山田
-
技術であしたをつくっていく」。経営理念に掲げた通り、技術が未来を作っていくものだと感じています。まだまだデジタル化が進んでいない部分もありますよね。私個人としては、教育分野などに携わってみたいと考えています。
そして何より漫画は日本が世界に誇る一大カルチャー。国内のみならず海外に向けて優れた作品をどんどん伝え、残していきたい。作り手の漫画家さんたちにとってもサスティナブルな社会を実現したいですね。
私も漫画が大好きで、よく読むのはファンタジー系、電車での移動の合間や寝る前などリラックスしたいときに楽しんでいます。不思議なご縁でつながった漫画との関係ですが、今では同じ電車でLink-Uが手掛けたアプリを使って漫画を読んでいる人を見かけると「ふふ、やったぜ!」と心の中でガッツポーズをしています。
今後どんどん優れたコンテンツが生まれていきます。これからも技術で明日を作るお手伝いを続けていきたいですね。