INTERVIEWインタビュー

【Vol.13】ゼロからのAIプログラミング学習で、目まぐるしい変化にも対応できる人材を輩出したい。若き経営者が見据える、これからの組織のあり方とは。

「Forbes 30 Under 30 Asia 」に選出された株式会社アイデミー代表取締役執行役員 社長CEO 石川聡彦氏。2019年「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」に続き2度目の選出となりました。
環境構築不要で学べるオンラインAI学習サービス「Aidemy(アイデミー)」はローンチして3年余りで、累計導入法人250社、累計登録ユーザー数10万人を超えるサービスへと成長。
「先端技術を、経済実装する。」のミッションのもと、未来に向け日本のDX人材を増やし海外企業と戦うための土壌を作っていくため、事業開発を推進する石川氏に話を聞きました。

ゼロからAIを学べるプログラミング学習サービスが生まれた理由

飯野

アイデミーさん創業の経緯を教えてくださいますか?

石川

2014年、僕が大学3年生の時に今の前身となる会社を立ち上げました。そのころは、丁度ガラケーからスマートフォンへの転換期。東日本大震災によってLINEが一気に普及し、Facebookも流行していました。
デジタル機器や技術のパラダイムシフトが驚くほど早いと感じて、自分でも挑戦してみようと起業しました。当初は、弁当のデリバリーやポイントカードアプリの作成など、様々なことをしていましたが、なかなか軌道に乗りませんでした。
そこで、大学に復学。配属された研究室は、水道などのインフラを研究していたところでした。水処理工程の一部を、AIや機械学習の技術を使って最適化しようという研究テーマが割り当てられました。
職人の勘やノウハウで行われていた部分を、データによって方程式化しようとしたんです。インフラの分野で「AIや機械学習によって多大なデータが出るんだ」ということが分かり、面白かったですね。
一方で、自分の研究室にいた他の人たちは物理や化学の専門家ばかりで、情報工学に精通した人がいなかったんです。当時は、分かりやすい情報工学の解説書などもなかったため、学ぶのに非常に苦労しました。
AIによって自動車や素材開発が変わり、医療や様々な場面でもAI技術が転用されるだろうと言われていたので、すべての科学者が自分と同じように苦しむことになるのではないか?と思ったことが、今の事業のきっかけになりました。
2017年にアイデミーを立ち上げ、AIや機械学習、デジタル分野に特化したオンライン学習サービスなどを始めたんです。

飯野

社名の由来はどのようなものでしたか?

石川

AIとAcademyを足して「Aidemy」という社名にしました。AIという技術を分かりやすく、1歩目を踏み出せるサービスにしたいという思いからです。
「先端技術を、経済実装する。」というミッションは、2020年に一新。AIや機械学習関連技術から始めたのですが、事業を展開する中で、AIは、あくまでツールだということに気づいたんです。
AIは使うことが目的ではなく、業務課題や目指したいビジョンの姿、あるべき技術の形などを描いた上で、その実現や解決のための強力なツールなんだと。
僕たちが本当にやりたいことは、「先端技術をいち早く社会に使ってもらうこと」。そんな思いを社名に込めています。

飯野

コロナ禍によってどこの会社もDXを進めていますが、日本は圧倒的にDXの技術者数が不足していると聞きますね。現在のサービスは個人向けに展開しているんですか?

石川

個人向けのサービスと法人向けのサービスがあります。個人向けのサービスは、3か月間にわたりAIやプログラミングについてオンラインで学ぶ短期集中型のブートキャンプです。デジタルやAIに精通したい人向けのものですね。3か月50万円と高額ですが、社会人の方であれば最大で70%、国から補助が適用できる場合があります。

法人向けのサービスは、「Aidemy Business」。社内の組織力を高めることが可能です。DXとは、システムやデジタル技術を社内に取り込む割合が増えていくことだと思うんです。そのためには、社内のデジタルリテラシーを高める必要があります。

SDGsの「質の高い教育をみんなに」という目標は、貧困な地域に限ったものではなく、自分の能力を学び直すという、リスキルも含まれているんですね。DXや、それに付随するデジタル技術を改めて身に付けるべきではないかと僕たちは考えています。

増えるAI活用、組織の中における「解像度の高い議論」に必要なものは。

飯野

環境構築不要で学べるプログラミング学習サービスということですが、プログラミング知識がゼロの人でも学べるんですか?

石川

はい、そういった方も多いですよ。

飯野

累計導入社数が250を超え、登録ユーザー数も累計10万人を超えているそうですが、相当ニーズが高まってきているんじゃないかと感じるんですが、実際利用者の声からどのような変化を感じますか?

石川

法人・企業からは、社内におけるコミュニケーションがかなり取りやすくなったという声がありますね。以前に比べ、具体的な解像度の高い企画を語れるようになったと。
例えば「AIを使おう」というディスカッションにおいて「具体的に明日からどのような手を打つか」となると、誰ひとり語れないなんてことも少なくありません。
「まずデータを得るためにこういうプロトタイプを作って、こういう売り出しをしましょう」とか、「将来的にはこういう収益化モデルにしましょう」などと、解像度の高い企画を議論できるようになったという声が非常に多いです。

飯野

実際にどのような業種・業界の企業が導入されてますか?

石川

業種・業界は本当に様々で幅広いですね。特に多いのは自動車部品系や機械系、あとは化学素材系や製薬系ですね。

サービスをローンチした当初は、研究開発部門のお客さまが多かったですが、ここ2年でDXが推進されるようになり、部門だけではなく全社で使っていこう、という機運が高まりつつあります。
将来的には、管理職研修や新卒研修に組み込むという形に変わってくると思います。デジタル技術は、もの凄く強力なツールですから、そこに触れずに社会人として生活しているのは非常にもったいないと感じます。

飯野

業務改革や効率化が急がれている時代ですからね。現在人気の技術などはありますか?

石川

全体でみると、企画職向けの教材が人気です。どういう技術企画を立てたら良いのか、どういう課題に画像認識が適切に役立つのか、機械学習と統計を課題ごとに使い分けるなど、こういったケースごとの学習も織り交ぜながら実際に企画を作っていく教材などです。
技術職向けの教育コンテンツの中では、機械学習技術の中で、画像認識、自然言語処理、時系列解析が特に人気がありますね。

飯野

他のAI学習のプログラミングサービスとAidemyとの1番の違いとは何でしょう?

石川

コンテンツの質と量には自信がありますね。AI、DXのテーマにおいて180以上のコースがあります。ベストセラー作家の方々が我々Aidemyの講師になってくださっているものも多く、分かりやすいという声を頂戴してます。
2つ目がサポートの部分ですね。良い教科書があっても、読まないと意味がないわけですよね。ノウハウや他社での活用事例を蓄積しているので、管理者の方に向けてしっかり知識共有させてもらっています。

失敗を恐れずに挑戦することで事業が加速する

飯野

最近、ロゴマークを刷新されたそうですね。

石川

アイデミー立ち上げの際に作ったロゴは、脳をイメージした幾何学的模様に加えて、教育を模した木を組み合わせたデザインでした。木がすくすく育って実を実らせ、その実を繋げるのにニューロンをモチーフとして用いていました。
刷新したのは、先ほどもお話ししたようにAIが主役ではなく、AIも教育も一つのツールであるという認識に変わり、「教育」をモチーフにしたロゴは今の実態と合っていないという議論が社内でされたんです。そこでロゴのデザインを一新しました。

飯野

学生時代に起業されてから様々な困難や失敗があったと思うんですが、どのような失敗があり、どうやってそれらを改善していきましたか?

石川

沢山の悩みや苦労は当時からありましたし、今でも尽きませんね。
私は、失敗には3種類あると考えています。1つは取り返しのつかない失敗。2つ目はなんだかんだ取り返しのつく失敗。3つ目はやらなかったことを後悔するような失敗です。
3つの分類で考えた時、取り返しのつく失敗はどんどんやっていこうと決めました。逆に、取り返しのつかない様な大きい失敗は必ず回避しようと思っています。
起業してからを振り返ると、「取り返しのつく小さな失敗」を繰り返してきたなと思います。
2017年のサービスローンチ当時で言うと、当初は完全無料のサービスで売り出していました。なぜかというと課金機能を付けると、リリースが3か月遅くなりそうだったから。
課金機能が無いのは問題じゃないかと、社内外で議論があったんですが、リリースの早さを優先しました。リリースしてから課金機能を実装し、有料版のサービスも開始したんです。

飯野

ミッションとバリューについては特にこだわっているように感じます。

石川

ミッションやバリューは、我々がアイデミーでチームとして働く上で、共通言語や目指す部分になると思うんです。今のミッションは、「先端技術を、経済実装する。」という短いフレーズにしました。
バリューについても、皆で理想の働き方について自由にディスカッションしたり、ミッションを達成するためのバリューとは何かと考え、3つに絞りました。これらのバリューやミッションは、毎週の会議の冒頭や、取締役員会議でも毎回語っています。
ほとんどの会社には、ミッション・ビジョン・バリューの3要素があると思うんですが、我々は覚えやすさを重視して、あえてビジョンをカットしました。
社員だけでなく、ステークホルダーに向けても、繰り返し伝えて浸透させていきたいと感じています。

デジタル人材を増やすことで、海外企業と対峙するための下支えをしたい

飯野

日本はデジタル人材の確保や技術はまだまだ他国と比べると発達していないように感じますが、実際にいかがですか?

石川

AIやコンピューターサイエンスの技術や研究においては、基礎研究の領域と応用領域に分けることができます。基礎研究は、新しいアルゴリズムを生み出す分野で、応用研究はそのアルゴリズムを様々な局面に応用する分野ですね。
特に基礎研究はアメリカや中国、カナダなどが凄く強くて覇権を握っている印象がありますが、応用研究については日本もまだまだ負けていないと思いますし、今後の可能性は大きいなと考えています。

障壁は、大きく3つほどありますね。1つはとっつきにくさの壁。プログラミングもAIもリアルな物が無い分だけ、肌触り感が薄くとっつきにくいイメージを持たれている方が多いです。また、プログラミングを始めようとすると環境構築やインストール作業が複雑で、トラブルの原因の1つなんですよね。
2つ目は会社の中で実行する上で、理解者が非常に少ないという点ですね。役員レベルの方になると共感してもらえることは多いんですが、中間管理職の部課長クラスには、「デジタル技術より目の前の課題に触れようよ」という方もまだまだ多いです。
周りにいるメンバーの意識がデジタルから縁遠いと、自然と自分の意識もデジタルから縁遠くなってしまうので、環境によって自分の可能性を無駄にしてしまうという障壁があると思っています。
3つ目はビジネスモデルに応用するという部分の壁ですね。デジタル技術とビジネスモデルって、大きく紐づくと思うんです。例えば、テスラなどの電気自動車。毎月アップデートがされて、どんどん車の乗り心地が良くなっていく、まるでスマートフォンのようにアップデートをしています。そうすると、エンドユーザーからすると「アップデートに期待して買ってみるか」となるわけですよね。
お客さまの購買行動が、ソフトウェアのアップデートによって変わるということは、デジタル技術が、ビジネスモデルにもなりえると思うんですよね。

ただ、そこまで大きな企画を描けているケースは非常に少ないんです。
AIを業務効率化や業務改革に活用することは大事ですが、野球で言うと確実にバントを狙うものですよね。しかしホームランを狙ってしっかり振りかぶっていく様な企画やチャレンジも、やはり必要だと思うんですよ。

飯野

アイデミーさんは未来についてどのようにお考えでしょうか?

石川

ここ5年の変化は凄まじく、ワークスタイルもビジネスモデルも変わってきています。デジタル技術を中心として世の中が変化するスピードって、明らかに速まっていると思うんです。変化に取り残されないためにも、組織の形や、組織を構成するメンバー1人1人の考え方、仕事に対するモチベーションやスキルなどを、毎年アップデートしていく必要があると考えています。
これからデジタル技術も、SDGsにおけるトレンドや考え方も、数年単位で大きく変わると思うんですよ。我々は、SDGsも含めた、地球環境の変化やデジタル技術の変化に対応するような組織を作るというところに今後もフォーカスしていきたいなと思っています。

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