【GPU×研究】「動かない」を「動かす」NVIDIA RTX PRO 6000 ~時系列基盤モデルのファインチューニングが切り拓く生態学研究~
京都大学さま
京都大学 大学院情報学研究科
生物圏情報学講座/土居 秀幸 教授
お客さまの課題
- 研究室で扱うモデルが機械学習・ディープラーニングから基盤モデルへと大規模化し、高性能GPUでの処理が不可欠に
- 近年公開された時系列基盤モデル「Chronos-T5」「Lag-Llama」を生態系動態の予測に応用する研究が進展
- 大学共用GPUサーバーやクラウドサービスはタイムアウト制限があり、終了時期の読めない試行錯誤型のファインチューニング検証での利用に課題
- 生態学データに合わせて基盤モデルを最適化するファインチューニングを行うには、48GB以上、理想的には96GB以上の大容量GPUメモリを備えた自前環境が必要
導入の効果
- 96GBの大容量GPUメモリにより、これまで不可能だった大規模時系列基盤モデルのファインチューニングが実行可能に
- 外部のクラウドや共用サーバーに依存しないため、タイムアウト制限に縛られず、終了時期の読めない試行錯誤型の学習実験を、腰を据えて継続できる環境に
- 湖沼の環境データを用いた比較検証で、時系列基盤モデルが従来の機械学習・統計手法と比較して良好な精度を示し、生態学への新たな解析アプローチを試せる土台が整う
京都大学大学院 情報学研究科 生物圏情報学講座の土居 秀幸教授の研究室では、衛星データや世界規模の生物分布データベース、遺伝子データなど、1990年代から劇的に増加してきた生態学ビッグデータを駆使した研究が展開されている。気候変動と生物季節(フェノロジー※1)の関係、生物多様性の保全優先地域の選定、ネイチャーポジティブの評価——いずれも地球規模の課題と密接に関わるテーマだ。
その解析を支える新たな武器として、土居教授が2024年から研究に取り入れ始めたのが「時系列基盤モデル(Time Series Foundation Model)※2」である。Chronos-T5※3やLag-Llama※4といった新世代モデルが時系列データの解析手法に大きな変化をもたらしつつあるが、これを生態学に持ち込むには、新たな計算資源が必要だった。
2025年、研究室はNVIDIA RTX PRO™ 6000 Blackwell Max-Q Workstation Edition※5(以下、RTX PRO 6000)搭載サーバーを導入。96GBの大容量GPUメモリ(VRAM)を得たことで、これまで「動かなかった」研究が「動き出した」。
本インタビューでは、研究室の取り組みから、時系列基盤モデルとの出会いと「モデルが動かせない」という壁、GPU導入による解決、NTTPCを選んだ理由、そして2030年に向けた展望までを伺った。
※1 フェノロジー:桜の開花時期や鳥の鳴き始めの時期といった、生物の周期的な現象のこと。
※2 時系列基盤モデル(Time Series Foundation Model):時系列データの予測に特化した基盤モデル。LLMが言語の並びを学習するように、数値の時系列パターンを大規模に学習する。
※3 Chronos-T5:Amazonが2024年3月に公開した時系列基盤モデル。
※4 Lag-Llama:2023年10月に公開されたLLaMAベースの時系列基盤モデル。
※5 NVIDIA RTX PRO™ 6000 Blackwell Max-Q Workstation Edition:今回導入されたGPU。96GBの大量メモリを備え、基盤モデルのファインチューニングに必要な計算資源を提供する。

NVIDIA RTX PRO 6000 Blackwell Max-Q Workstation Edition イメージ(引用:NVIDIA)
関連記事:RTX PRO 6000 Blackwell Max-Q導入ガイド:他エディションとの違いとマルチGPU構成の選定基準
「速くなった・遅くなったという話ではありません。これまで"動かなかった"ものが"動いた"——研究としては、これが決定的な違いです」
——そう語るのは、京都大学大学院情報学研究科の土居教授だ。
「決め手はメモリ容量です。今回のRTX PRO 6000で96GBのGPUメモリを確保できたことで、これまでサイズ的に動かせなかったファインチューニングを、最後まで安定して走らせられる環境がようやく整いました。」
土居教授の研究室では、これまでランダムフォレスト※6やLSTM※7といった機械学習・ディープラーニング手法を活用しながら、生態系データ解析を進めてきた。2024年に登場した時系列基盤モデルについても早期から研究に取り入れ、その可能性を検証していた。一方で、基盤モデル特有の大規模計算が求められるようになり、従来のGPU環境では高精度なファインチューニングを行うための計算資源の確保が新たな課題となっていた。
※6 ランダムフォレスト:複数の決定木を組み合わせて予測を行う機械学習手法。分類や回帰タスクに広く用いられる。
※7 LSTM:Long Short-Term Memoryの略。長期的な依存関係を学習しやすい構造を持つリカレントニューラルネットワーク(RNN)の一種。時系列データや自然言語処理などに用いられる。
【研究室について】統計モデリングから基盤モデルへ——進化を続ける生態学研究
土居教授の研究室では、対象とする課題やデータ特性に応じて、機械学習・ディープラーニングから基盤モデルまで、多様な解析手法を研究に取り入れてきた。研究テーマは、衛星データを用いた地球規模の生態系解析、気候変動と生物季節の関係解明、生物多様性の保全優先地域の選定など、多岐にわたる。
「衛星観測データ、生物の分布データ、行動データ、遺伝子データベースなど、大規模データを活用した生態学研究を進めています。これらのデータは1990年代以降に飛躍的に拡充してきており、その活用によって、従来は困難であった地球規模の解析が可能になりつつあります。」
その代表的な研究テーマの一つが、気候変動と生物季節(フェノロジー)である。
「生物季節とは、例えば桜の開花時期や鳥の鳴き始めの時期といった、生物の周期的な現象を指します。東京の開花発表では、靖国神社の標本木の開花が基準になりますね。こうした生物季節データを解析することで、気候変動が生態系にどのような影響を及ぼしているかを定量的に明らかにすることができます。」
もう一つの柱として、世界規模の生物分布データベース「GBIF※8」を活用した保全優先地域の選定にも取り組んでいる。
「例えばカクレクマノミは、よく知られているようにイソギンチャクと共生関係にあります。両種の分布データを組み合わせて解析することで、どの地域を保全すれば両種を効果的に守れるかを科学的に示すことができます。沿岸域のシミュレーションを通じて保全優先地域を可視化し、地域に対して情報提供する取り組みを進めています。」
※8 GBIF(Global Biodiversity Information Facility):地球規模生物多様性情報機構。世界各国の政府機関などによって運営される国際的なネットワークで、生物多様性に関する観測データや分布データをオープンアクセスで提供している。
【導入の背景】時系列基盤モデルとの出会い、そして「動かない」という壁
多様な研究テーマを進める中で、今回のGPU導入の背景にあったのが、時系列基盤モデルを用いた生態系動態予測の研究だ。Chronos-T5やLag-Llamaといった、近年公開された最先端モデルを生態学に応用する取り組みである。しかし、その活用には計算資源面での大きな課題があった。
「時系列基盤モデルは、ChatGPTなどのLLMで用いられている技術を、時系列データに応用したものです。LLMが語順や文法を学習するのと同様に、時系列基盤モデルは数値の並び——例えば株価の上下や生物の個体数の増減といった変動パターン——を学習します。」

時系列基盤モデルChronosの仕組み:数値の時系列を、LLMが扱う"言葉のトークン列"のように扱うアプローチ(引用:Ansari et al., “Chronos: Learning the Language of Time Series,” arXiv:2403.07815, 2024.)
LLMで「This is a pen」と入力すれば文法と語順から次の単語を予測できるように、時系列基盤モデルは数値の時系列パターンから次に来る変動を予測する。代表モデルのChronos-T5は2024年3月、Lag-Llamaは2023年10月の公開だが、土居教授はその登場から数ヶ月後には研究への適用を始めていた。
「論文を読んだ段階で、これはすぐに研究へ取り入れたいと考えました。ただ、実際に手元のGPU環境で試してみると、現実的には動かしきれないことが早い段階で分かりました。」
研究室にあったのは、NVIDIA GeForce RTX™ 4090(メモリ容量:24GB)をはじめとする主にコンシューマー向けのGPU環境だった。従来の機械学習やディープラーニング用途では十分な性能を備えていたものの、基盤モデルのファインチューニングでは、モデルそのものに加え、勾配情報や中間データの保持にも大量のGPUメモリが必要となる。そのため、既存環境ではメモリ容量が大きく不足していたという。
「少なくとも48GB、できれば96GB以上のGPUメモリが必要だと判断しました。それだけの計算資源がなければ、基盤モデルのファインチューニングを安定して実行することが難しかったです。大学の共用GPUサーバーや外部クラウドの利用も検討しましたが、タイムアウト制限があるため、長時間連続で実行する実験には適していませんでした。ファインチューニングは終了時間を事前に見積もりづらく、途中経過も把握しにくいため、継続的に実行可能な専用環境が必要でした。」
【導入がもたらす価値】NVIDIA RTX PRO 6000が切り拓いた研究の新ステージ
こうした状況を打開するために、土居教授が新たに導入したのがRTX PRO 6000搭載サーバーである。96GBの大容量メモリを備えたことで、これまで実行できなかったファインチューニングが、研究室内で動かせるようになった。

「これまで使用していたGPUは24GBでしたから、容量が4倍に拡張されました。これにより、従来は実行不可能であったファインチューニングが実行可能になったわけです。」
土居教授が強調するのは、「速度が何倍になった」ではなく、「できなかったことができるようになった」という点である。
湖沼データを用いた検証——従来手法と比較して良好な結果
これまで時系列データの解析には、ARIMA※9やSARIMA※10といった統計モデル、XGBoost※11やランダムフォレストといった機械学習手法が主流だった。これらは対象ごとにモデルを一から組み立てる発想である。一方、Chronos-T5のような時系列基盤モデルは、事前学習で獲得した汎用的な"数値変動の感覚"を土台に、研究領域のデータで追加学習(ファインチューニング)することで、対象に最適化されたモデルを効率よく構築できる。
土居教授が一例として示したのが、湖沼の環境データを用いた比較検証である。Chronos-T5を従来の統計モデルや機械学習手法と比較した実験だ。
「比較実験の結果、時系列基盤モデルは従来手法と比較して、ほぼトップ水準の精度を示しました。データセットによって多少の差はありますが、総じて良好な結果が得られています。さらに、対象データでファインチューニングを施した場合と、ゼロショット(追加学習なしで事前学習済みモデルをそのまま適用する場合)を比較したところ、ファインチューニングを行ったほうが変動の特徴をより良く捉えられる傾向が見られました。環境データの知見をモデルに学習させることで、予測精度が明確に向上する可能性があります。」
※9 ARIMA:AutoRegressive Integrated Moving Averageの略。自己回帰、差分、移動平均を組み合わせた時系列分析モデル。トレンドを含む時系列データの予測などに用いられる。
※10 SARIMA:Seasonal ARIMAの略。ARIMAに季節性、つまり一定周期で繰り返されるパターンを組み込んだ時系列分析モデル。月次・四半期データなど、周期性を持つ時系列の予測に用いられる。
※11 XGBoost:eXtreme Gradient Boostingの略。勾配ブースティング決定木を効率的に実装した機械学習手法・ライブラリ。高い予測精度を得やすく、分類や回帰などに広く用いられる。
オンプレミス環境が支える試行錯誤型研究
時系列基盤モデルの研究を進める中で、土居教授はオンプレミス中心のGPU環境を整備してきた。その背景について伺った。
「モデルやデータによって必要な時間は大きく変わるため、実際に動かしてみないと判断できません。その意味でも、自前で計算環境を持っているほうが圧倒的に進めやすいですね。」
土居教授がこうした「いつ終わるか分からない」試行錯誤型研究に踏み込めた背景には、研究室がこの数年で進めてきたオンプレミス環境の整備がある。
「以前はクラウドベースで計算しており、オンプレは持たないほうがすっきりしていいと考えていました。しかし、実際にオンプレ環境を構築してみると、オンプレの方が運用面で圧倒的に楽だと実感しました。」
クラウドや共用サーバーは便利な一方、毎回の環境構築・コンパイルに時間を取られる。
「クラウドやスパコンを利用する場合、毎回環境構築やコンパイルから始める必要があります。これがかなりの負担です。オンプレならJupyter Notebook※12やRStudio Server※13を立ち上げてそのまま利用でき、ファイルサーバー上のデータをワークステーションで処理し続けられます。」
今回導入したGPUサーバーは、こうしたオンプレ運用基盤の上に組み込まれることで、ファインチューニングという終了時期の読めない研究にも腰を据えて取り組める環境が整った。
※12 Jupyter Notebook:ブラウザ上でPythonなどのコードを対話的に実行・可視化できる開発環境。
※13 RStudio Server:統計解析言語Rの統合開発環境RStudioをサーバー上で動かし、ブラウザから利用できるようにしたもの。

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【NTTPCを選んだ理由】見積もりシミュレーターと価格優位性
土居教授がNTTPCでGPUサーバーを購入するきっかけとなったのが、NTTPCのWebサイトで提供されている見積もりシミュレーターだった。
NTTPCの見積もりシミュレーター※14:構成選択から概算見積もりまでをオンラインで迅速に提案(引用:NTTPC)
「NTTPCを知ったきっかけは、Webサイトの見積もりシミュレーターでした。構成項目を選んでいくうちに概算がイメージでき、『この水準なら一度頼んでみよう』と判断できました。価格が事前に把握できるかどうかで、検討のハードルは大きく変わりますから。」
こうした価格の見通しは、大学の研究室にとってはとりわけ重い意味を持つ。
「数百万円規模の予算で導入を検討する研究者にとって、こうした仕組みは非常に重要です。億単位のスパコン導入であれば入札や随意契約となりますが、我々のように限られた予算で選定する立場では、自ら情報を探しに行く形になります。概算が把握できるからこそ、見積もりを依頼してみようという判断に至りました。また、NTTPCは費用やサポートの面でも有意でした。」
こうして、必要要件の整理、共用環境・クラウドとの比較、オンプレミスでの構成検討、概算確認、見積もり依頼というステップで導入判断を行った。研究用途に応じて必要なスペックと予算感を先に整理し、そのうえで概算を把握しながら具体化できることは、導入判断を前に進めるうえで大きな助けになる。
※14 GPUサーバー見積もりシミュレーターについて、シミュレーション金額は概算価格です。現在、ワールドワイドで部材が枯渇しており、短期間で価格・構成が大きく変動する可能性がございます。詳しくは営業担当より正式見積を提示しますので、お問い合わせください。
NVIDIA Blackwell登場とGPUサーバー購入用の別予算確保
NTTPCの選定と並んで、土居教授の決断を大きく後押ししたのが、新世代GPUアーキテクチャ「Blackwell」の登場と、GPUサーバー購入用の別予算を確保できたことだった。
「元々はRTX PROの前世代モデルやNVIDIA L40Sを購入する想定でいました。ただ、Blackwellという新アーキテクチャが登場するという情報を得ていたため、その発表を待つ判断をしました。」
GPUサーバーは高性能である一方、通常予算だけで導入費用をまかなうことが難しいケースもある。土居教授の場合も、全額を既存の予算内で捻出するのは容易ではなかったという。そこで導入の後押しとなったのが、GPUサーバー購入用として確保できた別枠の予算だった。
「予算面では、GPUサーバー購入用の別予算枠を確保できました。これがなければ全額の捻出は厳しく、資金が足りなかったと思います。導入タイミングとしても非常に良い時期でした。」
このように、GPUサーバーの導入では、製品の性能や提供事業者の選定だけでなく、導入に向けた予算確保も重要なポイントとなる。特に研究用途では、通常予算に加えて、設備導入や研究環境整備を目的とした別枠予算を活用できる場合があり、それが高性能GPUサーバー導入の現実的な選択肢を広げることにつながる。
新製品Blackwellの登場、予算確保、研究室のオンプレ環境整備——複数の条件が同時期に揃ったことが、結果として最適なタイミングでの導入につながった。
【今後の展開】ネイチャーポジティブと地球規模のモデル構築への貢献
最後に、土居教授が今後見据える研究の方向性について伺った。大きなテーマの一つとして挙げられたのが、「ネイチャーポジティブ」への貢献だ。
「現在、ネイチャーポジティブ拠点という取り組みを進めています。2030年までに自然のゼロネットロス——生物多様性の損失を止め、回復軌道へ転じる——という国際目標があり、その達成に向けて、ネイチャーポジティブをどう評価するかが大きな論点となっています。予測モデルや分布モデルを用いて、生物多様性がどの程度回復したかを評価していきます。現在は検証フェーズとして国内データを用いていますが、本来目指しているのは、グローバル規模でのモデル構築です。地球規模のデータを学習させた時系列基盤モデルを構築できれば、生態系の予測や保全政策の提言にもつながると考えています。」

生態系を地球規模で理解し、予測する研究は、いまなお多くの挑戦が残された領域だ。土居教授の研究室では、膨大なデータと向き合いながら、生態系変動を読み解く研究が続けられている。地球規模での生態系解析や生物多様性評価に向けたこうした取り組みは、未来の生物多様性保全を考えるうえでも重要な一歩となっていくだろう。

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※NVIDIA、NVIDIA RTX PROは、米国およびその他の国におけるNVIDIA Corporationの商標または登録商標です。
※本記事は2026年6月時点の情報に基づいています。製品・サービスに関わる情報等は予告なく変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。メーカーが公表している最新の情報が優先されます。
