INTERVIEWインタビュー

【Vol.1】"ゼロ"からAIをつくる-。
国内でも数少ないプロフェッショナル集団「Archaic」の戦略。

プロジェクトSDGs ×「Innovation LAB」特集企画第1回は、メンバーの約半数が海外人材やPh.D保持者で構成され、フルスクラッチAI開発を強みとするArchaic。フルスクラッチならAIとその他の技術を組み合わせたり、さまざまな領域に導入することができます。フルスクラッチ開発を可能にするArchaicの突出した人材はどのようして集まったのか、またArchaicが予想する未来を担うAIとはどのような姿か。クリエイティブな発想をベースにAI事業を牽引する、株式会社Archaic 代表取締役 横山 淳氏にソトコトNEWSプロデューサーの飯野が話を聞きました。

自己資本でエンジニアが自由にスキルを伸ばせる環境を確保

飯野

Archaicは、どのような事業をされている会社でしょうか?

横山

事業のベースはソリューションの開発です。具体的には、建設業者さん、電子機器メーカーさん、商社さん、独立行政法人さん、医療関係の方々など、多岐にわたる領域のAIシステムを受託開発しています。画像解析、自然言語解析、自動検知やデータサイエンス系などにも幅広く対応しており、技術的に制限を設けていません。受託中心ではあるもの、創造的な仕事も大切にしています。自社AIサービスを開発したりクライアント企業様と共同でAI技術の知的財産化に取り組んだりしています。自社開発では「ソーシャルディスタンスAI」、基盤系の「AI Sensing Maker」とか。姿勢認識や顔検出などAI画像解析技術を利用した、ヒューマントラッキング系の開発をしています。

弊社は4期目ですが、すでに数億円レベルのプロジェクトも成功させていて業績的には順調です。その理由は、ソリューション開発に特化した組織体制にあります。会社の規模は小さいですが、元大学教授であったり、AIベンチャー出身のAIエンジニアであったり、欧州原子核研究機構(CERN)で働いていたエンジニアなどのエッジの効いた人材と、IBMさんやアクセンチュアさんなど大手のITベンダー出身でマネジメントに長けている人材が集まってきていまして、先進的かつ大きなプロジェクトにも対応できるロバストな体制になっています。

飯野

横山さんが旗揚げされたArchaicさんは、国際色豊かなメンバーの集まりですね。そういったメンバーを集めるにあたって、大事にしている思いはありますか?

横山

募集のためにローテクのネット掲示板に、熱く「AIベンチャーを立ち上げる」と書き込んだ以外、特殊なことは何もしていません。たまたまその書き込みを見た創業メンバーが応募してくれました。エンジニアが求めているのは年収や待遇よりも、自分のスキルを伸ばせる環境です。自分より優秀な人がたくさん働いている環境に行きたいと。幸いにも、創業時に集まった優秀な人たちが、磁石のような役割を果たしていると考えています。弊社の大きな特徴として、外部から資本を入れていません。そのため、自分たちで稼いだお金は好きなように投資できるのです。例えば、次世代のAIシステムやサービスの開発・研究や給料も含めてですね。スキルを自由に伸ばす環境が整っているので、柔軟な発想でクリエイティブな世界を作りたい人たちが来てくれていると感じています。やはり、外部の人たちとうまく連携するためのスキーム作りが大切ですね。自己資本で回すためには、エンジニア以外の方たちの協力が必要ですから。クライアントとのミートポイントづくりなど、営業を手伝ってくれている方たちの働きは大きいですね。

アルゴリズム理論からハードウェアまでフルスクラッチのAI開発

飯野

仕事も知的財産も作りながら、クリエイティブな世界を作っていくと。そういったビジョンの実現に向けて、新たにこれから挑戦することはありますか?

横山

未来のビジョンをお話しすると、AIは1個作るだけでも大変なので仕方がない面はありますが、どうしても一面的なAIが多いのが実情です。AIの世界は1〜2個のファンクションで、もっぱら単体的に動いています。ツールとしてAIを使う場合には、それで十分なのかもしれません。しかし、今の日本の社会にAI自体がもっと有機的に深く関わるためには、AI同士が協調的に動いていく仕組みを作る必要があると考えています。足元の話をすると、自社のサービスを作って自分たちのコアをしっかり形成したいですね。自社の特許をコアにしつつ、AI同士が協調的に動くようなものを作り上げたいと思います。

飯野

内閣府がSociety 5.0を掲げているので、業界を超えた情報の連携をAIが担うなど、AIは今後さらに役立つでしょうね。今までArchaicさんがやってきたクライアントとの取り組み、SDGs関連で今の働き方改革など、その辺りの事例を教えてくださいませんでしょうか?

横山

SDGs関連の取り組みといえば人々の健康という観点から、熱中症になってしまわないか検出・予測するAIや、AIによる歯科医療の診断などの医療支援があります。ヘルメット内に搭載されたセンサーで作業者の方の体温とか脈拍とかをセンシングすることで、熱中症になることが事前に分かると。熱中症の兆候が見られたら作業の負荷を減らしたり、早めに休憩に入ったり、バックアップ要員を用意するなり対策を打てますよね。また口の周りのX線写真から、歯式チャートを自動でAIが作れるように開発しました。そうするとAIによる歯科医療の診断ができるようになります。この歯科医療支援AIが導入されると、歯医者さんが不足している地域や国でも歯の状況を改善できるようになると考えています。

飯野

Archaicさんにはクリエイティブで優秀な、世界的なコンペティションで活躍しているメンバーがいらっしゃいます。どちらかというとAI画像解析だけでなく、それ以前のデータの取り方から全てフルスクラッチで作り上げていますよね。フルスクラッチAIを手がける会社さんはそんなに多くないと思うのですが、実際はどのような感じでしょうか?

横山

某記事で一からAIのアルゴリズムを開発できるのは10社に満たないと書かれているのを目にしましたが、さすがに10社ということはないと思います。しかし、少ないことには間違いありません。AIを手がける企業さんにお会いしましたが、ゼロから書く、つまりアルゴリズムの理論に手を入れる会社は限られています。AIのシステムは、実はAIの部分だけ精度が良くても、精度は上がり切らない。精度は、システム全体で上がるのです。そこで弊社はハードウェアも手がけています。弊社のように、AI自体のフルスクラッチと、ハードウェアも含めてゼロからやるっていう企業は少ないとは思いますね。

AIはもちろん複合技術を活かし社会課題の解決を目指す

飯野

今、Innovation LABさんとも取り組みをされていますよね。カメラ、ソーシャルディスタンスAIやAI画像解析技術など、Archaicさんがどのようなことを手がけているか教えていただけますか?

横山

ソーシャルディスタンスAIは、感染率を下げるために密やクラスターの発生を予防する仕組みです。可視光の単眼カメラから人同士の距離および密度を検出して、それらがしきい値以上になったらアラームが上がるようになっています。名称は未定なのですが、NTTPCさんとは「スマートカメラ」的な技術を開発しています。人の検出・追跡、顔の認識・検出、姿勢の検出ができるというものです。このスマートカメラがあれば、いつどこで誰が何をしているのか分かるので、工場内・オフィス内でログ的に活用できます。もっと身近な例だと、マンションのセキュリティー向上や出入り業者の作業管理にも利用する方向で検討中です。転倒やうずくまりの早期発見が可能になるので、AI画像解析技術が社会の見守り役にもなるかもしれません。

飯野

今後はソーシャルディスタンスAIなどにとどまらず、どのような分野に注目されていますか?

横山

海外案件の商談が増えてきているので、もともと海外志向ということもあって今後は積極的に取り組みたいと考えています。興味のある分野は、需要予測ですね。確実に発展していく分野ですから、Innovation LABさんとの連携を活かしたりしながら取り組んでみたいと思います。様々なデータを使うという点で需要予測は総力戦になるので、他社の斜め上を行くものを作りたいです。例えば弊社が持つカメラ技術とミックスさせて、来店客の様子を検出するとかですね。家族連れがどのくらいで、1人で来ている人がどのくらいかを把握して、その情報を需要予測と紐づけるとか、興味がありますね。AI同士が強調して機能していく自律的なシステムは次世代のAIとして求められると思います。そのような未来的な技術に、ぜひチャレンジしたいと思います。AI同士が協働して複数のファンクションを作っていったほうが、相乗効果が出てきますから。AIが端的に動くよりも、複数のほうが精度などの恩恵を加速度的に得られるので、その点を狙っていきたいですね。

飯野

やはり社会課題を解決するためには、さまざまな技術が複合しないと解決できないんでしょうね。

横山

そうですね。価値のある技術分野ということで、弊社はAIをメインに打ち出していますが、社会課題を解決するのにAIがすべてだとは思っていないです。カメラなどその周りの技術もとても重要だと考えています。Archaicは、ワンストップで社会課題を解決する会社だととらえてもらえれば嬉しいです。

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