INTERVIEWインタビュー

【Vol.19】テクノロジーの変革はオモチャからやってくる。ディープラーニングで学ぶAIラジコンカーが未来を変える

プログラミングはもう必要ない⁉ 人工知能の可能性を拡げるディープラーニングに注目が集まっている。最新技術を“オモチャ”で学ぶ、AI(人工知能)RCカーキットの制作・販売を手掛けるAI x IoT企業『FaBo』が新たなテクノロジーを身近な存在に変える。RCカーの自律走行から見えるAIと人間との未来の関係性や可能性などについて代表の佐々木陽さんにお話を伺いました。

ノーコードで動くAIラジコンカー。ディープラーニングがAIの世界を変える

飯野

プログラミング不要で動くAI RCカーがあると聞きました。本当ですか?

佐々木

はい、本当です。FaBoが販売するAI RCカーは、ディープラーニング(深層学習)を元に自律走行を可能にしています。ディープラーニングと聞いても、なかなかイメージできませんよね。簡単に言えば、「こうやって動くんだよ」と人が教師役となって教えた走行履歴を元に、AIが学習し、その結果でRCカーが自律走行できるようになるということです。

具体的に「Donkey Car」を例に自律走行までの流れを紹介します。まずは組み立て、この作業はどのRCカーでも同じように作る楽しみがあります。普通のRCカーと違うのは、車体にカメラとRaspberryPiと呼ばれる小さなコンピューターを搭載する点です。

まずは、人間がコントローラーを操作して、コース上のRCカーを走らせます。RCカーは走りながら搭載したカメラでコースの画像を捉え、その画像とその時の人間の操作情報を紐づけます。わかりやすく言えば「この右カーブの時は、このスピード、この角度でハンドルを切った」というようなデータを集めていくわけです。コースを何周か回ることでデータが蓄積され、自動で保存されていきます。

保存したデータを、Googleが開発しオープンソースで公開している機械学習向けのプラットフォーム「Tensorflow」を使って、ディープラーニングで学習します。学習した結果を再びラジコンに戻して起動します。AIラジコンは、カメラで捉えた画像からハンドルの角度や、スピードをコントロールして自律運転を始めます。たくさんの優秀なデータが集まれば集まるほど、AIラジコンの精度は高くなっていきます。これがRCカーをプログラミングで動かすのではなく、ディープラーニングで動かすという発想です。

ワクワクをカタチにするお手伝い。AI教材として最新技術をもっと身近なものに

飯野

プログラミングの知識がなくてもAIでRCカーを動かせるとは驚きです。開発のきっかけなどがあれば教えてください

佐々木

大切なのは実際にやって動かしてみるということ。AI RCカーでは、プログラミングを書いて自動走行させるのではなく、ディープラーニングの学習結果で自動走行させます。この手法はEnd 2 End Learningとも言われ、カメラ画像と制御情報 (ハンドルの角度、速度)、いうなれば入口と出口を直接学習させる事で、RCカーをAIで制御します。AIと聞くとすごく難しいものと思われがちですが、こうして手に触って学べるものだとハードルは下がりますよね。ロボットの自動制御の分野では、将来的にはこのディープラーニングの考え方とプログラムで書かれたアルゴリズムの考え方が融合した領域で、次世代の技術が生まれ世界を大きく変えていくと思っています。

開発のきっかけは、会津大学の学生とともに作ったAIロボット。ディープラーニングの研究の一環で、画像を認識させて自動で止まるロボットを製作した際に、その直感的な動きが何とも生物っぽくて興味がわきました。私と同じくこの面白いAI技術で「何かを作りたい」と思う人向けに、AI教材キットとして届けられればと思い、2015年に設立したFaBoの方で簡易的なロボットキットとして販売を始めました。2018年からは先ほど紹介したDonkey Carのような『ディープラーニングが学べる教材基本セット』をメインに販売しています。本社は今も福島県会津若松市にあります。母校でもある会津大学のすぐそばに事務所を構え、今も学生たちとともにモノづくりに励んでいます。

作ることでわかるAIと人間との関係性。不完全なその姿がAIへの愛に変わる

飯野

起業の原点に、好奇心そして教育への思いを感じました。実際にキットを使った講義などはされているのでしょうか

佐々木

大学・高専の学生や都内の中学生向けに、AI RCカーの講習会や勉強会、企業向けのAI人材教育プログラムを行っています。皆さん最初は『AI』と聞いただけで身構えていましたが、実際にやってみると意外なほど簡単なことに驚きます。数時間もすると自律走行でコースを周回できるようになるのですが…、意外なほどにうまく走らない!ここがポイントだったりします。

AIと聞くと、有能で教えたことを完ぺきにこなすイメージがありますよね。でも、それはあくまでも理想の世界であって、ノイズの多い現実世界においては、なかなか思うようにいかないことが多い。動かしてみると、ちょっとしたことで止まったり、思いもしない方へ走り出したり。どこかどんくさくて人間らしい。「あれ?AIこの程度なの?」と思う人も多い。先ほど「何となく生物っぽい」と例えましたが、その動きには妙な愛らしさを感じます。

実体験することで「AIの作り方がわかり、AIの教師には人間が必要なのだ」とイメージが膨らみます。未来の社会ではAIに仕事を奪われ、ロボットが働く世界が訪れるようなことをよく耳にしますが、今はまだAIの学習方法を人間が一生懸命考えているところです。悲観的になるのではなく、AIで暮らしをどう豊かにできるかを考えていくことが大切だと思います。自分の将来の仕事に、AIはどうやって関わってくるのだろうと実体験をもって考える。これはSDGs(持続可能な開発目標)における働き甲斐や経済成長、技術革新、そして教育など多くの分野に関わってくることだと感じています。

技術革新の大波に乗る。体験こそがイノベーションの源泉となる

飯野

まさにAIと共創する社会ですね。これからFaBoとしてどのような取り組みを通してAIの魅力を伝えていくのでしょうか

佐々木

まだまだ未完全な部分もあるAIですが、画像認識やGTP-3などの言語モデルでは、人間を超越しつつあります。将来的には、総合的な能力を兼ね備え人間を超えるような可能性も秘めています。米半導体大手のNVIDIA(エヌビディア)が開発したJetson Nanoは、GPUを搭載し安価ですが、とても優秀なコンピューターです。このJetson Nanoを搭載したレース向けのAIラジコンカー「JetRacer」は、転移学習で効率的な学習が可能で、学習の方法次第では、人間を超える走りをするかもしれません。実際に、ラジコンの世界チャンピオンとレースをした際には、なかなか良い勝負をしてくれました。ただ、相手が世界チャンピオンともなると走りの技術的な部分では、まだまだAIラジコンはかないませんでした。人とAIが競い合う部分は、エンターテインメント性があって面白い部分ですね。

同じようにディープラーニングによるAI RCカーに熱中しているのが、米シリコンバレーの開発者たち。会津大学の学生たちとともに、シリコンバレーで2週間ほどの合宿を毎年行っていました。その時に、現地の人々がガレージなどに自作のコースを設けて、AI RCカーを走らせている姿に衝撃を受けました。すでに私も自作のAI RCカーを手掛けていた頃で、地味ながら動いてくれている程度でした。ところが、シリコンバレーで見たAI RCカーが、すごいスピードでコースを駆ける姿を見て「これはなんだ!」って。ノウハウを教わり、すぐに日本に戻って、自前でキットを作り始めて今に至っています。

AI RCカーの先には、自動車の自律運転を想像する方も多いと思います。テスラなどはすでに多くの認識をディープラーニングの認識でおこなっています。自動車の自律走行は、ディープラーニングの社会実装の壮大な実験フィールドとなり、今後10年で最も大きな技術革新が期待できる分野だといえます。今まで出来なかったことが技術の進歩、そしてディープラーニングで加速していく時代です。

この先の世界との技術競争において取り残されないためにも、若い頃からAIに触れる機会をどんどん増やしてほしいと思います。この分野をいかに早く開拓できるか。若い人たちはもっとAIで遊び、作る喜びや楽しさを通して成長してほしいですね。

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