GPUサーバーオンプレミス導入で加速するクリエイティブ×機械学習の創作支援機能研究|ペイントアプリ「CLIP STUDIO PAINT」を手がけるセルシスの挑戦
株式会社セルシスさま



お客さまの課題
- ペイントアプリ「CLIP STUDIO PAINT」などの開発においては、日々の研究開発が欠かせず、特に機械学習を活用した領域では計算資源が大きな制約となっていた。
- 学習モデルの大規模化により従来環境では一度の学習に100日~200日という非現実的な期間を要していた。
- 研究に携わるエンジニアが制約を受けずにトライアンドエラーを繰り返せるようにするためには、高速のGPUを安定的に専有利用できる環境整備が不可欠であった。

導入の効果
- 新たなGPU搭載サーバーの導入により、従来は計算時間の壁から実現できなかった研究が可能となり、新たな研究開発の土台を築くことができた。
- これまで困難だった大規模な学習モデルを活用した研究に着手でき、機能開発の幅が大きく広がった。
- エンジニアが先進的な技術に挑戦しやすい環境が整ったことで、製品を継続的により良くしていくサイクルが生まれ、ユーザーに提供する価値も高まることが期待される。
イラスト・マンガ・Webtoon・アニメーション制作アプリ「CLIP STUDIO PAINT」で知られる株式会社セルシスは、「クリエイションで夢中を広げよう」というミッションのもと、クリエイターの創作活動を支援し続けている。同社の製品は国内外を問わず広く愛用されており、全世界で5,500万人以上に利用されているという圧倒的なシェアを誇る。
こうした成功の背景には、継続的な技術革新への取り組みがある。特に機械学習を活用した自動彩色、ポーズスキャナー、トーン消去といった先進的な機能の開発において、GPU技術は不可欠な要素となっている。近年、研究開発フェーズでは大規模な学習モデルの構築が必要となり、従来の計算環境では処理に100日以上を要してしまう。これが継続的に研究開発を進めていくうえで大きな障害となっていた。
この課題を解決するため、同社ではNTTPCを通じて高性能GPUサーバーを導入した。この計算資源の大幅な能力向上により、これまで現実的でなかった研究テーマへの挑戦が可能となった。本インタビューでは、その導入背景や期待される成果、そしてクリエイティブ業界の未来について語っていただいた。
導入製品
NVIDIA RTX™ 6000 Ada×10基搭載サーバー
NVIDIA RTX™ 6000 Ada製品画像(参考: セルシス、最新ハイエンドGPU10基搭載サーバーを導入 グラフィック分野の研究開発を大幅に加速)
「以前からAI技術や機械学習に注目し、自動彩色は10年以上前から研究開発してきました」
――イラスト・マンガ・Webtoon・アニメーション制作アプリ「CLIP STUDIO PAINT」を手がける株式会社セルシスのCTOはそう語る。
同社は「クリエイションで夢中を広げよう」をミッションに掲げ、クリエイターの創作活動を支援する様々なツールやサービスを提供している。その中核となる「CLIP STUDIO PAINT」は、国内外を問わず幅広いクリエイターに愛用されており、特に日本の漫画家の使用率は95%以上[*1]という圧倒的なシェアを誇る。
[*1] 漫画家実態調査アンケート(2021年)マンガ賞/持ち込みポータルサイトマンナビ調べ。
株式会社セルシス 取締役 / CTO 稲葉 遼さま
「現在では学習モデルが大規模化しており、従来のマシンでは100日や200日といった単位で計算時間がかかってしまいます。研究開発を現実的に進めるために、高性能なGPU環境の導入が不可欠でした。」こうしたGPU活用の背景から、今回新たなサーバー導入に至った理由、期待する効果、そして今後の展開について本インタビューで紐解いていく。
【導入の背景】イラスト・マンガ制作におけるAI技術・機械学習機能の先進的な取り組み
株式会社セルシスは、早くから機械学習技術に着目してきた。
「2010年前後からディープラーニングが流行し始めた時期に、新しい技術を使って今までできなかった機能が作れるのではないかと研究開発を始めました。機械学習に限らず、あらゆる技術で研究開発を常に社内で行っています。」
体制と最新技術が支えるエンジニアの研究開発
同社の約55%[*2]はエンジニアであり、他の部署が検証・マーケティング・デザイン・管理などを担うことで、エンジニアは開発に集中できる環境が整っている。
「仕様書作成からテスト項目の作成、最後の実装まで、基本的に一人のエンジニアが担当機能を、責任を持って開発します。リリース後にユーザーからフィードバックをもらった時も、『自分が作ったんだ』という実感を得られる開発体験ができています。」
また、最新機材や技術の取り入れにも前向きである。
「GPUをはじめとする先進的な機材や技術を活用しながら、高負荷の処理や新しいアルゴリズムの検証にも没頭できる環境になっています。一般的なエンジニア職とは少し違う、特別な経験ができると思います。」
このように、ユーザー体験を取り込みながら、一つのプロジェクトに責任を持って携わる――そうした開発体制と先進的な機器が支える技術基盤が、実用的で使いやすい機能を生み出す原動力となっている。
[*2]数字で見るセルシス
「CLIP STUDIO PAINT」のイメージ画像
クリエイターを取り巻く環境や時代に合わせ、トレンドの技術を取り入れた機能開発のひとつが、「CLIP STUDIO PAINT」に搭載されている自動彩色機能だ。この機能は、線画から自動的に色を塗る機能で、研究用のイラストを提供してもらうためのクリエイター参加型の企画も実施している。
「自動彩色機能については、10年以上前に研究を始めて2018年に製品に搭載しました。当時から機械学習的なアプローチで、同意いただいた方から画像を集めて機械学習を行い、一定の成果が得られたため実装したという経緯があります。」
このほかにも、ポーズスキャナーやトーン消去といった機能が同じ発想で生まれており、最新技術を研究し、創作に活用できる機能をユーザーに届けようと磨き上げてきた数々の試みは、同社がAI技術・機械学習に真摯に取り組んできた歩みを物語っている。
【導入の経緯】現実的な研究開発を可能にするGPU環境の必要性
この度、高性能なGPU環境の導入を検討し始めた背景には、近年の機械学習技術の急速な進歩がある。従来の環境では実現が難しかった規模や精度の研究開発に対応するため、新たな計算基盤の整備が不可欠となった。
サーバー室での一枚
「最近では、学習モデルが結構大きな規模になっており、GPUでの高速な計算処理が必要になってきています。一般のマシンで学習を行おうとすると100日や200日といった単位で日数がかかる計算処理があり、1回の実験で100日以上待つ必要がありました。100日も200日もかかる研究なんて、正直現実的ではありません。高性能なGPUを導入することで研究に着手できるようになります。」
研究開発では、一発で良いものができることはなく、何度も試行錯誤を繰り返す必要がある。そのため、1回の実験期間を短くすることの意義は大きい。
クラウドではなくオンプレミスGPUを選んだ決断の背景
また、クラウドサービスの利用も検討したが、様々な課題があることが判明した。
「大手のクラウドサービスに相談もしましたが、オンデマンドでの確保は日本のリージョンでは難しく、米国リージョンでも順番待ちの状況でした。リザーブド契約も可能ですが、今回導入したサーバー費用よりも高額で、データ転送の手間やコストも考慮する必要がありました。」更に、クラウド環境では使用量や時間に応じて課金が発生するため、実験やテストを繰り返すたびにコストが累積していく。特に研究開発のようにトライアンドエラーが不可欠な現場では、この負担は大きな課題となる。
「研究開発では何度も試行錯誤を繰り返す必要があります。クラウド環境ですとトライアンドエラーを繰り返すたびに時間とコストが積み重なっていきます。時間を気にしながらの研究では、本来必要な検証が十分にできない可能性があります。」
こうした状況を踏まえ、同社では社内のオフィスに設置するオンプレミス環境での導入を決定した。
「手元でいつでも使えて、トライアンドエラーでコストを気にすることなく、独占的に計算リソースを使用できる価値は非常に大きいです。自分たちのペースで研究開発を進められることで、制約なく新しい検証に集中できます。」と同社は評価している。
【NTTPCを選んだ理由】
複数のベンダーを検討した結果、NTTPCを選択した理由について伺った。
「クラウドではなく物理マシンを購入するという前提で複数検討しましたが、NTTPCさんは価格面が安く、カスタマイズの選択肢が他社よりも豊富でした。また、問い合わせもしやすく、サポートが充実している印象を受けました。」実際の導入プロセスでも、NTTPCのサポートが役立ったという。
「見積もりを進める中で、構成についてもアドバイスをいただきました。また、機材搬入時には丁寧な設置作業と説明をしていただき、各種質問にもしっかりとお答えいただいて、非常にスムーズに導入できました。」
また、導入に際しては、社内のオフィス設置における電源確保も課題となった。
「200Vの電源が4本必要という要件で、オフィスのサーバールームに設置するために電源工事が必要でした。さらにビル自体の電源拡張も必要になりましたが、年一回の法定点検のタイミングと重なり、工事ができました。非常に良いタイミングでした。」
このように、NTTPCのサポートと適切なタイミングが重なったことで、スムーズな導入が実現した。
【導入がもたらす価値】新たな研究領域への挑戦を可能にする計算基盤
今回のGPUサーバー導入により、同社の研究開発環境は大きく変化した。
「従来のマシンでは実現不可能であった計算が可能となり、単純に研究の幅が大きく広がりました。新しい領域に挑戦できるようになったことで、これまでにない研究テーマにも手が届くようになりました。そこから新しい機能や発見が生まれる期待があります。」
特に期待されているのは、より大規模な学習モデルを活用した新機能の開発だ。
「学習モデルにおいて、データが多い方が良い成果が出るということが2020年代になってから明確になってきました。それを実現できるようになったのは、GPUがあるからです。単純に性能を向上させるだけで、驚くような結果が出る可能性があります。」
また、導入から約1か月が経過した現在、実際に研究開発のプロセスが始まっている。
「現在、ある手法で学習させるためのプログラムを作成し、実際に動かしています。プログラムのバグ修正なども含め、学習がちゃんとしたプログラムでできる状態に持っていくまでにも、様々な試行錯誤が必要です。」
世の中にある論文やソースコードも、そのまま新しい環境で動作するとは限らず、マシン固有の調整が必要な場合も多い。このような日々の試行錯誤とGPUの計算力が組み合わさることで、研究開発のプロセスは着実に前進していき、社会に新たな価値をもたらしていく。
【今後の展開】GPUテクノロジーがクリエイティブ業界にもたらす変革
リアルタイムレンダリングや並列処理のような、GPUテクノロジーの進化がクリエイティブ業界に与える影響について、同社では次のような展望を示している。
「GPUはそもそもグラフィックス プロセッシング ユニットの略で、クリエイティブの要求に応えて作られてきた技術です。これまでもクリエイティブ業界に大きな影響を与えてきましたし、これからもずっと与えていく技術だと考えています。」
特に映像やCG、デジタルイラストレーションの分野では、GPUとの関係はもはや切っても切れないものとなっている。
「映像、CG、デジタルイラストレーションの業界においては、共に歩んでいく関係にあるのがGPUです。これからも継続的に影響を与えていくテクノロジーだと思います。」
こうしたテクノロジーの進化を前提に、同社はアプリケーション開発の側面からも創作環境を進化させていく構えだ。
技術と創作の楽しみのバランス
最後に、同社は創作の効率性向上だけでなく、クリエイターが創作を楽しむ体験を尊重した機能開発を目指すことを語った。
「CLIP STUDIO PAINTでは創作に役立つ様々な機能を提供していますが、クリエイターにとっては『創作を楽しむ』ということが重要な要素なのではないかと考えています。」
特に趣味で創作活動を行うユーザーに対しては、効率化よりも楽しさを重視したアプローチを取っている。
「趣味で絵を描いている方は、効率よく絵を描きたいという話ではなく、制作過程そのものにも楽しさを見出されています。そういう方々に対しては、創作がもっと楽しくなるような機能を提供することが大切だと考えています。」
一方で、プロフェッショナルユーザーに対しては、ワークフロー効率化を支援する機能も充実させている。
「業務で使われる方向けには、大量一括処理機能やカラープロファイル設定など、ワークフロー効率化に資する機能も提供しています。ユーザーのレベルや用途に応じて、適切な機能を適切な形で提示することを心がけています。」
こうした機能開発の根底にあるのは、「クリエイションを取り巻く全ての人をデジタル技術でサポートする」という方針だ。
株式会社セルシスは技術革新と創作文化の発展のサポート、その両立を目指し続けている。
営業担当 貴村と 稲葉 遼さま
GPU製品・サービス
AI / IoT、デジタルツイン用途に適したGPUサーバーを設計・構築。さらにデータセンター・ネットワークなど、GPU運用に必要なシステムをワンストップで提供可能。
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